第五章第39話 終わらない魔物暴走
ルゥー・フェィ将軍がゴブリンロードを討ち取った、私がその報せを聞いたのは救護所で続々と運ばれてくる怪我人の治療をしている最中だった。
戦いが始まって数時間が経過しそろそろお昼時、というところでその吉報が私のいる救護所にも届いたのだ。
「これで、もう戦いは決したということでしょうか?」
「そうでござるな。クリス殿とルミア殿もすぐに戻ってくるでござろう」
「よし、じゃあ、MP 気にせずまとめて治療しちゃいましょう。えい!」
私は救護所に運ばれてきた怪我人全員にまとめて治癒魔法をかけて一気に治療する。
救護所全体が柔らかな光で包まれ、みるみるうちに怪我が治っていく。
「はは、フィーネ殿の治癒魔法は凄まじいでござるな」
「まとめて治すと MP の消費が多いですから普段はやりませんけどね。それじゃあ、皆さん、私たちはお昼を頂いてきますね。さ、シズクさん、行きましょう」
「わかったでござる」
私たちは救護所を後にし、食堂へと向かった。
****
私は牛骨で出汁を取ったという塩味のスープに麺の入った料理を受け取り、食堂に並べられた席に適当に座ると食事を頂く。可もなく不可もなく、といった味ではあるが一般兵士の普段の食事とはこんなものなのだろう。
すると、そこへ一仕事終えた将軍がやってきた。
「む、聖女よ。休憩か? かなりの人数が運ばれたそうだが?」
将軍のそのぶっきらぼうな言い方にさぼってないで仕事をしろ、とでも言われたのかと一瞬思ったが、いくらなんでもそれはないだろう。私は思い直して普通に返事する。
「そうですね。救護所一杯に怪我人がいましたけど、全員もう治療を終えましたから」
「なんだ、もう終わっていたのか。意外だな」
言われていた。ちっ。
「ふん、まあ良い。南の川を渡ってきたロードは討ち取った。これでもうゴブリンどもは烏合の衆となるはずだ。後は兵士どもに任せておけばよい」
「そうでしたか。お疲れ様でした」
「ああ」
それは良かった。これでクリスさんも無事に戻ってこられることだろう。
「将軍、拙者が聞いていたよりも随分とあっさり終わったでござるな。ゴブリンロードというのは知能が高く、我々の裏をかくようなことを平然とやってくるのではなかったでござるか?」
「ゴブリンロードと言えども所詮はゴブリンだ。弓や魔法を使う雑魚を後ろに立たせて他の雑魚どもに守らせる程度の作戦は考えてきたようだが、所詮その程度だ。あんなもの、真正面から叩き潰して終わりだ。下らん」
将軍は心底つまらなそうにそう言い放った。
「そうでしたか……」
そうなら良いのだけれど。
私はクリスさんとルーちゃんが早く無事に帰ってきてくれることを祈りながら麺を口に運ぶ。
しかし、そんな私の思いとは裏腹に、そして将軍の見立てとは異なりゴブリンたちの襲撃の勢いは留まるところを知らず、救護所にはその後も続々と負傷者が運び込まれてくるのだった。
****
「ええい、作戦通りに行くぞ! ルミア! 援護しろ!」
私はセスルームニルを抜き放つとロードに向かって切り込む。マシロの作った風の刃がゴブリンロードへと襲い掛かる。
ゴブリンロードは手近な木を根元から引っこ抜くとそれを盾として風の刃を受け止める。
私の突撃を止めるためにホブゴブリン三匹が私の前に立ちふさがる。そして手に持った木の棒で思い切り殴りつけてきた。
私はそれを紙一重で躱すと先頭の一匹の胴を横薙ぎして斬り捨てる。そして返す刀でその奥のホブゴブリンの首を
「はっ!」
私は気合を入れゴブリンロードへと斬りかかる。
「グルルルル」
ゴブリンロードは先ほど引っこ抜いた木を右から左へと大きく振り回して私を殴打しようとしてくる。
私はそれを屈んで躱すとそのまま間合いに飛び込み、丁度良い高さにある太腿を思い切り切り付ける。
バシュッ
手にしっかりとした手応えがあり、セスルームニルは太腿をぱっくりと切り裂いた。
「ギャァァァァ」
切り付けられた痛みで我を忘れたのか、ゴブリンロードは滅茶苦茶に木を振り回して辺りを破壊していく。
私はその間合いの外へと跳び退り、状況を確認する。
このゴブリンロードが率いていたのはホブゴブリンが 5 匹、ゴブリンメイジが 2 匹、ゴブリンアーチャーが 1 匹、そして通常のゴブリンがおよそ 30 ~ 40 匹というところだ。
そのうち、ホブゴブリン 3 匹は私が既に倒しており、ホブゴブリンとゴブリンメイジが一組となっておよそ 10 匹ほどのゴブリンを従え二班、三班と戦っている。四班はゴブリンアーチャーとその他のゴブリンと戦っている。四班は少し劣勢になっていたのでルミアが加勢している。ルミアがマシロを呼び出し、その風の刃でゴブリンアーチャーを攻撃している。
あ、勝負が着いた。
ゴブリンアーチャーの首がマシロの風の刃であっさりと切り落とされた。
「四班! そのゴブリンどもを殲滅したら二班と三班の援護に回れ! ルミアは私の援護に戻れ!」
「はっ! お任せあれっ!」
「ううっ、はい……」
四班の班長は威勢がいいが、ルミアの元気がここまでないのはおかしい。
「ルミア! 行くぞ! このロードを倒せば我々の勝利だ! 倒してフィーネ様のもとへと戻るんだ!」
私はルミアに発破をかけると再びロードへと斬りかかる。
先ほど大振り躱されたからか、今度は隙が少なくなるように狙うように木で攻撃してくる。
上段からの振り下ろしがきた。私はそれを体を捻って躱すと再び先ほど切り付けた太腿の同じような場所に一撃を入れて走りぬける。
「ルミア!」
「はい。マシロっ、あいつの目を狙って!」
ルミアの足元に控えるマシロから風の刃が放たれ、その顔面を捉える。背中側からなので目をしっかり捕らえられたのかは分からないが、顔面から血を流すロードが苦しそうに両手で顔を押さえている。
私はロードの左胸に狙いをつけると、思い切り後ろからセスルームニルを突き刺す。
ぐちゃりとした生暖かい手応えと共にセスルームニルがロードの左胸を貫通する。私は確実に息の根を止めるためにセスルームニルを刃の方向にぐりぐりと動かし、そして
ロードはその胸から血しぶきをあげ、そのまま声を上げることなく膝から崩れ落ちた。
「ゴブリンロード、このクリスティーナが討ち取った!」
「「「うおおぉぉぉぉぉぉ」」」
私が改めて周囲を確認すると、既にホブゴブリンとゴブリンメイジは討ち取られ、残った通常のゴブリンを兵士たちが処理しているところだった。
残った通常のゴブリンどもはロードが討ち取られたことで完全なパニック状態となったのか、成すすべなく兵士たちに狩られていくのだった。
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