第五章第30話 隠された洞窟
その後、私は将軍の斬った獣を安全な結界の内側から浄化するという簡単なお仕事をやり続けた。そうしてしばらくすると谷底の死なない獣たちは一掃されたのだった。
何匹浄化したのかは覚えていないが、とにかくたくさんの死なない獣を浄化した。そのおかげで私の経験値は 209,331 へと上昇したが、残念ながらレベルは上がらなかった。
丁度その時だった。崖の上からロープが垂らされ、そのロープを伝ってクリスさん達が降りてきた。
「フィーネ様! ご無事ですか!」
「はい。見ての通り、無事です」
「それは何よりです。将軍、将軍が強いことは理解しているが、フィーネ様は将軍とは違う。それにあのような行動を取られると我々は対応できない。勝手な行動は控えて頂きたい」
クリスさんが将軍に文句をいうが将軍はギロリとクリスさんを一睨みしてまたも暴言を吐いた。
「ふん。貴様ら雑魚などいてもいなくても変わらん。そもそも貴様らが雑魚で無能なのが悪い。そもそも何故この程度の崖を降りられんのだ? 貴様らは戦いに身を置いているくせに何故そこまで弱い? あの獣とて貴様らの目が節穴だからここまで苦戦したのだ」
「な……なん、だと?」
クリスさんが明らかに怒っているのが分かる。分かるがそれを必死に堪えている。相手が完敗を喫した将軍だからなのか、それともクリスさん自身に思うところがあるからなのかは分からないが、出会った当初と比べるとその我慢強さには雲泥の差がある。
次にシズクさんがロープを伝って降りてきた。
「フィーネ殿ー! 上から見てはいたでござるが無事で何よりでござる。ん? どうしたでござるか?」
怒りの表情を浮かべつつもなんとか堪えているクリスさんとどこ吹く風の将軍を見たシズクさんが二人の間で視線を往復させている。
「じつは、かくかくしかじかでして――」
私は状況を説明する。
「なるほど、そういうことでござったか。言われてみれば確かに将軍の言う通りでござるな。拙者も魔法に疎いせいでフィーネ殿には恥ずかしい思いをさせてしまい申し訳ないでござるよ」
「そんな……私のほうこそ……」
シズクさんが申し訳なさそうに耳をペタンとしているのを見て私も申し訳ない気持ちになってくる。
「姉さまーっ!」
続いてルーちゃんが降りてくると私に向かって抱きついてきた。
「姉さまっ! 無事ですかっ!?」
「はい。大丈夫ですよ。ルーちゃん。上からの援護も助かりました」
私はルーちゃんを抱きとめると抱擁を交わしながらお礼を言う。
「姉さまが無事でよかったです! それより、あいつに変なことされませんでしたかっ?」
「え? ええ、まあ、一応は」
そうして抱きついているルーちゃんを引き剥がすと、その様子を見ていた将軍が私に質問をしてきた。
「聖女よ。お前とその緑の耳長女は姉妹なのか?」
「み、耳長女って……はぁ。言っても無駄ですね。血は繋がっていませんが私の妹のような存在です」
あまりの暴言にまた文句を言いそうになったがやめた。もうこの将軍の言葉遣いを矯正することは不可能だろう。
「そうか。では聖女、行くぞ。こっちだ」
は? 聞いておいてそれだけですか? ま、まあ、何かを期待する方が間違っているんだろうけどさ。
「雑魚どもはいてもいなくても一緒だ。来たければ来い。だが自分の身は自分で守れ。俺も聖女も助けんぞ」
いや、助けますから。何勝手なこと言ってるかな?
「クリスさん」
私は顔を真っ赤にしているクリスさんに声を掛け、そして首を横に振る。
「もう、あの人には言うだけ無駄です。行きましょう」
「……はい」
こうして私たちは将軍の後を追って谷底を進み始めた。
****
「ふんっ!」
将軍が落石の跡と思われる大岩に思い切り蹴りを入れた。すると凄まじい轟音と共にその大岩は粉々に砕け散った。そしてその岩の向こうから奥へ奥へと続く洞窟の入り口が姿を現したのだった。
「おい! 明かりをよこせ! 聖女!」
「え?」
「む? お前は浄化ができるのだから【聖属性魔法】が使えるのだろう? あれだけ光っているのだから明かりを作るくらい容易いのではないか?」
なるほど? 王都の図書館で読んだ聖魔法大全にはそんなこと書いてなかったけどな。まあ、試してみよう。
──── ええと、聖属性の発光魔法で私の指先に灯りを灯す
しかし何も起こらなかった。
──── じゃあ、聖属性の浄化魔法を私の指先に宿らせてキープする
すると私の指先に小さな浄化の光が灯された。
「うーん、ちょっと魔力の無駄遣いな気もしますが、こんな感じですかね?」
「それでいい。行くぞ」
こうして私たちはこの洞窟の中へと足を踏み入れ、そして妙に曲がりくねった道を 20 m ほど歩いていく。
すると私たちは明らかに人手が入っていると思われる金属製の扉の前にやってきた。
「こんなところに扉が?」
「ふん。蹴破るぞ」
将軍が思い切り扉を蹴り飛ばす。凄まじい轟音と共に分厚い金属製の扉がひしゃげ、そしてそのまま外れて奥へと吹っ飛んで行った。
その扉の向こう側は明らかに人の手によって作られた部屋だ。数十メートル四方は在ろうかという大きな部屋で、壁や床は石レンガで補強されている。そして部屋の中には壊れた棚が放置されている。
「「「「「グルルルル」」」」」
そしてそこで私たちを出迎えたのは大量の死なない獣たちであった。
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