第九章第24話 残されし者たち(3)
2021/07/08 誤字を修正しました
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セムノスにおける調査で何も成果を得られなかったクリスティーナたちは、東海岸周辺を調査して回ったのち王都へと戻ってきた。
「クリスさん。今度はどこに行くんですか?」
馬車を降りたルミアがクリスティーナに尋ねる。
「まずは神殿に行って祈りを捧げようと思う。それから今度は西のロンベリア半島を探そう」
「ロンベリア半島?」
「ああ。ブラックレインボー帝国へ向かうときに通ったリリエヴォは覚えているな?」
「はい」
「ロンベリア半島はそこらさらに南にある半島だ。あの辺りにはあまり人は住んでおらず深い森が広がっている。船乗りたちの話では可能性は低いかもしれないが、万が一という可能性があるからな。そのままぐるりと海岸線をなぞって南東のファレン半島までくまなく探そう」
「はいっ!」
「拙者もそれで良いでござるよ。とはいえ、まずは神殿でござるな。神が聖女を選ぶというのなら、拙者たちが神に祈ることにも何か意味があるかもしれないでござるからな」
「ああ」
こうしてクリスティーナたちは歩いて神殿へと向かうと、一般の礼拝者と並んで祈りをささげた。
やがて祈りを終えたクリスティーナたちが神殿から出ようとしたところで神官の一人が声をかけてきた。
「これは! クリスティーナ様にシズク様、それにルミアさんではありませんか。ちょうど良いところにいらっしゃいました」
「神官殿。どうかなされましたか?」
「はい。聖女に関するかもしれないご神託が下ったとのことです」
「なっ!? それはどのような!」
クリスティーナはその言葉に食いついた。
「それはここでお話することではありません。ご同行頂けますか?」
「ああ。もちろんです!」
「では、こちらへ」
こうしてクリスティーナたちは神殿の奥へと通された。
◆◇◆
「聖騎士クリスティーナ、聖騎士シズク・ミエシロ。そしてルミアよ。お久しぶりですね」
通された小部屋には教皇がやってきた。
「教皇猊下。聖女に関するご神託が下ったのですよね? それは一体どのような?」
「それが、我々も大変困惑しているのです」
「え!? 猊下。それは一体?」
「下されたご神託が、我々には理解のできない言葉で行われたのです」
「理解できない? ご神託が曖昧表現で行われるのはいつものことではありませんか?」
「そうではないのです。解釈ができなかったのではなく、文字そのものを読むことができなかったのです」
「え?」
「こちらを」
そう言って教皇は一枚の紙を差し出した。そこには何やら文字のようなものが綴られている。
「これは?」
「神託は聖なる
「はい」
「これは、下されたご神託をそのまま我々の手で書き写したものです」
「これが……? ですがこの文字は……」
「知らない文字でござるな」
「そう。我々の知る文字ではないのです。神は我々に何かを伝えるためにご神託を下されたはずで、時期から考えると聖女に関する内容だろうとは思うのですが……」
「そうですか……」
クリスティーナとシズクは明らかに落胆した表情を見せたるが、ルミアがゆっくりと口を開いた。
「……聖なる……乙女は、精霊に祝福? 太陽と月は、えっと、なんとかを、照らす?」
「ルミア? 読めるのか?」
「はい。だって、これはあたしたちエルフのちょっと古い文字ですから。ところどころ読めないですけど、大体こんな感じだと思います」
「それは、聖女が選定された際に下されるご神託の前文です。しかし、何故エルフの文字で?」
教皇は怪訝そうな顔をするが、すぐにハッとした表情になる。
「そういうことですか! フィーネ嬢、いえ聖女フィーネ・アルジェンタータ様はハイエルフの血筋に当たるお方。であれば、ルーツたるエルフの文字でご神託が下されるのも……いや? だが聖女様は人族の文字をお使いだったはず。であればそのようなことは?」
やや興奮気味で喋った教皇だったがすぐにトーンダウンしていく。
「猊下。理由は分かりませんが、フィーネ様は白銀の里で精霊とご契約なさいました。それが理由かもしれません」
「……そう、かもしれませんね」
そうは言ったものの、教皇はまだ納得していない様子で首をひねっている。
「聖女選定のご神託が下されたということを考えれば! フィーネ様はご存命でらっしゃるということですね!」
クリスティーナは前のめりになって教皇に確認する。
「状況から考えれば、そういうことで間違いはないでしょう」
「であれば! ルミア、シズク殿。こうしてはいられない。早く探しに行こう」
「いや、待つでござるよ。ルミア殿、この神託の続きは読めないでござるか?」
「えっと、はい。二つの光は、ええと、ここは読めません。次は、闇よりいずる、あ、違いますね。えっと、闇より生まれし者が恐怖と絶望をもたらす? 光が祝福されし刻、乙女は再び降り立つであろう。こんな感じです」
「……闇より生まれし者が恐怖と絶望をもたらす?」
「ブラックレインボーでのことを考えるなら、これは魔物のことを指すでござるか?」
「そうかもしれないな」
「となると、この『光が祝福されし刻』とやらになるまで拙者たちはフィーネ殿に会えないという意味でござるか? 降り立つとは、どういう意味でござろうな?」
「かもしれん。一つ前の二つの光りのところには何が書かれていたのだろうか?」
「ごめんなさい。ちょっと文字になっていなくて……。もとの文章は残っていないんですか?」
「残念ながら。水鏡に下されたご神託は時間と共に消えてしまうため、残っていなのです」
「そうですか……。んー」
ルミアはそう言って再び紙をじっと見ては難しい顔をした。
「ダメです。やっぱり何だかさっぱりわかりません」
そう言ってルミアはため息をついた。
「いや。こうしてフィーネ様が生きているということが分かっただけでも十分だ。ありがとう、ルミア」
「いえ……」
ルミアは小さく頬を掻いた。
「となると、闇雲に探すよりは魔物退治を優先したほうが良いということでござるか?」
「どういうことだ?」
「『光が祝福されし刻』とやらになるまでフィーネ殿には会えないと神が言うのであれば、闇雲に探しても意味がないでござろう? であれば、それまではフィーネ殿がいつ戻ってこられても良いように魔物を退治しておいたほうが良いと思うでござるよ」
「……そう、だな。探すのをやめるつもりはないが、立ち寄った先ではもっと魔物退治をしたほうが良いかもしれないな」
「クリスさん。それじゃあ、結局ロンベリア半島に行くんですか?」
「いや、そういうことであれば魔物の被害の多い場所に行ったほうが良いかもしれん」
「それでしたら、ファレン半島方面へ行かれてはいかがですかな?」
「ファレン半島へ?」
「ええ。ファレン半島の村々では最近、魔物が増えて苦しんでいると聞きます」
「ファレン半島といえば、南東だ。であれば船乗りたちの話とも一致する。どのみちそちらまで行くつもりだったのだ。先にそちらへ行っても良いだろう」
「そうでござるな」
「はいっ!」
「ええ。あなた方に神のご加護のあらんことを」
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