第三章第37話 蛇の魔物と謎の剣士
私は蛇に軽く浄化魔法を放つ。もちろん、効果はないはずなのでただの目くらましだ。
私の魔法だと分かりやすく放たれた目障りな光を不快に思ったのか、私目掛けて突撃を仕掛けてくる。
そして蛇が私の 2 m くらいの距離まで近づいてきたところで防壁を作り出してその突進を受け止める。
「クリスさんっ! シズクさんっ!」
「はっ!」
「いくでござる」
クリスさんとシズクさんが突撃を仕掛ける。
クリスさんがまず右目を目掛けて突きを放つ。蛇は咄嗟に目を閉じることでクリスさんの突きを防御し、ガキンという硬い物同士がぶつかった音がした。
キシェェェェェェ
蛇が初めて雄たけびをあげて、そしてその頭をもたげた。
クリスさんはその瞬間飛び退り、入れ替わりでシズクさんがもたげた首の部分を一閃しそのまま走り抜けた。
ガシッという先ほどとは違う音がした。蛇の首の部分を見ると小さな傷がつき、そこから青い血を流していた。
「うそ、シズクさんでも斬れないなんて」
「いや、予想以上に硬いでござるな。っと、おっと」
シズクさんは叩きつけられた尻尾をひらりと華麗に避ける。
キシェェェェェェ
再び蛇が雄たけびをあげ、そして口元一度大きく膨らませる。そして次の瞬間、シズクさんに対して黒い液体を吐きかけた。
「おっと、おっと、おっとっと、危ないでござる」
ひらりひらりと身を躱しながらシズクさんが私たちの元へと戻ってくる。
「あれは、多分毒液でござるな」
「厄介な相手だ」
私もそう思う。デッドリースコルピのあの硬い殻すら切り裂いたシズクさんの一撃が通らないなんて!
「あ、あのっ! あたしもっ!」
「ルミア殿は隙を見て矢で目か口の中を狙ってほしいでござるよ」
「はいっ!」
キシェェェェェェ
ルーちゃんの元気な声の直後に蛇が再び雄たけびをあげる。そして大きく息を吸い込むと一気に黒いガスを吹き出した。
「あ、まずい! 結界!」
私は全員を取り囲むように結界を張る。
「毒ガスまで吐くのか」
「本当に、厄介でござるな」
「これじゃあ出られませんね」
「マシロに頼んで吹き飛ばしてもらえば」
ルーちゃん、それはナイスな提案だ。
「じゃあ、マシロちゃんに風で吹き飛ばしてもらって、ガスが晴れたらまたさっきと同じように攻撃する作戦で行きましょう」
「「「了解(でござる)!」」」
マシロちゃんが風を起こし、黒いガスを正面に向かって吹き飛ばしていく。私が浄化魔法を放とうと構えるが、そこには蛇の姿はない。
「いない? どこに?」
「フィーネ殿、上でござる!」
私が上を見上げると、口を開けて上空から毒液を吐きかけながら迫ってくる蛇の姿が。
「うえぇ、気持ち悪い、じゃなかった、ぼうへ、あ、間に合わない」
ガシィィィン
落下してきた蛇と毒液は黒いガスから守っていた私の結界が押し止めることに成功した。
成功したのだが蛇はそんなことを関係ないと言わんばかりにそのまま結界にくるくると巻きつくと、思い切り締めあげ始めた。
結界がギシギシと嫌な音を立てて軋み始める。
「あ、まずい」
私は全力で結界に魔力をこめ、割れない様に支える。
「こ、このまま、中から斬れますか?」
「この狭い空間で助走なしでは傷をつけられないでござるな」
「くっ、万事休すか」
もはや打つ手なし、そう思いかけた次の瞬間だった。
キシャァァァァァァァァァ
耳をつんざくような爆発音が響き、結界に巻きついていた蛇が離れ、そして私たちの視界が開けた。
そうして開けた視界に飛び込んできたのはお墓の方角を睨み付ける蛇と、お墓のそばに佇む剣を携えた男の姿だった。
暗灰色の長髪にすこし赤みがかった黒い瞳、耳はエルフほどではないが少し尖っており、病的なまでに白い肌をしている。
鋭い目つきですらりと背の高い超絶イケメンだ。
「ふん。何やらネズミが潜り込んでいると思ったが、蛇を釣る撒き餌程度の役には立ったか」
そう言ってその男は剣を抜き放つ。抜き放たれたその剣は禍々しい雰囲気を漂わせた黒い剣だった。
そしてその男は目にも止まらぬ速さで蛇へと迫ると一瞬でバラバラにしてしまった。
「す、すごい……」
これは強さの次元が違う。動きは全く目で追うことができなかったし、一撃の鋭さも桁違いだ。
もしかしたら私の結界も斬られてしまうかもしれない。
男は無造作にバラバラになった蛇の死体の一片に剣を突き刺して捻ると器用に魔石を取り出した。そしてそれにこびりついた血肉を水の魔法で洗い流しそのまま懐にしまった。
「み、見事でざる! さぞや名のある武人とお見受けしたでござる」
シズクさんが男に声をかける。
あー、大丈夫かな? この男、味方と決まったわけじゃないんだけどな。
さっき私たちのことをネズミとか撒き餌とか言ってたし。
遠くで独り言を言っていただけだから多分私以外には聞こえていないっぽいが、クリスさんが聞いていたら絶対怒りそうだ。
「なんだ? 貴様らは?」
「拙者はシズク・ミエシロ、武者修行の旅をしているでござる。もしよければ――」
「消えろ。今なら見逃してやる。蛇を釣りだす餌になった褒美だ」
「なっ! 私やフィーネ様が餌だと?」
あー、やっぱり怒っちゃった。
「クリスさん、落ち着いてください。シズクさんも」
私は二人を制して前に出ると結界を解いた。
「お二人は下がっていてください。私が話をします。絶対に口を出さないでくださいね」
あれはきっと戦っても勝てないだろうし、そもそも私たちには戦う理由なんてないのだ。だったら事情を話して浄化に協力してもらった方がいいだろう。
「いいのか? そんな無防備な姿を晒して」
「助けていただきありがとうございました。私はフィーネ・アルジェンタータと申します」
「貴様、その服装は聖女だな?」
「行きがかり上そのように呼ばれることもあります。ですが、今はその立場でここに来たわけではありません。私たちはシルツァの里のエルフたちの依頼でこの地を蝕む毒沼の浄化に来ました」
「む? エルフの依頼? それに、その耳。ということは貴様はエルフ? いや、ハーフエルフか? うん? いや? だがそんなはずは? おい、貴様は一体何者だ!」
私のことをジロジロの見た挙句に変な独り言をブツブツ言った挙句にこの言い草は酷い気がする。
だが怒らせるわけにはいかない。怒らせたら最後、頭と胴体がさよならしていてもおかしくないだろう。
「私はフィーネ・アルジェンタータという者です。それ以上でもそれ以下でもありません。剣士様のお名前を教えて頂けますか?」
「……よかろう。俺の名はベルード。見ての通り、魔族だ」
そして一呼吸あけてもう一度ベルードさんが尋ねてきた。
「今一度問おう。フィーネ・アルジェンタータ、貴様は一体何者だ?」
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