第八章第41話 後始末

翌日、シャルはリシャールさんとエミリエンヌさんに守られながらベレナンデウアと旅立っていった。


そのままホワイトムーン王国の船に乗って帰国し、聖衣とユーグさんの聖剣を返還するのだという。


その後はそのままガティルエ公爵領に戻るのだそうだ。それからは一人の公爵令嬢として政略結婚をすることになる可能性が高いそうだが、いずれにしろ聖女としての活動には終止符を打つことになるらしい。


いつ頃になるかは分からないが、私はホワイトムーン王国に戻ったらシャルを尋ねる約束をして旅立つ彼女を見送ったのだった。


もちろん本音を言えば私もシャルと一緒にホワイトムーン王国へと帰りたかったのだが、サラさんに頼まれてもうしばらくこの国に残ってやらなければならないことができてしまったのだ。


というのも、アルフォンソが『進化の秘術』を使いまくったせいであちこちの町で瘴気によって汚染された土地が大量にできてしまったのだ。これを浄化するにはリーチェの力が必要となる。


これは私にしかできないことなので仕方がないだろう。


瘴気を放置しておけば毒の沼ができ上がったり草木が枯れたりするし、瘴気は魔物が人間を襲う原因でもあるらしい。それに人々の性格にも悪影響を及ぼしているらしいことも分かっている。


それにあまり瘴気が濃くなり過ぎれば人間に悪い影響を与えてしまい、『進化の秘術』的な現象が起きて魔物になってしまう可能性だってゼロとは言い切れないだろう。


であれば、瘴気を浄化してその被害を抑えるために私は頑張ろうと思う。


せっかくサラさんが国を取り戻して、ボロボロにされてしまったこの国を立て直そうとしているのだ。


これからルマ人たちだって移住してくるのだから、その時に瘴気と魔物だらけの国だったら悲しい思いをさせてしまうだろうからね。


◆◇◆


そんなわけで私は帝都内にできた瘴気の浄化にやってきた。帝都はアルフォンソが黒兵を作る拠点となっていただけあってかなり汚染が進んでいるらしい。


この町は白い建物がずらりと並んだとても美しい町並みなのだがところどころに汚染された場所があり、その一帯がまとめて廃墟と化しているのだ。


「はあ。ひどいですね」

「全くです」

「でも、このくらいの広さならすぐですね。リーチェ。お願いします」


私はいつも通りリーチェを呼び出すと花びらを降らせ、そして種を蒔いて浄化した。いつも通りのお仕事だ。


ちょっと違うとすれば、遠巻きに大量の観衆がいてマッスルポーズをしているくらいだ。


いや、ちょっとじゃなくてかなり不思議な光景かもしれないね。まあ、いつも通りの光景ということにしておこう。


はあ。それにしてもやっぱりマッスルポーズは慣れない。まだイエロープラネットのビタンの方がお祈り風ではあると思う。


と、そう思って思い返してみたがやっぱりあれはあれで異様だったかもしれない。


ま、あの国に行くことは多分もう無いだろうしどうでもいいか。


「聖女様。お疲れ様でした」

「ありがとうございます。次ですね。案内してください」

「ははっ!」


私は案内の兵士に従って馬車に乗って次の汚染場所へと向かい、同じようにそれを浄化していく。


こうして私は一日に五ヵ所の瘴気だまりを浄化して今日の仕事を終えたのだった。


なんでも、ここ帝都だけでもこうした汚染地域がまだ百か所以上もあるらしい。


本当にアルフォンソは迷惑なことをしてくれたものだ。それとアルフォンソに入れ知恵した魔の者も、だ。


見つけたら絶対にとっちめてやろうと思う。こんな危険な術を研究しているなんてどうせろくでもないやつに違いないからね。


◆◇◆


それからしばらく経ち、気が付けばもう 9 月の下旬になっていた。ブラックレインボー帝国の各地を浄化して回った私たちもついにホワイトムーン王国へと戻ることとなった。


これでようやくシャルと会うことができる。元気にしていてくれればいいのだけれど。


そうそう。来年の頭にはサラさんの戴冠式が行われるらしい。サラさんにはぜひそれまでは帝都に留まって戴冠式に出席して欲しいとお願いされたのだが、私はそれを断った。


クリスさんに聖女はあまり政治に関わらないほうが良いとアドバイスされたからだ。あまり聖女様人気が高まりすぎてサラさんの求心力にケチがつくようなことになっても嫌だしね。


