第六章第37話 アイロール防衛戦(2)
私が四人まとまっての行動以外は協力しないと宣言したため、私たちは西門の防衛に当たることとなった。
アイロールの町は東西に森を貫く街道にあるため、門も東西に一つずつだ。町は 5 メートルほどの城壁に囲まれており、その周囲は水堀に囲まれている。
ラザレ隊長はこの地の利を理由に籠城戦を選択した。
一見すると防備は完璧なようにも見えるが、私が思うに明らかに今回の
例えば私たちが何度か南の森で出会ったオーガの背の高さは 4 ~ 5 メートルはあった。あの魔物であればこの城壁など簡単に乗り越えてくることだろう。
他にも、ここではまだ見かけていないがチィーティェンで出会ったゴブリンロードも登ってくるだろうし、ゴブリンキングに至っては跨いでくるかもしれない。
そう考えるとこの 5 メートルの城壁というのは魔物に対してはあまりにも
「聖女様、おはようございます」
「あ、アロイスさん。おはようございます」
アロイスさんが部下を率いてやってきた。どうやら彼も西門の防衛が仕事らしい。いや、私の護衛なのかもしれない。
「あれ? なんだか今日はやけに元気そうですね? 良いことでもありましたか?」
私は昨日までの疲れていそうなアロイスさんの様子を思い出して質問する。何でも、アロイスさんは私がいらない人を追い出したあの野戦病院の院長を兼任しているらしい。
自分でやると言い出したそうなので私が止めるのはおかしな話だと思って言わなかったが、昨日までのアロイスさんは昼に魔物退治、夜に病院の書類仕事と明らかにオーバーワークに見えた。
「いえ。ただ、昨晩美味しいものを食べたおかげかもしれません」
「えっ? 美味しいものってなんですかっ?」
ルーちゃんが高速で話題に首を突っ込んできた。
「ええと、その、マリー嬢のリハビリを兼ねて作ってもらった料理なので名前までは」
しどろもどろになりながらそう言ったアロイスさんの顔が少し赤みを帯びている。
ほほう、なるほど?
「えー? 何のどういう料理なんですかっ?」
「え、ええと、確か、ビッグボアーの肉を焼いたもので、甘酸っぱいソースがかかった……」
「それでそれで?」
「え? あ、いや、その」
アロイスさんはルーちゃんの質問攻めにたじたじだ。
「ほら、ルーちゃん。今度会ったら作ってもらえるようにお願いしましょう」
「はいっ!」
私は助け船を出してアロイスさんを救出する。
「聖女様、ありがとうございます」
「いえ。話が進みませんからね。それに、今度マリーさんのどのあたりが好きなのかをじっくり聞かせてもらいましょう」
「なっ! 私はそんなっ!」
顔を真っ赤にしてムキになるアロイスさんだが、そんな態度ではバレバレだと思うよ。
「じゃあ、そういう事にしておきましょう。それより、攻撃部隊を門の外に出すんですよね?」
私にそう言われて顔を真っ赤にしていたアロイスさんは真顔に戻る。
「そ、そうでした。それでは開門!」
アロイスさんの号令で門が開き、攻撃部隊の騎士たちが門の外へと一斉に飛び出していく。城壁からは既に矢がそして魔法が次々と放たれていく。既に戦闘が始まっているようだ。
「それじゃあ私たちも――」
「聖女様、こちらへ」
私たちも出撃、と言おうとしたところでアロイスさんに制されてしまった。そして門の上へと連れていかれる。
「ここなら多少は安全です。ラザレ隊長より、聖女様を危険な場所へは行かせない様にと厳命されております」
ぐぬぬ、面倒なことを。
「フィーネ様、我々の戦い方はフィーネ様の強力な結界があって初めて成り立つものです。あのような結界をお使いになられるのはフィーネ様以外におりませんので、理解されないのは仕方がないでしょう」
「ううん、そうですか……」
私たちは門の上から戦況を眺める。今のところ大半はゴブリンのようだ。水堀があるおかげか、今のところは城壁に組みつかれるような事は起きていない。跳ね橋のある門の前に集まってきており、門から打って出た騎士たちがゴブリンを次々と片づけていく。
「フィーネ殿、この程度の相手なら拙者たちが出なくても大丈夫でござるよ」
シズクさんにそう言われて眼下を見下ろすと、確かに魔物たちは組織立った動きはしておらず、本能の赴くままに騎士たちに襲い掛かっては返り討ちにされている。
魔物の密度が濃すぎて魔物同士でぶつかったり、転んだゴブリンが後続に踏まれてもみくちゃになったりしている。
ん? とういことは?
「えい、防壁」
私は騎士たちの側面を突こうと水堀の際を走っていく魔物の一団の目の前に防壁を立ててみる。
ゴツン
「ギギッ!?」
先頭を走っていたゴブリンたちが突然現れた防壁に正面から痛そうな音を立ててぶつかり、そして悲鳴を上げる。そしてそこに後ろから走ってきたゴブリンが、オークが、そしてビッグボアーが次々とぶつかっていく。
「ギギギッ!?」
「グオォォォォッ!?」
「ブヒィィィッ」
なんというか、ひどいことになった。何十匹、いや何百匹もの魔物の集団が私の防壁によって発生した渋滞に次々と突っ込んでは前の魔物を押しつぶしていく。
そしてそれだけの圧力を受けても私の防壁は歪みすらしない。
「いや、凄まじい光景でござるな」
「害獣にトドメですっ!」
ルーちゃんがマシロちゃんを呼んで次々と魔物の塊に風の刃を打ち込んでいく。
うん、やはりマシロちゃんは前よりも強くなっているようだ。どう考えても射程が伸びている。
「ルーちゃん、マシロちゃん太っ、ゴホン、体が大きくなってから強くなりましたか?」
「あ、姉さま分かります? マシロ、下級精霊になったんですっ! それに大きくなって更にかわいくなったと思いませんかっ?」
「え? そ、そうですね。それに、マシロちゃんも進化できて良かったですね」
私がそう言ってマシロちゃんを撫でてあげると、マシロちゃんは嬉しそうに体を私の手に擦りつけてきた。
あ、かわいい。
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