第七章第7話 入国
「あ、陸が見えてきましたね。あれが全部砂漠なんですか?」
水平線の先に黄色い大地見えてきたのでクリスさんにそう尋ねてみる。
「はい。イエロープラネット首長国連邦は砂漠の国とも呼ばれております。元々は遊牧民だった部族の首長たちが集まって一つの国家を作ったのがこのイエロープラネット首長国連邦の始まりといわれております」
なるほど。しかしあんな砂漠でどうやって暮らしているんだろうか?
「あれ? なんか船団がこっちに向かってきますね」
「本当でござるな。あまり友好的な雰囲気には見えないでござるが……」
そうこうしているうちに 4 隻ほどの船が私たちの船の周りを取り囲んだ。それに合わせるように私たちの船は停船する。
「そこのホワイトムーン王国の船! 立ち入り検査をさせてもらうぞ!」
そう大声で呼び掛けられたので、船員さんが何やら旗を振り、そして縄梯子を下ろした。
あれはきっと了解を意味する手旗信号なのだろう。
すると一隻の船から小舟が投下され、その小舟を使って 3 人ほどの男が私たちの船に乗り移ってきた。
砂漠の国っていうからサラさんのような褐色の肌の人だと想像していたけど、実際は全員違った。何と言うか、みんな彫りが深くて若干小麦色の肌くらいな感じの人達だ。
全員髭がわしゃわしゃしているので、砂漠なのに熱くないんだろうかとやや疑問に思う。
「我々はイエロープラネット首長国連邦イザール湾岸警備隊だ。貴艦の艦長はどちらだ」
「私だ。こちらはホワイトムーン王国第三騎士団所属の巡洋艦キング・ホワイトムーン号だ」
そう言った瞬間に湾岸警備隊の人の顔が引きつった。
「な、何故王族を乗せる船がこんな場所に単独で来ているのだ?」
「我々の使命は聖女フィーネ・アルジェンタータ様の貴国への往復の足となることだ。非常に深刻な事態が発生した故、聖女様は貴国の大統領にお会いする必要がある。至急、お取次ぎ願いたい」
「な、何だと! 聖女様がっ!?」
そしてぐるり甲板の上を見渡し、そして私の姿を見つけた瞬間突然ビタンとうつ伏せになって倒れた。いや、よく見ると顔はこちらを向いており、両手を顔の前に持ってきては手を組んだ状態になっている。
あー、ええと、はっきり言ってちょっと怖い。
でも、もしかしてこれもお祈りのポーズなのかな?
どうしよう。この世界にまともなお祈りをする宗教はないのだろうか。
私の前にいた人たちが全員さっと道を開けたので、私は仕方なく警備隊の人達のところへと歩いていく。
「「「神は偉大なり! 神は偉大なり! 聖女は神の使徒なり! 聖女の救済に感謝を!」」」
三人そろって謎の文句を唱和する。
ううん、困った。宗教的な話はちょっとわからないし、ここは一つ、いつものでいいか。
「はい。神の御心のままに」
私はそう言ってニッコリと営業スマイルを浮かべた。
「「「おおお、神は偉大なり! 神は偉大なり!」」」
三人はそう叫ぶとそのままの姿勢で動かなくなってしまった。
ええと、これは、どうしろと?
****
最終的に、「神はあなた方を
しかしなら、最近はなんとなくやってるこの聖女役もだんだんしんどくなってきた。
ホワイトムーン王国だけでやっていればいいんだろうけれど、宗派が違えば挨拶や祈りのやり方も違うし、禁忌も違うらしい。
一応、神様がちゃんと実在していて職業を授けたり神託を与えたりしているおかげか同じ神様を信仰する同じ宗教の別の宗派ということになっている。なっているのだが、いくらなんでもバリエーションがありすぎだと思う。
しかも同じ神様を信仰しているせいで宗派が違うのに崇められるし、そうすると私はいろんな宗派の全然違うしきたりを覚えなきゃいけないしで、正直勘弁してほしい。
どれか一つに統一してほしいとは思うものの、そう簡単にはいかないんだろうなぁ。
はぁ。
さて、そんなわけで私たちのキング・ホワイトムーン号はイエロープラネット首長国連邦の西の海の玄関口であるイザールの港へと入港した。
辺り一面、見渡す限り黄色の砂漠が広がっており、家々も日干しレンガで作られているものが多く見受けられる。これはこれでいかにも砂漠の国、といった風情がある。
ただ、玄関口といってもそれほど広い町ではないらしく、王都はおろか出港してきたセムノスの町なんかと比べても城壁も低く頼りない気がする。また、砂漠という割には海沿いの町だからなのか空気はさほど乾燥していない。
時折潮風に巻き上げられ砂が私の頬を叩くので、何となくビーチにいるような気分にもなる。冬なので風は冷たいけどね。
「「「「「神は偉大なり! 神は偉大なり! 聖女は神の使徒なり! 聖女の救済に感謝を!」」」」」
そして私たちが下船してイザールの大地に降り立つと、出迎えの人たちが一斉にビタンと地面に伏せてお祈りを始めた。
全く。私にお祈りなんかしても何にもならないと思うけどね?
とりあえず先ほど覚えたフレーズで何とか乗り切った私は、そのまま出迎えてくれた人にホテルへと案内されたのだった。
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