第五章第10話 入国審査
2021/04/15 誤字を修正しました
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ユカワ温泉での滞在を終えて海産物を大量に買い込んだ私たちは、海路でミサキからサキモリへと向かい、さらに船を乗り継ぎレッドスカイ帝国の玄関口であるナンハイへと戻ってきた。
「あああ、陸だ。揺れない。もう揺れない」
相も変わらずに船酔いでグロッキー&マーライオンになっていたクリスさんが地面を確かめるように踏みしめている。
「クリスさんもあたしみたいに漁師になればいいんですよっ!」
ルーちゃんがドヤ顔でそう言っているが、確かに一理ある。極北の地との往復ではルーちゃんもクリスさんとリエラさんと一緒に仲良く魚に餌付けをしていたのだが、漁師の副職業を得てからというもの、驚くほど船酔いの症状が軽減された。多少辛そうにはしていたし、
温泉で見せあいっこをしたときにスキルまでは確認していないが、就職したばかりならきっと 1 のはずだ。それでこうも大きく変わるという事は、この【船酔い耐性】というスキルの影響の大きさがよくわかる。
「次の方、どうぞ」
どうやら私たちの入国審査の順番が来たようだ。審査といっても非常に緩いので審査などあってないようなものだ。
「はい」
私たちは審査官の前へとやってくる。
「ホワイトムーン王国のフィーネ・アルジェンタータです。こちらから順にクリスティーナ、ルミア、シズク・ミエシロです。旅の途中で、ノヴァールブールへと向かう予定です」
そう告げた瞬間審査官が目を見開くと、その表情がみるみるうちに硬くなっていく。そしてそのままの硬い表情で私たちに機械的に告げた。
「別室においでいただけますでしょうか?」
「え……?」
あれ? 私たち、何か悪いことしたっけ?
「こちらです」
そのまま奥へと連れていかれる。通された部屋は調度品こそまともなものが設えられているが、あきらかに私たちを閉じ込めるための場所だ。窓は開かないようになっており、入り口の扉も外から鍵をかける形になっている。
「こちらでしばらくお待ちください。担当の者がすぐに参ります」
「……我々にこのような扱いをする理由をお聞かせ願おうか? 理由の如何によっては外交問題になるぞ?」
「私にはそれをご説明する権限が与えられておりません。担当の者が参りますのでどうかこちらでお待ちください」
「何だと!?」
「わー、クリスさん、ストップ。とりあえずその担当者さんが来るのを待ちましょう」
クリスさんから剣呑な空気が溢れ出したのを見て私は慌てて止める。
「……はい。かしこまりました。フィーネ様」
「ご理解いただき感謝いたします」
そうして審査官の男は部屋から出ていった。どうやら鍵はかけられていないようだ。
「うーん、一体どうなっているんでしょうね? 悪事を働いた覚えはないんですが……」
「拙者もないでござるな」
「えー、面倒だし脱出しちゃいましょうよっ!」
「それをするとこの国でご飯を食べられなくなりますよ?」
「うっ。分かりました」
そんな会話をしていると、人が走ってくる足音が聞こえてくる。そしてそのまま扉がノックされ、四十歳くらいの男性とものすごく美人な女性の二人組が入ってきた。
「お待たせして大変申し訳ございません。聖女様。わたくしめはレッドスカイ帝国ナンハイ港出入国管理所所長のシュエ・シィエと申します。こちらは聖女様の案内を仰せつかっております女官のディアォ・イーフゥアでございます」
「聖女様、ご紹介に与りましたディアォ・イーフゥアでございます。皇帝陛下の勅命により、聖女様を帝都イェンアンへとご案内する大役を仰せつかっております」
うえぇ、なんだかよく分からないけどもしかして何か面倒くさいことになっている?
「フィーネ・アルジェンタータです。お出迎え頂き感謝します」
どうやらこの国での私たちの行動の自由は残念ながら消滅してしまったようだ。シズクさんを追いかけていた時は焦っていて観光する余裕など全くなかったので、今度こそは観光をしようと思っていたのだが。
あ、観光「も」だからね。メインの目的はルーちゃんの妹探しだよ?
「聖女様がたにはこの程度の部屋では快適にお過ごし頂けなかったもしれませんが、当所でご用意できるお部屋の中で最上の部屋でございます。ご不便をおかけしてしまったかとは思いますが、どうかご容赦くださいませ」
「いえ、問題ございません。ご配慮いただき感謝します」
「おお! なんと寛大な! ありがとうございます」
シュエ・シィエさんが大げさに感動してみせている。
「それでは本日ご宿泊頂きますお宿へとご案内いたします」
ディアォ・イーフゥアさんはそういうと私たちを案内してくれる。
「では、お言葉に甘えて」
自由にフラフラと観光できなくなったのは残念だが、どうせ帝都は通るつもりだったのだ。旅費がかからなくなったと前向きに考えておこう。
建物を出た私たちは用意されたやたらと豪華な馬車に乗り込む。豪華な内装も淡い色使いで統一されているので、きっとこの馬車は身分の高い女性が乗るためのものなのだろう。
私たちは馬車に揺られながらナンハイの町の景色を眺めるのだった。
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