第八章第10話 キトス

ポイズンティタニコンダとのリベンジマッチに完勝した私たちはリーチェの力を借りて汚染された湖を浄化した。


このまま毒に汚染された状態を放置するわけにはいかないし、瘴気の影響もあるかもしれないからね。


再び険しいジャングルの中をキトスの町を目指して向かって進む。そうして数日歩いていくと突如、木々の間から街壁に囲まれた町が現れた。


「着きました! ここがキトスです!」


サラさんが声を弾ませてそう教えてくれた。


「サラさん。やっと帰ってこられましたね」

「はい!」


そう言ってムキムキとポージングを決め始めたのでいつものやり取りをして復帰してもらう。


「さあ、サラさん。行きましょう」

「はい!」


サラさんは喜びを隠そうともせず、いそいそと町の入口へと歩きだした。


「待つでござるよ。拙者たちと一緒に行くでござる。最悪の場合もあるでござるからな」

「あ! そう、でした。すみません」


シズクさんに呼び止められたサラさんは少ししゅんとなってしまったけど、最悪の事態ってどういうこと?


「さあ、行くでござるよ」


そして私たちは町の入り口となる門の前へとやってきた。門番は二人立っており、さらに壁の上にも何人かが立ち警戒している様子だ。


「止まれ! 何者だ!」


門へと近づく私たちに気付いた門番が大声を上げて私たちを制止した。壁の上にいる人たちにも緊張が走っているようだ。


「……ま、まさか! サラ様! サラ様ではありませんか!」


門番の一人がサラさんの存在に気付いて駆け寄ってきて、すぐさまサラさんの前に跪く。


「サラ様、よくぞご無事で」


その男はそう言うと涙を流した。


「ええ。出迎えご苦労様です。通して頂ける?」

「もちろんでございます! おい! サラ様だ! サラ皇女殿下がお戻りになられたっ!」


大声でその男が叫ぶとそれはすぐに伝わり、門の周辺は上を下への大騒ぎとなったのだった。


****


その後、出迎えの兵士たちに周囲を警護されながら私たちはキトスの町長の館へと入った。


「おお! 殿下! よくぞご無事で!」


少し身なりのいい初老の男性がサラさんの前に跪いた。


「ええ。キケ。わたしが留守の間、よくぞこのキトスを守ってくれました」

「いえ。殿下のなさったご苦労を思えば私めなど」


どうやらこの二人は知り合いのようだ。


「良かったでござるな。これでこの町がすでに敵の手に渡っていたらアウトだったでござるからな」


シズクさんが私に小さく耳打ちをした。


ああ、なるほど。最悪の場合てそういう事か。言われてみれば確かにそうだった。


「ところで、殿下。そちらの方々は?」

「ああ、そうでした。紹介しましょう」


そう言ってサラさんが私たちの方へと一歩近づいた。


「聖女シャルロット様、聖女フィーネ様。この者はキトスの町長をしておりますキケ・ナバーロと申す者でございます」


その名を聞いたキケさんが目を見開いた。


「わたくしはシャルロット・ドゥ・ガティルエですわ」

「フィーネ・アルジェンタータです」

「キケ・ナバーロでございます。おお! 神のお導きに感謝いたします!」


そう言ってキケさんはマッスルポーズをした。


「「神のお導きのまま」」


私とシャルはいつものフレーズで元に戻したが、毎度毎度面倒で仕方ない。


それにしても、だ。


ブーンからのジャンピング土下座もビタンと倒れ込むのも大概だが、一応お祈りのていは保っていると思う。


だが、このマッスルポーズだけはどうしてもお祈りの仕草に見えない。


そもそもの話を言わせてもらえば、この世界にはなぜまともなお祈りの文化が存在しないのだろうか?


こればかりはどうにも謎なのだが……。


「おおお。ホワイトムーン王国のお二人の聖女様にもご協力いただけるとは! これであやつも!」

「ええ。わたくしたちの力で玉座をサラ殿下のものとして差し上げますわ」

「なんと心強い!」


キケさんは感動した様子でそう言うと再びマッスルポーズを始めたのだった。


****


それからキケさんに現在の状況を説明してもらったのだが、どうやら戦況は想像していたよりもかなり悪いらしい。


まず、これは予想通りではあるが帝国の北東部は完全に制圧されているそうだ。


軍港にして最大の貿易拠点でもあったベレナンデウアが陥落してサラさんがそこから落ち延びることになったのだから、これはもともと想定していたことだ。


だが、予想外だったのは私たちが今いるここキトスを含む北西部もほとんど制圧されていたということだ。


特に、ユスターニという町が落ちていた事はかなりまずいそうだ。このユスターニという町は高度 4,000 メートルほどの高地にある。ここへ普段は低地に住んでいる人間が行くと息切れや頭痛、吐き気などを催してまともに歩くことすらできなくなるのだそうだ。


しかも山あいにあるため大軍を一気に行軍させることは難しく、守りやすく攻めにくいのだという。つまり、天然の要塞とも言うべき場所らしい。


要するに高山病にかかるほどの高地にある難攻不落のはずの町を私たちは取り返す必要があるということだ。


「ユスターニはなぜ陥落したのですか?」

「それが、あの兵は死なないのです。高所では動きが鈍ったそうなのですが、殺しても死なない兵を倒すことができずに包囲されてしまい、三か月ほどで陥落したそうです」

「……そうでしたか」


サラさんが悲しそうに顔を伏せた。


「とりあえず武器に付与、ええと、祝福して死なない兵を倒せるようにしましょう」

「死なない兵を倒す方法をご存じなのですか!?」

「はい。その方法でホワイトムーン王国はブラックレインボー帝国を退けましたよ」

「おおお! 聖女様! 聖女様!」


キケさんはそう言って涙を流しながら再びのマッスルポーズを決めたのだった。

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