第六章第6話 カルヴァラに迫る危機

翌朝、私たちは朝食のために屋敷の食堂へとやってきた。するとウスターシュさんが私たちを迎えてくれた。


「おはようございます。聖女様、クリスティーナ殿、シズク・ミエシロ殿、ルミア殿、よくお休みになられましたか?」

「はい。おかげさまでとてもよく眠れました」

「それは何よりです。現在カルヴァラは非常事態ですのでこの程度しかご用意できませんが、どうぞお召し上がりください」

「ありがとうございます。それではお言葉に甘えて、いただきます」


この程度言われて出された食事だが、私からしてみればまるでホテルで食べるような豪華な朝食だ。まず目に飛び込んでくるのはバターの芳醇な香りが食欲をそそる焼きたてのロールパン、そして目玉焼き、ハム、サラミ、そしてトマト、黄色とオレンジ色のチーズが乗ったプレート、さらにフルーツと野菜のサラダ、ヨーグルト、アプリコットジャムまでついてくる。飲み物もフレッシュオレンジジュースと紅茶が用意されている。


ルーちゃんも TPO はしっかりとわきまえているので、私たちだけの時のように騒いだりはしていないが、幸せそうに食べている。


「お召し上がりになりながらで構いませんのでお聞きください。現在、ご案内の通りここカルヴァラは現在西の森に魔物暴走スタンピードの兆候が見られるため厳戒態勢をしいております。我がカポトリアス家としても聖女様を王都までしっかりとお送りしたいところなのですが、ここカルヴァラには残念ながら余剰戦力もほとんどございません。現在領都サマルカへ増援の要請をしておりますので、ご出発は増援の到着までお待ちいただけませんでしょうか?」


うん? 別に護送してほしいなんて思ってないよ?


「お気遣いありがとうございます。今回の魔物暴走は馬車も通れないほどの規模なのですか?」

「はい。斥候たちの報告から判断するに、ゴブリンどもが多くて 500、オークが 100、フォレストウルフが 200 の混成魔物暴走スタンピードと想定されております」


あれ? 思っていたのと随分違うな。


「なるほど、混成ということは魔族が絡んでいるのか?」


クリスさんが横から口を挟んでくる。


「今のところそのような証拠はありませんが、混成ですので可能性としては考えられます」

「クリスさん、魔族が絡んでいるっていうのはどういうことですか?」

「はい。通常、魔物は他の魔物と協調して行動することはありません。ですので、ゴブリンとオークが協力している場合、魔族など魔物以外による統率が行われている可能性があります。もちろん、人間を見つけた場合などは協力して襲ってくる場合もありますので一概には言えませんが」

「魔物同士で争っていてもですか?」

「はい。ゴブリンとオークの群れ同士が縄張り争いをしているところに人間が通りかかると、争いをやめて人間に襲い掛かってくると言われています」

「ううん、人間は随分と魔物に嫌われているんですね」


私がそういうとクリスさんは少し複雑そうな表情で頷いた。


「あ、でも、そういう事なら私たちで森の魔物たちを間引いてあげれば良いんじゃないですか? 千匹にも満たない数ならチィーティエンのような事にはならないでしょうし」

「そうですね、フィーネ様。その程度の数でしたら上位種もほぼいないでしょうし、むしろ今のうちに間引いておくべきかと思います」

「 聖女様! よろしいのですか!?」


私たちの会話にウスターシュさんが食いついてきた。


「そうですね、ええと」


私はシズクさんとルーちゃんをちらりと見る。


「拙者は構わないでござるよ。ただ、当然謝礼は頂けるでござるな?」


そう言ってうちの金庫番がウスターシュさんを見る。


「もちろんです。十分な額をご用意いたしましょう」

「であれば拙者に異存はないでござるよ」

「あたしはそんなことよりも早く王都に行って姉さまのお友達とか親方さんという人に会いたいです」


お、珍しくルーちゃんが反対している。チィーティエンで死にかけたこともあるのかもしれないが、この件にはあまり関わりたくないようだ。それもあのクズ門兵長のせいだろうか?


「ルミア殿、この森の問題をご解決頂けたなら、我がカポトリアス家が責任をもって王都までお送りいたしましょう。それに、行く先々で飛び切りのご馳走を好きなだけご用意しましょう」

「やりますっ! 姉さまっ! 森を荒らす悪い魔物をやっつけましょうっ!」


ルーちゃんはものすごくやる気に満ちた表情で私にそう言ってくる。


むむむ、やり手のウスターシュさんを前にルーちゃんはあっという間に篭絡された。


「それでは聖女様、何卒よろしくお願いいたします」


こうして私たちはカルヴァラ西の森で発生の兆候のある魔物暴走に対処するため、魔物を間引くことになったのだった。

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