第七章第8話 砂漠の国の港町
案内されたホテルでもまた一斉にビタンと地面に伏せてお祈りをされ、それをまた同じセリフで立たせてという謎なやり取りをして、ようやく私たちは部屋へと案内された。
さすがにホテルで接客を受ける側なのに祈られるのは勘弁してもらいたいわけだが、無料で泊めてもらっている以上文句言うのはなんとなく
ちなみに、案内された部屋は王都で泊まったホテルや泊めてもらった貴族邸に負け劣らずの豪華なスイートルームだ。主寝室の他に二つも寝室があり、リビングルームまであってお客さんを迎えることもできる。
そして今、私たちはこの町の首長さんと会談をするためにこのホテルの会議室に向かっている。
私たちが会議室の扉の前にやってくると、二人のドアボーイさんが両開きの扉を引いて開いてくれる。
その中では一人の中年の男性が私たちを立って待って出迎えてくれている。そして私たちが彼の前に行くと、再び礼のお祈りからの一連の流れをやってから会談が始まったのだった。
なんだか、このお祈りをするたびにビタンと倒れるのは痛くないのだろうかと疑問に思うのが、意外と慣れたりするものなのだろうか?
いや、もしかすると痛くない倒れ方があるのかもしれない。
「聖女フィーネ・アルジェンタータ様。ようこそ我がイザールへとお越し下さいました。私はこのイザールを治めておりますカミルと申します」
「フィーネ・アルジェンタータです。こちらから順にクリスティーナ、シズク・ミエシロ、ルミアです」
「これはご丁寧に。神に感謝いたします」
そういったこのカミルさん、服装は何だかアラブっぽいような、そうじゃないような、何だか不思議な服を着ている。
頭はあの白くて長い布を黒い輪っかのようなもので留めて被っているが、下は全くそれっぽくない金ぴかの豪華な服を着ていて何ともよく分からない格好だ。
あ、いや。前の世界の基準で考えるからおかしいのであってこの国ではこれが普通なんだろうけれど、それでも私は何とも不思議な気分になる。
「聖女様は我が連邦の大統領にお会いになられたいとのことでございますが、砂漠を渡るには相応の準備が必要でございます。まずは私どもで先触れを出しましょう。そして、その間に聖女様の旅の準備のお手伝いさせては頂けませんでしょうか?」
私はちらりとクリスさんを見るが特に何も言わないので問題ないのだろう。
「ありがとうございます。それでは、お言葉に甘えさせていただきます」
「聖女様のお力になれますこと、大変光栄でございます」
カミルさんは恭しくそう言った。
「急いで準備を整えますので、明後日の朝までお時間を頂戴いたします。お待たせすることを大変心苦しく思っておりますが、何卒ご容赦頂き、その間は我がイザールにてごゆるりとおくつろぎいただければ幸いでございます」
「ありがとうございます」
と、こんな感じでとても和やかな雰囲気の中、何かを要求されるでもなく一方的に協力を申し出てもらっただけで会談は終わったのだった。
****
一日では特にできることもないので、思い思いに散歩をするなどして時間を過ごした。神殿もホワイトムーンやブルースターで見てきたものとは別の形で大きなドームがついているのが何とも異国情緒あふれる感じで興味深かった。
ただ、この国の食事だけはちょっと私の口には合わなかった。
砂漠の国という事で水が少なく、豆が主食として使われているのだが……。
この豆、食べた感じはちょっと風味の薄い枝豆といった感じで豆自体はそこまで不味くはない。ただ、これが料理になった時はちょっと頂けない。
基本的にスープに入れて煮込んだ状態で出てくるのだが、なんと言うか、こう、味がしないのだ。
何故か分からないのだが、スープの中に肉類や一切入っていないのだ。そうすると当然出汁も出ていないわけで……。
せっかくの港町なのだから海の幸で出汁を取ればいいと思うのだが、何故か魚介類のスープは存在しないのだ。
スープは決まって野菜と豆で、しかもそれが毎食出されるのだ。
しかしどうやら肉食や魚介類を食べないというわけではなく、全て塩焼きのみ、というなんとも凄まじい食文化だった。
うん、悪いけど私は絶対にこの国には住めないと思う。
あ、いや、この国の文化なのかこの町の文化なのかは知らないけどさ。
やっぱり人間生きていくうえで一番大切なのは美味しい料理を食べることと温泉に入ることだと思う。
やっぱり定住するならシズクさんのゴールデンサン巫国が一番かなぁ。
あとはホワイトムーン王国で温泉開拓というのも面白いかもしれない。
どうでもいいことだが、そんなことを思った 2 日間だった。
そうこうしているうちに準備が整い、私たちはイエロープラネット首長国連邦の首都エイブラへ向けて出発したのだった。
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