第八章第36話 不死のアルフォンソ

2021/12/12 ご指摘いただいた誤字を修正しました。ありがとうございました

================


私の作り出した防壁は何とかサラさんの方に飛ぶエネルギー弾を受け止めた。


「ククク。やるではないか。だが、これで弱いほうの聖女は自らの聖騎士に殺されるのだ。クハハハハハ」

「そんなことはありません。シャルは強い女性です。きっと、ユーグさんを助けてくれます」

「フハハハハハハハ。私の呪い程度も見抜けぬ無能に何ができるというのか!」

「クリスさんだっています!」

「ふ。弱いほうの聖騎士がいたところで、魔物へと進化したユーグを倒せるわけがなかろう」

「どうですかね? それに、そんなよそ見をしていると」

「また首が飛ぶでござるよ?」

「浄化!」


私はシズクさんが飛び込むのに合わせて浄化魔法を叩き込んだ。


「ん? 誰の首が飛ぶのだ? ああ、この裏切者の兵士のことか」


だがアルフォンソはシズクさんの一撃を避けており、しかも黒兵と戦っていた私たちの兵士の一人の頭を鷲掴みにしてぶら下げている。


「くっ」


シズクさんは悔しそうに顔を歪めた。


悔しいが、私にはアルフォンソの動きが見えなかった。


となると私よりも AGI の低いクリスさんでは厳しかったかもしれない。やはりクリスさんにユーグさんをお願いして正解だったようだ。


「フハハハハ。シズク、といったか? 中々良い素体ではないか」


そう言ってアルフォンソは兵士を無造作に投げ捨てた。少し離れた場所に落下した彼はそのまま地面に横たわりピクリとも動かない。


「あのような脆い素体ではただの黒兵になるだけだからなぁ」

「実験材料になどならないでござるよ」

「そう言うな。ククク。喜べ。貴様には私が自ら進化させてやるという栄誉をやろうではないか。貴様を進化させれればさぞかし強い魔物ができるだろうなぁ。ククク。クハハハハハハ」

「……お断りでござるよ」

「では、力ずくで素体にしてやるとしよう」


アルフォンソが一気にシズクさんとの間合いを詰めた。その動きに反応したシズクさんは居合斬りを放つが、アルフォンソはそれを紙一重で躱しすとアルフォンソの右の拳がシズクさんを襲う。


シズクさんは体のひねってそれを避けるが、アルフォンソは逃がすまいとラッシュを仕掛けてきた。右、左と次々に打ち込まれる拳をシズクさんはステップバックしながら躱し、そして刀を上段に振りかぶった。


それを隙と見たのかアルフォンソは距離を詰めてボディーを打ち込もうとするがそこにシズクさんの前蹴りがクリーンヒットした。


「がっ」


怯んだアルフォンソにシズクさんは上段からの強烈な振り下ろしが襲いかかる。


それに対してアルフォンソは慌ててステップバックして距離を取ろうした。


これはチャンス!


私はその背後に防壁を作り出す。


「なっ!?」


突如後ろに下がることができなくなったアルフォンソは慌てて体をよじってシズクさんの一撃を躱そうとするが時すでに遅しだ。


シズクさんの一撃は確実にアルフォンソの顔面を捉え、そのまま体ごと真っ二つに切り裂いた。


「浄化!」


私はそこにすかさず浄化魔法を叩き込む。


「ぐおおぉぉぉぉぉぉぉ」


アルフォンソがはじめて苦しそうな声を上げた。そして私の魔法は確実な手応えと共にアルフォンソを浄化していく。


やがて浄化の光が消えるとそこには真っ二つとなり地面に倒れたアルフォンソの姿があった。


「口ほどにもないでござるな」


シズクさんはそう言ったが、何かがおかしい気がする。


この違和感は何だろうか?


「シズクさん。これは本当に倒したんでしょうか?」

「……動いてはいないでござるが……」

「ま、まだみたいです。姉さまっ」


ルーちゃんが怯えた様子でそう訴えてきた。


「ククク。なぜわかった?」


真っ二つになったアルフォンソがまるでホラー映画のようにむくりと起き上がり、やがてくっつくと元の姿へと戻った。


無傷のアルフォンソは不敵な笑みを浮かべてこちらを向いている。


「精霊が……怯えているから……」

「ククク。そういえばエルフは精霊と会話ができるんだったな。ならば、これで邪魔な精霊も寄っては来まい」


アルフォンソの体から黒いもやが噴き出すと周囲の木々を枯らしていく。


「あっ! このっ! なんてことをっ!」


ルーちゃんが矢を番えるとアルフォンソに向けて放った。


私の浄化魔法が付与されているはずのその矢はアルフォンソの体から噴き出す靄に阻まれてその場に落下する。


「ん? 何かしたか? エルフの娘よ」

「ううっ」


なるほど。レベル 3 の浄化魔法を上回るほどの強力な瘴気という事か。


いや……これはちょっとおかしい。先ほどアルフォンソにぶつけた浄化魔法はレベル MAX のものだ。それがどうして効かなかったのだろうか?


「ククク。『進化の秘術』への対抗策として聖女の浄化魔法を持ってきたのだろうが、残念だったな。その程度のことはすでに対策済みよ」

「なっ!?」

「クハハハハハハ。ホワイトムーン王国では貴様の浄化魔法のせいで実験材料の確保が中途半端に終わったのだ。ならば、その対策を立ててからもう一度攻めるのが当然だろう? 私は衝動だけで動く魔物ではないのだからな。ククク。クハハハハハハ」


なるほど。だが一体どうやって?


瘴気であれば浄化魔法で浄化できるはずなのに!


「さあ、もう打つ手なしか? ククク。クハハハハハハ」


アルフォンソは黒い靄を剣の形に変形させるとその手に持った。


「さあ、そろそろ私も剣を使ってやろうじゃないか。フハハハハハハハ」


==============

次回更新は、2021/04/25 (日) 19:00 を予定しております。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る