第五章第25話 山狩り

「ふんっ、ふんっ、ふんっ!」


相も変わらずに将軍が一人でずんずんと前を歩いていき、次々と襲ってくる死なない獣を全て一撃のものとに蒸発させていっている。


「はあ、やっぱり私たちはやることがありませんね」

「そうでござるな」

「おい、聖女!」

「ああ、ハイハイ。補充ですね」


私が斧槍に魔力を補充するとそのまま将軍は前線へと復帰した。


まあ、将軍のいる場所が前線なわけだが……。


ちなみに、イーフゥアさんは残念ながらフゥーイエ村跡地でお留守番だ。さすがに道のない場所に文官の彼女を連れてくることはできない。


そしてそれはつまり将軍を止められる人が誰もいないという事を意味している。


「暇なのはいいですが、これだとシズクさんが経験値を稼げませんね」

「そうでござるな。ただ、これでも少しは成長したでござるよ。この通りでござる」


そう言ってシズクさんは少し嬉しそうにステータスを見せてくれた。


────

名前:シズク・ミエシロ

種族:半黒狐

性別:女性

職業:剣聖、商人

レベル:1 → 6

HP:202 → 288

MP:70 → 145

STR:240 → 366

INT:120 → 210

AGI:363 → 558

DEX:384 → 583

VIT:165 → 226

MND:187 → 322

LUC:145 → 226


Exp:2 → 2,153

SP:50


ユニークスキル(1):▼

スキル(6):▼

────


「うわっ、シズクさんすごいステータスが上がっていますね」

「あと 3 くらいレベルが上がれば元のステータスに戻りそうでござるよ」


そういうシズクさんの声はやはり弾んでいる。


「それは良かったですね。でも、レベルが 5 上がっただけでステータスってこんなに上がりましたっけ? レベルが 1 上がるごとに多くても 20 くらいだった気がしますけど……」


AGI や DEX なんかは 5 で 200 くらい上がってるよ?


「人間を辞めたせいかもしれないでござるし、この『剣聖』という聞きなれない職業のおかげかもしれないでござるよ」

「あれ?シズクさん、 最初からその職業じゃなかったんですか? あ、でも私としてはシズクさんにぴったりな気はしますよ?」


するとシズクさんは少しジト目になる。


「……フィーネ殿は気付いていなかったのでござるな。どのタイミングで勝手に変わったのかは拙者にも分からないでござるが、ネギナベ川の土手でフィーネ殿にお見せしたあの時に変わっていたのでござるよ?」

「え? あはは、全然気付いてませんでした。それにしても、職業が勝手に変わるなんてことあるんですね」

「拙者も聞いたことがないでござるが、現にこうして勝手に変わっていたでござるよ」


うーん、不思議なこともあるものだ。これもスイキョウのせいなのだろうか?


「でも剣聖って、かっこいいですよね?」

「……悪い気はしないでござるな。だが拙者の実力が名前に追いついていないでござるよ」

「まあ、今はレベルが下がっちゃいましたしね」


私がそう言うとシズクさんは少し微妙そうな顔をしてこういった。


「レベルは上げれば良いでござる。だが拙者はまだあの将軍の域には達していないでござるよ」

「そうなんですかね」


シズクさんはそう言っているが、私にはどのくらいの差があるのかはさっぱり分からない。でもシズクさんがそういうならきっとそうなのだろう。


「私は何もしていないですしレベルが上がるのはまだまだ先になりそうです。ゾンビや幽霊でも出てくれば経験値を稼ぐチャンスなんですけどね……」

「はは、フィーネ殿は聖女でござるからな。ああやって将軍のように殴ったり斬ったりするのは、ちょっとイメージと違うでござるな」

「あはは、それもそうですね」


そんな話をしつつ、私は何の気なしにステータスを開いてみた。


────

名前:フィーネ・アルジェンタータ

種族:吸血鬼(笑)

性別:女性

職業:治癒師、付与師

レベル:15 → 16

HP:355 → 378

MP:305 → 325

STR:365 → 389

INT:290 → 309

AGI:275 → 293

DEX:320 → 341

VIT:335 → 357

MND:305 → 325

LUC:305 → 325


Exp:110,087 → 134,980

SP:30 → 40


ユニークスキル(13):▼

スキル(23):▼

────


「はぁっ?」


私は思わず間の抜けた声を出してしまった。


一体何が起きているの?


「フィーネ様、どうしましたか?」


私の様子を訝しんだクリスさんが声をやや心配そうな表情で声をかけてきた。


「いえ、何故かレベルが上がっています。しかも、ものすごい量の経験値が……」

「ん? フィーネ殿、どういうことでござるか?」

「私も何が何だかさっぱり……」


そう答えつつも私の視線は自分のステータスに釘づけだ。すると今度は私が見ている目の前でまた経験値が増えた。


「経験値が……また……増えました……」

「今ですか?」

「はい。今です……」


私がそう答えるとクリスさんとシズクさんが絶句している。


「どうしたんですか? 姉さまっ」


そう言いながらルーちゃんは私のステータスを覗きこんできた。


「あれー? 経験値が増えましたっ! なんで何もしていないのに経験値が増えてるんですかっ?」

「いえ、それが私にもさっぱり」


────

名前:フィーネ・アルジェンタータ

Exp:110,087 → 135,110

────


私とルーちゃんは顔を見合わせる。


「ふんっ! ふんっ!」


私たち四人が沈黙したため、将軍の声だけが山の中に響く。


「あの……姉さま……なんか……あの人が声を出すと、姉さまの経験値が増えてる気がするんでけど……」

「……本当ですね」

「……不思議でござるな」

「ええぇ」


確かにルーちゃんに指摘された通り、将軍の掛け声と私の経験値増加がリンクしている。


「フィーネ殿、もしかするとでござるが……」

「え? 私、将軍の掛け声で経験値が増えるとか嫌なんですけど……」

「いや、そうでは――」

「おい、聖女! この辺りは片付いた。一度拠点に戻るぞ!」

「あ、はい」


私たちの会話は将軍の怒声によって強引に打ち切られた。そして将軍が獣のついでに切り倒した木々を収納した私たちはフゥーイエ村の跡地の拠点へと戻るのだった。

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