第八章第11話 出撃
2021/12/12 ご指摘いただいた誤字を修正しました。ありがとうございました
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三日間かけ、私はキトスにある武器の全てに浄化魔法の付与を施した。少し無理をしてかなりの大急ぎでやったのだが、時間がないのだから仕方がない。すでにアルフォンソは北西部の密林地帯を除いたブラックレインボー帝国のほぼ全土を支配下においているのだ。
これから私たちはユスターニの奪還を目指すわけだが、その前にまず私たちはまず高度になれる必要がある。そのため、キトスの南にそびえる山脈を利用して少しずつ高度を上げながら慣らしつつユスターニへと進軍する予定だ。
急いで奪還したいという気持ちもないわけではない。だが慣れる前に戦闘となり、高山病で動けなくなってしまっては元も子もないだろう。
「それではユスターニへ向けて出撃します」
「なっ! サラ様まで前線に出られるのですか?」
サラさんがそうキケさんに宣言するとキケさんの顔が一気に青ざめた。
ここでサラさんを失ったらアウトなことは間違いないだろう。だが、ここに残るよりも私たちといるほうが戦力が整っているので安全なような気もする。
「わたしが戦わずして国を取り戻したところで、一体誰が私を皇帝と認めるでしょうか? わたしはこの国の第一皇女として国のため、そして何より民のために先頭に立って戦う義務があるのです」
サラさんは迷いなくそう言い切り、キケさんはその真剣な表情に押し黙った。
よし。ここは一つ、私がキケさんを安心させてあげよう。
「キケさん。もしサラさんが斬られても私が治療してあげますから安心してください。腕や足の一本や二本くらいどうってことありませんよ」
「は、はは……。ありがとうございます」
キケさんの表情がとても引きつっているけれど、どういうこと?
「フィーネ。キケ町長はサラ殿下が傷つくことを恐れているんですのよ?」
うーん。戦いに出るんだから多少の怪我は仕方ない気もするけれど……。
「じゃあ、私の結界はまだ誰にも破られたことがありませんので安心してください。冥龍王の分体や水龍王の力を宿した
「は、はい。神に感謝いたします」
キケさんは引きつった表情のまま筋肉をぴくぴくさせたのだった。
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そして翌日、私たちはユスターニを目指してキトスの町から出撃した。サラさんを総大将とするキトス攻略部隊の兵士は合計で 300 名、キトスの町に駐屯する兵員の実に半数を投入しているため失敗は許されない。
そこで私たちは主要街道ではなく北の山脈を通る裏街道を使ってユスターニを目指している。
といっても、キトスとユスターニを結ぶ主要街道上の橋を片っ端から落としておいたそうなので、もともと主要街道を使って進軍するのはほぼ不可能な状況らしいけどね。
ただ、そのおかげでキトスの町が攻撃を受ける恐れは今のところほとんどないとのことだ。
私たちの第一の目標は高地順応し、そしてユスターニの状況を探ることだ。だが、私としてはそんなことをしなくてもトレントのように私たちと相性の悪い魔物が出てこない限りは負けないと踏んでいる。
そもそもブラックレインボー帝国の死なない兵が強いのは倒しても倒しても復活してくるところであって、それを封じてしまえばその戦闘能力ははっきり言って低いのだ。
それにもし多少強い相手がいたとしても数が少なければどうとでもなるはずだ。
まさかスイキョウや将軍のような強者が大量にいるとは思えない。
そのため、まず第一に警戒すべきはアルフォンソが手を結んだという魔の者だろう。それと一応ユーグさんが激闘を繰り広げた相手も警戒しておいたほうが良いかもしれない。
ただ、軍が引いたということはユーグさんが戦ったそいつは指揮官で、ユーグさんと相討ちになったのだと思う。
もちろん、そいつが復帰してきている可能性はあるだろう。だが、それでもユーグさんとシズクさんの強さを比較するならばおそらく圧倒的にシズクさんに軍配が上がるのではないかと私は思っている。
だからそいつに関して私はそこまで大きな障害だとは思っていない。
「フィーネ様。どうなさいました?」
私がそんなことを考えているとクリスさんが声をかけてきた。
「いえ。戦力差はどうなのかな、と考えていました」
「そうですね。私の見立てですと――」
クリスさんは先ほど私が考えていたこととほとんど同じ内容を語ってくれた。ただ、一つだけ私とは違うことに気付いていた。
「おそらくですが、アルフォンソは自分自身にも何らかの強化を施していると考えたほうが良いと思います」
「そうでござるな。拙者も同意見でござるよ。サラ殿。どうでござるか?」
「はい。ご指摘の通りです。もともと愚兄はそれほど武に優れているということはなく、ただの剣士でした。ですがこれだけのことをしているとなると、何かあると考えておいたほうが良いでしょう」
そんな会話を交わしつつ、私たちは山を目指して熱帯雨林の中を進むのであった。
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