第三章第3話 聖騎士と侍
「ありがとうございました。助かりました」
ユルギュの町の衛兵に盗賊たちを突き出すと、感謝されるとともに銀貨 23 枚の報奨金を貰った。この町には自前の通貨が存在していないそうなので、レッドスカイ帝国の銀貨で受け取っておいた。ちなみに借りた馬車も証拠品として衛兵に提出しておいた。
このままもらっちゃえばいいじゃない、というのが三人の一致した意見だったが、それ普通に泥棒だと思うんだよね。
「ミエシロさん。ありがとうございました」
「シズク、でよいでござるよ。これほどまでに拙者の国を知ってくれているフィーネ殿は他人の気がしないでござる」
「では、シズクさん、と」
私がそう言うとシズクさんが笑顔になる。
「ところで、フィーネ殿の聖女というのは、わが国でいうところの巫女のようなものでござるか?」
「いえ、神様の言葉を聞けたり未来を占えるわけではありません。【回復魔法】と【聖属性魔法】が得意なくらいでしょうかねぇ?」
と、ノリで日本での巫女の認識で話してみたけど合っているのだろうか? 魔王云々はよくわからないので置いておくことにする。
「なるほど。治癒師と退魔士を合わせたようなものでござるな。しかし剣によって選ばれるというのは不思議でござるな。クリス殿のその剣がそうでござるか?」
「そうだ。これが私の聖剣セスルームニルだ。この剣が私をフィーネ様の元に導いてくれたのだ」
「導く? ということはその剣は喋るのでござるか?」
「いや、そういうわけではない。自然とそのようになるのだそうだ。それに、セスルームニルに認められていないものは持つことすらままならないのだ」
「なるほど。ということは拙者のキリナギも似たようなものでござるな。クリス殿の剣のように仕えるべき主が見つかるといった伝承はござらんが、キリナギも気に入らない持ち主は呪い殺してしまうと言われているでござるよ」
「えっ? シズクさん、それって妖刀っていうんじゃ? 村正とか?」
「おお、フィーネ殿はやはり博識でござるな。だが妖刀とは違うでござるよ。妖刀は装備した者を呪い、その行動を捻じ曲げてしまうでござる。しかしキリナギにはそのようなことはないでござるよ。単に拒絶されるだけでござる」
「そうなんですね。知りませんでした」
「遠い我が祖国のことをこれほどまでに知っていてくれること自体、有り難いことでござるよ」
そんな会話を交わしながら歩いていると、私たちは宿の前に到着し、チェックインした。
「さて、拙者はしばらくこの町に留まるつもりでござるが、フィーネ殿たちはどうするでござるか?」
「私たちはレッドスカイ帝国へと向かう予定です」
「左様でござるか。何日かはこの町に留まるでござるか?」
「そのつもりです」
「であれば、クリス殿に手合わせを願いたいでござるよ。拙者の腕が聖騎士殿にどれほど通用するか、試してみたいでござるよ」
シズクさんの雰囲気ががらりと変わる。ピンと張り詰めた空気があたりを包む。
「良いでしょう。シズク殿。お手合わせ願いましょうか」
クリスさんもやる気だ。怪我でもしたら、と思ったけどよく考えたら私が治せばいいのか。
「ええと、お二人とも周りに迷惑にならない場所で、あと私の見ているところでやってください」
「もちろんです、フィーネ様。あの程度の賊、私一人でも十分だったということを証明して見せましょう」
え? クリスさん、そこ気にしてたの?
****
荷物を置いた私たちは町外れの空き地にやってきた。観客は私とルーちゃん、それと何故か着いてきた宿屋のオヤジさんだ。
「拙者は
「我が名はクリスティーナ、ホワイトムーン王国聖騎士にして聖女フィーネ・アルジェンタータ様の盾なり。いざ、参られよ」
おお、すごい。こういう名乗りは初めて聞いた。なんだかかっこいいぞ。
クリスさんは正眼の構えでシズクさんに相対している。それに対してシズクさんは刀を鞘に納めたままだ。
お互いに間合いを図っているようで、ピリピリとした緊張感が伝わってくる。
「おお、やはり実力者同士の一騎打ちは間合いの取り合いになるのですね。素晴らしい!」
オヤジさんが感動している。
「姉さま、どっちが勝つと思いますか?」
「うーん、私としてはクリスさんを応援したいところですけどね。でも今まで見た感じだとシズクさんのほうが速い気がします」
「えー、じゃあクリスさん負けちゃうんですか?」
「どうでしょう」
だって、私もよくわからないもの。白銀の里でのレベルアップ以降、クリスさんの動きも目で追えるようにはなってきたが、剣術はわからないからね。
静寂を破りシズクさんが一気に間合いを詰める。そして抜刀と同時に切り付ける。それをクリスさんは剣で受け止めるが、シズクさんがさらに一撃、二撃と打ち込んでいく。
その連撃を防ぎ切ったクリスさんは横蹴りを入れてシズクさんを吹き飛ばす。だが、蹴り飛ばされたシズクさんにダメージが入った様子はなく、ひらりと着地した。
速すぎてきちんと目で追いきることはできなかったが、おそらく最後の横蹴りにシズクさんはしっかり反応して後ろに飛んだのだと思う。
「す、すごい……」
ルーちゃんが唖然とした表情で呟く。
「クリス殿、さすがでござるな。拙者の剣を受けられる剣士が西方にもいたことに驚いたでござる」
「シズク殿、馬鹿にするな。ホワイトムーン王国には私よりも強い者が何人もいるぞ」
「それを聞いて安心したでござるよ。この程度が最強では拍子抜けしていたでござるからな」
「何だと?」
あ、クリスさんが挑発に乗った。こりゃ負けだね。
クリスさんが攻撃を仕掛ける。シズクさんは抜刀からの流れで見事にその一撃を受け流すとクリスさんの首筋に刀を当てた。
「くっ……」
「勝負ありー!」
私は大きな声で叫んで止めた。これ以上やって流血沙汰になるのは勘弁してほしい。
「クリス殿、いい勝負でござったよ。また機会があれば手合わせをお願いするでござるよ」
「……ああ」
クリスさんはかなりショックを受けているのか、がっくりとうなだれている。
「いやあ、素晴らしい試合でしたね! 実は、そんな皆さんを見込んで頼みがあるのです」
そう口を開いたのは宿のオヤジさんだった。
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