第六章第7話 森のお掃除
「姉さまっ! あっちに害獣の群れがいますっ!」
「任せるでござる」
そう言ってシズクさんが飛び出していくとあっという間に群れを壊滅させる。
「姉さまっ! あそこにオークの群れがいますっ!」
「次は私が行って来よう」
そう言ってクリスさんが飛び出していくと、またもやあっという間に群れを壊滅させる。
そう、私たちは今
ちなみに、必要ないと言ったのだがカルヴァラに駐屯している第五騎士団の小隊が一つ、くっついてきた。最初のうちは「聖女様の御身は俺たちが守ります!」なんて威勢のいいことを言ってくれてはいたのだが、今となっては
「な、なぁ。俺たち必要なかったんじゃないか?」
「噂でクリスティーナ様は強いってのは聞いていたが、シズク様はマジで強すぎじゃないか?」
「いやいや、一番ヤバいのはこの森の中で正確に魔物の場所を探し当てるルミア様だろ。正直、俺たち斥候は全員失職だ」
などと、会話をしている。どうやらすっかり自信喪失させてしまったようだ。
ちなみに私たちの他にも荒くれ者と評判のハンターたちも森に入って魔物を狩っていると聞いている。なんでも、魔物暴走が起きる少し前というのはハンターにとっての稼ぎ時だそうで、狩れるだけ狩って実際に魔物が襲ってくる直前に他の町へと逃げ出すというのが理想的な稼ぎ方らしい。
なお、魔物を倒した討伐報酬の支払いやその素材の売買といった業務はハンターギルドが管理しており、国と領主の認可に基づいてその業務を独占している。そしてそのハンターギルドに所属しているハンターは有事の際には町の防衛に協力するという義務があるそうだ。
しかしそこは粗暴で素行の悪い食い詰め者という評判通り、自分の身が危うくなったらさっさと逃げ出してしまうのだそうだ。逃げたところで魔物暴走で町が壊滅すれば証拠がないのでお咎めなし、もしバレたとしても別の町でハンターをすれば実質的には困らない、ということらしい。
だがこの町は厳戒態勢をしかれてしまい乗合馬車が走らなくなってしまった。なので、今残っているハンターたちは逃げ遅れたハンターたちと、魔物暴走で町が滅びない方に賭けて大量の獲物を狩ることを目指すハンターたちということになる。
なんでも、ゴブリンの魔石でも銀貨、需給がひっ迫している時は金貨で売れることもあるそうだ。フォレストウルフやオークの毛皮だって状態が良ければそれなりの値段で売れるしビッグボアーならば毛皮だけでなくお肉も売れる。そんな獲物がわんさかいる魔物暴走前の状況は自分の命をかけ金にその日暮らしをしている彼らにとってはそう悪い状況ではないのだろう。
ちなみに手元の魔石を数えてみると、これまでの討伐数はゴブリンが 53、オークが 11、フォレストウルフが 9 だ。確かにこれが一日の稼ぎであれば中々なのかもしれないが、これはエルフのルーちゃんがいてこその成果であって、普通に考えればこの一割にも満たないのではないだろうか?
「しかし妙ですね。魔物暴走直前と聞いていた割には随分と森は落ち着いているように思います」
「そうでござるな。チィーティエンでのゴブリンの魔物暴走を考えるともっといても良いはずでござるが……」
「やっぱりそう思いますか?」
そんな話をしながら森を進んでいるとルーちゃんが急に立ち止まる。どうやら何かを見つけたようだ。
「うん? あれっ? 人間? えっ?」
ヒュンッヒュンッヒュンッ
ルーちゃんがそう呟いた瞬間、私たちに向かって一斉に矢が射掛けられた。
「フィーネ様!」
「結界!」
私たちに向かって大量に射掛けられた矢は私の結界によって悉く防がれる。
「ルミア、人間だと?」
「はい、あっちとあっちに人間が 10 人ずついます! あっ、逃げていきます!」
「拙者が出るでござる!」
シズクさんが目にも止まらぬ速さで右側の茂みへと飛び込んでいく。
「森の精霊たち、シズクさんを援護してあげてっ!」
「かたじけないでござる!」
ルーちゃんの呼び掛けに応えてシズクさんの行く手の草木が勝手に道を作っていく。そしてあっという間にシズクさんの姿は見えなくなったのだった。
そしてルーちゃんは弓を取り出すと狙い済まして左手の森の中へと打ち込む。
「ぐあっ、ぐ、うっ」
左側の森の奥から男の声がしたかと思うとドシンという鈍い音がして、そしてくぐもったうめき声が聞こえてくる。
クリスさんは私を庇うように前に立っている。
すると一緒についてきていた小隊の隊長さんがフリーズから復帰したのか、命令を出す。
「第一分隊、左の茂みへ。第二分隊、右の茂みへ、残りは周囲を固めて聖女様をお守りしろ!」
いや、うん、ありがたいけど遅すぎないか? 平和ボケでもしているんじゃなかろうか。
「ええと、右側はシズクさんがどうにかするでしょうからルーちゃんが射落としたやつを捕まえましょう」
私たちが茂みをかき分けて――といってもルーちゃんのおかげで茂みのほうが避けてくれるわけだが――進むと、一人の男が大量の血を流して地面に転がっていた。ルーちゃんの矢が右肩に刺さっており、そして腹に何かで刺されたような大きな傷がある。
「ううん? どうしてこんなことになっているんですかね? 一応治療しておきましょう」
「分かりませんが、治療の前に念のため拘束しましょう。おい」
「はっ!」
若い騎士の男性が二人がかりで男の両手を後ろ手に拘束する。私はその男に治療魔法をかける。傷はすぐに塞がったが意識が戻らない。それに治癒魔法で治した割には顔色も随分と悪いようだ。
「ああ、これ毒ですかね? 解毒!」
しっかりした手応えと共に男の体内の毒が分解されていく。
「はい、これでもう大丈夫ですね。シズクさんと合流して一度戻りましょう」
「はい」
そうして私たちが元の場所に戻るとそこにはシズクさんが既に戻ってきていた。そしてそのシズクさんの周りには見知らぬ騎士の男とシズクさんを追って右の茂みへと入っていったはずの第二分隊 10 人が倒れていたのだった。
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