それから、サラさんは約束をしっかり守ってホワイトムーン王国で保護されているルマ人たちを移民として受け入れた。


彼らは続々とブラックレインボー帝国に渡ってきて、ブラックレインボー帝国の各地で新しい生活を始めているそうだ。


そこで私は、ルマ人たちの聖剣であるルフィカールをサラさんに託した。サラさんはルマ人たちを束ねる皇帝でもあるのできっと良いようにしてくれるのではないかと思う。


「それじゃあ、サラさん。お元気で」

「聖女フィーネ・アルジェンタータ様。サラ・ブラックレインボーが我が帝国国民全てを代表して御礼申し上げます。聖女様に頂いたこのご恩は我が国の続く限り語り継ぎ、永遠の感謝を捧げることをお約束いたします」

「大げさですよ。色々とありましたけど、当然のことをしただけです」

「……聖女様! その、前にも申し上げましたが何かお礼を……」

「アルフォンソのせいで国が滅茶苦茶になってるんですから、今は頑張って復興してください。そうしたら何か考えますよ」

「聖女様……かしこまりました」


サラさんはそう答えるとマッスルポーズ決め、それからさらにブーンからのジャンピング土下座を決めた。


おおっと。突然のことで驚いたが指先まできっちりと伸びており中々の演技だったのではないだろうか? ジャンプにはキレがあったし土下座のフォームも良かったと思うのだが、繋ぎの部分に少し雑なところがあったのは減点ポイントだろう。


うーん。迷うところだが 7 点、といったところかな?


「神の御心のままに」


それからサラさんが起き上がったので意図を尋ねてみた。


「どうしたんですか? サラさんたちの祈り方とは違いますよね?」

「はい。ですが、ルマ人たちの祈り方はこうですから。わたしたちは彼らを民として受け入れるのですから、当然彼らの祈りにも敬意を払うべきです。それに、聖女様の祈り方でもありますからね」

「そ、そうですか」


いや。私は別に……。


まあ、ここで下手に言い訳をしても面倒なことになるだけなので否定はせずにそのまま流しておこう。


「あ、そうだ。どうせなら最後にまた占いでもしてくれませんか?」

「まぁっ。お安い御用です」


そしてサラさんは水晶玉を取り出した。


「見えます。聖女様には……魚難の相が出ています。どうぞ、魚にはお気を付けください」

「魚難?」

「わ、私にはいかがですか? 鳥難の相は出ていないですか?」


クリスさんが青い顔をして尋ねている。


「クリスティーナ様には……この先困難が待ち構えていることでしょう。ですが聖女様を信じ、努力を続けることでそれは必ず乗り越えることができるでしょう」


おや? 普通の占いだね。


「あ、れ? 不思議ですね。シズク様とルミア様にも同じ結果が出ています」

「ふうん?」


それって珍しいのかな?


「詳しいことはよく分かりませんが、きっと皆様にはこれから先に多くの試練が待っているという暗示なのではないでしょうか?」

「そうかもしれないでござるな」

「大丈夫ですっ。姉さまと一緒ならなんだって頑張れますっ」

「そうだな、ルミア。フィーネ様。これからも精進し続け、必ずやお役に立ってみせます」

「ありがとうございます」


魚難の相くらいならきっと可愛いものだろう。前回は大いなる災いがどうのと、やたらと脅されるような内容だったしね。


あ、でもクリスさんの鳥難の相はアレだったね。ああいうのじゃなければ良いのだけれど。


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紅白法師先生による本作のカバーイラストが完成しました。第一章のころの懐かしいドタバタな様子を思い出して頂けるかと思います。


現在は口絵や挿絵なども準備するとともに文章をほぼ全面的に書き直し、内容にも修正を加えております。ギャグ優先で色々とおかしかった部分も修正されてますのでどうぞお楽しみに!


https://cdn-image.alphapolis.co.jp/story_image/312350/60978781-9e08-4044-9cd0-78c70a1100cc.jpeg


なお、次回更新は 2021/05/13 (木) 19:00 を予定しており、次話で第八章完結となります。

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