第八章第33話 決断

2021/04/15 誤字を修正しました

==============


「さあ、ユーグよ。弱いほうの聖女、いや聖女シャルロットとサラ・ブラックレインボーを殺せ!」

「グォォォォォォォ!」


ユーグさんらしい巨大な魔物は雄たけびを上げると大きく跳躍してシャルに向けて手に持った木を叩きつける。


「防壁!」


私はそれを防壁を使って防ぐ。


「おっと、私から目を離してよいのか? 強いほうの聖女よ」


一瞬で私の前に現れたアルフォンソは私の顔面に思い切りストレートを放つ。


しかしクリスさんは再び私を抱えると地面に転がり、そこにシズクさんが飛び込んできては居合斬りを放った。


シズクさんの一撃はアルフォンソの右手を斬り飛ばし、そして返す刀でアルフォンソの体に袈裟斬りを叩き込む。


完ぺきに捉えたかと思えたその一撃だったかが、アルフォンソは残像を残して躱しており、十メートルほど離れた場所に平然と立っている。


「くくく。やるではないか。弱いほうの聖騎士よ。強いほうの聖騎士も聞いていたほどではなかったからな。てっきり今の速さには反応できないと思っていたのだがな。ククク」


そうアルフォンソ不敵に笑った。


「大したことなかった? という事はホワイトムーン王国でユーグさんをさらったのは!」

「ククク。この私だよ。最初から強い意志と力を持つ実験体が欲しくてな。そもそも私が軍を向けたのはな。国に残っているという情報のあった聖騎士ユーグを捕えるためなのだよ」

「そんなことのために戦争を!」

「ククク。それに黒兵の材料もたくさん手に入ったからな。良い狩りだったぞ。クハハハハハ」


……こいつは!


そして高笑いをするアルフォンソの右腕が生えてきてはあっという間に元通りになった。


「やはり、再生するでござるか」

「ククク。当然だ。黒兵どもに不死身の体を与えてやったのはこの私なのだからな。クハハハハハ」


厄介だ。あれだけ素早いと浄化魔法を当てるのは難しそうだ。どうすれば……。


私が思案しているとシャルの悲痛な叫び声が聞こえてきた。


「ユーグ様っ! わたくしです! シャルロットです! ユーグ様っ!」

「グガァァァァァァァ」


シャルが私の防壁に守られながらも必死にユーグさんらしい魔物を説得しようとしている。


「ククク。愚かだな。あやつにはもう人間だった頃の意識など残っていないというのになぁ。もはやあれは身も心もただの魔物だ。瘴気から来る衝動に突き動かされてただ暴れるだけのな。ククク。クハハハハハ」

「……それがどうしてあなたに従っているんですか?」

「ククク。それこそ当然のことではないか。魔物はより強い者に従うのだよ」

「っ!」


やはりそうか。アーデの話や魔物暴走スタンピードの件で何となくわかっていたけれど、やはり魔物には主従関係を結ぶ何かがあるのは確実なようだ。


だから黒兵も、そしてユーグさんらしい魔物もそれに従っているという事なのだろう。


ということは、アルフォンソはやはり並大抵の相手ではない。そしてアルフォンソのあのスピードははっきり言って脅威だ。


となると今の戦力では……。


「さあ、どうするのだ? 強いほうの聖女よ。クククククク」


どうやらこいつはよほどの自信があるらしい。


「サラさん。黒兵たちとの戦いの指揮をお願いします」

「はい」


そう答えたサラさんは私たちから離れていった。きっとアルフォンソに自らの手で止めたいという気持ちはあるのだろうが、それでは私たちの足を引っ張ってしまうであろうことを理解しているのだろう。


それから私はゆっくりと口を開いた。


「……クリスさん。シャル達とサラさんの援護をお願いします。その間、私たちでアルフォンソを止めます」

「え? フィーネ様?」


クリスさんがショックを受けた様子で、私を守りたいと表情で訴えてきている。


もちろんこんなことをお願いするのは心苦しい。だが、多分こうしなければだめだ。本当はパーティーを分けたくはないが、そもそも圧倒的に戦力が足りない。そんなことを言っている場合ではないのだ。


それに申し訳ないが、きっと今のクリスさんの実力ではアルフォンソにやられてしまうだろう。自分のステータスが上がってきたからこそなのかもしれないが、何となくそう理解できてしまったのだ。


「クリスさん、お願いします。どうにかしてユーグさんを止めないと全滅してしまいます。それには私の魔法が無くても浄化できるクリスさんの力が必要なんです」

「フィーネ様……」

「クリスさんがユーグさんを助けるまでの時間稼ぎをしますから」

「……わかりました」


クリスさんは悔しそうに、だがそう言うとシャルの方へと向かっていった。


これでいい。後は結界でルーちゃんを守りながらシズクさんの攻撃に合わせて何とか浄化魔法を叩き込むしかない。


「どうした? 作戦会議はもう終わりか?」

「はい。待っていただきありがとうございます」

「くくく。死にゆく者同士、別れの言葉くらい話す時間はくれてやるぞ?」

「いいえ、結構です。私たちが勝ちますから」

「くくく。くはははははは。威勢のいいことを言うではないか。ではまずはそのエルフの小娘から殺してやろう」


そう言ってアルフォンソは黒いオーラを槍状に変化されると目にも止まらぬ速さでルーちゃんに撃ち込んできた。


「結界」


私は遠慮なしのフルパワーで防御結界を張ってそれを受け止める。


ガシン、と激しい音と共に私の結界にぶつかったそれは一瞬で霧散した。


「ほう、やるではないか」

「あなたごときでは私の結界を破ることはできませんよ」

「くくく。言うではないか。ならばこれでどうだ!」


黒いオーラが収束すると巨大なエネルギーの弾となってアルフォンソの前に現れる。


だが次の瞬間、一気に間合いを詰めたシズクさんがアルフォンソの首に一閃した。


とさっ。


そんな音を立ててアルフォンソの首が地面に転がるとすぐにエネルギー弾が暴発してその場で巨大な爆発を引き起こした。


激しい爆風と共にもうもうと土煙が舞い上がり、それから土煙がゆっくりと晴れていく。


「無傷、でござるか」


そう。シズクさんの言うとおり、アルフォンソは何事もなかったかのようにその場に立っていたのだった。


「手ごわいですね」

「姉さま……」


ルーちゃんが不安そうな表情を浮かべている。


「大丈夫です。私の結界は絶対に破れませんから」

「はい……」

「くくく、やるではないか。どうやらその結界を砕くのには骨が折れそうだ。さすが、強いほうの聖女。噂にたがわぬ実力だ」

「それはどうも」

「だが、他の者を狙ったらどうかな?」

「え?」


アルフォンソはそう言っていやらしい笑みを浮かべると少し離れて黒兵たちとの戦いを指揮しているサラさんの方に指先を向ける。そしてその指先に先ほどのエネルギー弾を出現させた。


「ぐっ。クリスさん! シャル! そっちはお願いします!」


私は防壁を解除するのとその弾がサラさんの方に放たれたのは同時だった。


間に合え!


「防壁!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る