第六章第36話 アイロール防衛戦(1)

今日は 10 月 27 日の朝、ついに魔物がアイロールの町に押し寄せてきた。ここからは見えないが既に町を囲む壁の周りは魔物の大群に取り囲まれているのだという。


ちなみに今日までに作れたポーションは合計でたったの 521 個だ。予定していた数には全く届いていないが、これでもかなりの助けになるはずだ。


報せを受けた私たちは騎士団の指揮所へと急行する。


「おお、聖女様! お待ちしておりました」


私たちが到着するや否や、ラザレ隊長が声を駆けてきた。


「遅くなってすみません。状況は?」

「はい。町は既に大量の魔物たちに取り囲まれております。周囲を埋めつくさんばかりの数であり、その総数は分かりませんが、どんなに少なく見積もっても数万はいるかと思われます。今回の魔物暴走スタンピードの規模は極大と推定されます」


なるほど。チィーティェンの時よりも数は圧倒的に多いという事か。


「この魔物暴走を率いているのはなんという魔物ですか?」

「不明です。ゴブリン、オーク、フォレストウルフなどの魔物は大量におり、ホブゴブリンなどゴブリンの上位種は見かけますが、ゴブリンロードは見当たりません」

「え?」


どういうことだろうか?


私の表情を察してか、クリスさんが補足説明をしてくれる。


「フィーネ様、どうやら今回の魔物暴走は私たちがチィーティェンで遭遇したような通常の魔物暴走とは異なるようです」

「どういうことですか?」

「通常の魔物暴走は、特定の種類の魔物が増えすぎた結果、統率する上位種が現れ人里を目指してやってくるというものです。チィーティェンであればゴブリンが増えた結果ゴブリンキングが生まれました」

「そうですね」

「ですが、今回はどれか特定の種類の魔物が増えているわけではありません」


それは確かにそうだ。森狩りを行ったときも特定の魔物が増えていたわけではなかったように思う。


「理由は不明ですが、今回の魔物暴走は、森の魔物の数が増えすぎた事によって集団でアイロールを目指してきた、とも考えられるのです」


なるほど。そんなこともあるのか。


「クリスティーナ殿、もしそうだとするならば敵はただの獣の群れということになる。我々騎士団としてはそちらの方が戦いやすい」


クリスさんのその推測にラザレ隊長はそう言った。


「だが、複数の種類の魔物を従える存在がいるという事も考えられるのではござらんか? 侮って油断するのは危険でござるよ」


シズクさんがその意見に疑問を呈した。


「そうだな。シズク殿の言う通り油断するのは確かに良くない。だが、複数の魔物を従える存在として思い浮かぶのは魔族だが……」

「んー、でもクリスさん。森の中にそれっぽい魔物はいないらしいですよ?」


珍しくルーちゃんがこういう場面で発言をした。


「ルミア様、でしたかな? そのようなことが何故?」

「え? あたしはエルフですから。これだけ森が近ければ森にいる精霊たちが教えてくれます」

「そ、そのような力が……」


ラザレ隊長が驚愕している。


「なるほど。そういうことであれば今のところは組織的な行動はしないと考えていいだろう。ただ、シズク殿の言う通り警戒は怠るべきではないな」

「そうですな」


クリスさんがまとめてラザレ隊長が同意する。


「さて、我々の戦力ですが、この町に残ったハンターはアイロールの盾の 2 名、そしてハンターになったばかりの若手ハンターが 7 名です。まあ、予想通りですが、ハンターどもは相変わらずですな」

「ええぇ」


つい四日前まではあんなにたくさんいたのに、本当に逃げたんだ。


まあ、気持ちは分からなくもないけどさ。


「基本的にハンターはあてにせずに騎士団と衛兵で対処することになります。つきましてはクリスティーナ殿とシズク殿は前線へ、そしてルミア殿には門の防衛に、そして聖女様は救護所での治療に当たっていただきたく――」

「お断りします」


私は全てを聞く前にきっぱりと拒否した。


「え? そ、そんな!?」


ラザレ隊長はまさか拒否されると思っていなかったらしく、驚くほど動揺している。


「私はレッドスカイ帝国でその要請を受け、大きな過ちを犯すところでした。ですので三人だけで出るのではなく、私も一緒に出撃します」


それを聞いたラザレ隊長は目を丸くして驚いている。


「な、な、な、な! せせせ聖女様が前線に立たれるなど! おおおおお御身に何かあれば!」

「私たちは四人で一つのチームですから、誰一人として欠けてはいけないんです。なのでなんと言われようとも私たちは四人で行動します」


そう、チィーティェンの時と同じ轍を踏むことはしない。


私は決意を込めてそう宣言したのだった。

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