花乙女の旅路
第三章第1話 ぶらり女子三人グルメ旅
私たちはブルースター共和国とレッドスカイ帝国の丁度間にある独立都市国家ノヴァールブールにやってきている。
この町はホワイトムーン王国とブルースター共和国のある大陸とレッドスカイ帝国やイエロープラネット首長国などがある大陸のちょうど境目にあり、ボスダネルス海峡という狭い海峡の両岸に位置している。
過去、この町はあまりも重要すぎる立地から旧ブルースター王国(今は共和国だ)、ホワイトムーン王国、レッドスカイ帝国、イエロープラネット首長国がこぞって領有権を主張し、度々戦渦に見舞われてきた悲しい歴史がある。
そこで、神殿立会いの下ノヴァールブールはどの国にも属さない独立都市として永世中立と海峡における航行の自由を保障することとなったのだ。
さて、このノヴァールブール、交易の要衝であるためとにかく色々なものがある。ホワイトムーンやブルースターでは所謂西洋風のものばかりだったが、こちらはアラビアンな絨毯から中華風陶磁器まで売っている。
屋台も立ち並んでおり、おいしそうな食べ物もたくさん売っている。ケバブっぽいものやハンバーガーっぽいもの、やたら高いけどアイスも売っている。
「ルーちゃん、ランチはどれが良いと思います?」
「姉さま、もう買ってきました!」
さすがルーちゃん。こういう時は頼りになる。最近はお財布を買ってあげて、常に金貨 1 ~ 2 枚分くらいのお小遣いを持たせているのだが、こういう時はいかんなくその嗅覚を発揮してくれる。
「姉さま、これはドゥルムという羊肉のローストと野菜の薄皮包み、これはエクメーイという焼き魚のサンドイッチ、それとこっちはマントゥという羊肉入りの蒸しパンです。デザートはノヴァールアイスですけど、これは後で買いに行きましょう!」
ルーちゃんが三種類の屋台ご飯を買ってきてくれた。私たちは海峡を見渡すきれいな広場でランチタイムと洒落込むことにする。
ドