第八章第16話 尋問
2021/03/30 誤字を修正しました
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ウルバノ将軍が倒れた途端、周囲の死なない兵たちは一切の統率を失い、敵味方の区別なく人間を襲い始めた。
「うーん? これはどうなってるんですかね?」
結界の中で、私たちの近くにいた死なない兵士は私たちを、ウルバノ将軍たちの向こう側にいた者たちは敵兵を攻撃している。
「わかりませんが、死なない兵は全て排除しましょう。
久しぶりに恥ずか……ゲフンゲフン、素敵なネーミングセンスの魔法剣を発動させ、私のほうへとやってくる死なない兵をばっさばっさと斬り捨てていく。
そんな様子を横目に見ながら私はシズクさんが倒した死なない兵に浄化魔法を撃ち込んでいく。
やがてすぐに結界の中にいた死なない兵は全て塵となって消滅した。
私はあらためて周囲を見回すと独り言を呟いた。
「すごい、数ですね」
すると独り言が聞こえてしまったらしい隣のサラさんが不安そうな様子で私に聞いてきた。
「あ、あの、聖女様。結界が破られるということは……」
「あの程度の力なら絶対に大丈夫ですよ」
そうは答えたものの、アイロールで将棋倒しの事故が起きたあの時以上の数の死なない兵が私の結界を破ろうと手に持った剣で乱暴に結界を攻撃している。
結界が破られはしないだろうが、ちょっと面倒であることは間違いない。
となれば、よし。
「ルーちゃん。ちょっと結界の外の死なない兵に風の刃を撃ち込んで貰えますか?」
「はいっ!」
マシロちゃんの放った風の刃が死なない兵を襲い、そのうちの何体かが地面に倒れた。
私はすかさずそこに浄化魔法を撃ち込んで塵へと変えてやる。
「任せるでござるよ!」
それをチャンスと見たシズクさんがそのわずかなスペースに飛び込むと次々と死なない兵を輪切りにしていく。
まさに無双とはこのことだろう。
最初から強くはあったけど、シズクさんは反則級のチートキャラに成長したよね。
ミヤコでは肝を冷やしたけれど、あれがなければ今私たちはこうして生きていられなかったかもしれない。
特にレベルが高い人はレベルアップするのに必要な経験値がかなり多いみたいだし。
ああ、そうそう。最近、私はこのレベルの上がりづらさに思うところがある。だって、あまりにもバランスが悪すぎると思う。それこそ、強い人間が生まれないようにあのハゲた神様が制限をしているのではないかとつい邪推してしまうほどだ。
というのも、クリスさんはこれだけ一緒にいて修行だってちゃんとしているのにレベルがまるで上がらない。それに対してシズクさんは強いのにレベルアップを繰り返しているおかげでどんどん強くなっているのだ。
いくらなんでも不公平ではないだろうか?
それこそクリスさんも存在進化できればいいのに、とは思うのだけれど。
あれ? そういえば人間は何に存在進化するんだろうね?
そんなことを考えつつも私はシズクさんの倒した死なない兵を次々と塵に変えていく。
それから私は MP ポーションを何本も飲まなければならないほど大量の死なない兵をほぼ一人で浄化し、バジェスタを包囲していたウルバノ将軍率いる敵部隊は完全に壊滅したのだった。
****
バジェスタの町は歓喜に包まれていた。
絶望的と思われた包囲戦から解放された喜びに加え死んだと
人々は口々に喜びを語り、久しぶりの酒を飲んでは大騒ぎをしているらしい。
一方の私たちはというと地下牢に幽閉したウルバノ将軍たちの尋問をしている。
あ、ちなみにルーちゃんはこの建物の上の階で何かをご馳走になっているはずだ。
「ウルバノ! なぜ魔の者と手を組んだアルフォンソに
「……」
サラさんの
どうやら一切話す気は無いようだ。
「ウルバノ! 何とか言いなさい!」
「……」
すると彼の口が小さく動いた。
他の人たちには聞こえていないようだが私の耳にははっきりと聞こえた。
「変わっておられない。良かった」と、呟いたのだ。
どうやらこの人は何かを知っていそうだし、それに事情がありそうな気もする。私がちらりとクリスさん、それからシズクさんと順に視線を送ると二人とも頷いた。
どうやら同じことを考えているようだ。
よし、それなら。
「サラさん。ちょっと私たちだけで話を聞いても良いですか?」
「え? 聖女様?」
「お願いします」
私がそう言ってサラさんの目をじっと見つめると、サラさんは「分かりました」と言って眉尻を下げたのだった。
****
「……聖女様がこの私に何のご用ですか?」
サラさんたちが退出した後、ウルバノ将軍は
私は防音の結界を張ると自己紹介をする。
「はじめまして。私はフィーネ・アルジェンタータです。防音の結界を張りましたので外には声は聞こえません」
「……」
「シズクさん、お願いします」
「分かったでござるよ。ウルバノ将軍、拙者には聞きたいことがあるでござるよ」
「……シズク・ミエシロといったな。見事な腕だった」
「
あれ? そうだったの?
「……見抜かれていたか」
「あれだけの戦力差で死なない兵が取り囲んでいるなら、力押しで攻め落とせるはずでござる。いや、そうでなければおかしいでござるよ」
「……先帝陛下が討たれ、アルフォンソ様が皇帝として立たれて以来我が国は変わってしまったのだ。あの力に対抗する手段が無ければ抵抗など無意味だ。であれば先帝陛下の愛したこの国の民を守るにはこうして支配を受け入れ、攻めるふりをしているしかなかったのだ」
「どうして、それをちゃんとサラさんに話してあげなかったのですか?」
「私がサラ様に向けて話す言葉は全て呪いとなり、サラ様の命をいずれ奪ってしまう。私にはそのような呪いが掛けられているのだ。あの時も私はついサラ様に言葉を返してしまったのだ。これ以上は!」
ウルバノ将軍はそう叫んでは涙を流した。
「なんだ。そんな事ですか。解呪すれば良いじゃないですか」
「この呪いを解除など――」
「はい、解呪」
私はウルバノ将軍の言葉が終わるのを待たずに魔法を使う。ちょっと頑固な呪いだったが、それだけだ。イメージ的には、頑固な油汚れを魔法を使わないで綺麗にするほうがよほど大変だと思う。
「え?」
ウルバノ将軍が呆けたような表情で私のことを見つめている。
「解呪しましたよ? まるで大したことのない呪いでしたからね。これなら隷属の呪印を解呪するほうがよほど大変ですね。あとでサラさんの呪いを解呪しますので、全てを話してくれますね?」
「あ、あ、あ、せ、せ、聖女様! ありがとうございます! ありがとうございます!」
そういってウルバノ将軍は涙を流しながらマッスルポーズをしようとしたが拘束されていてできないことに気付き、腕のと胸の筋肉をぴくぴくさせたのだった。
ええと……ああ、そうだった。
「神の御心のままに」
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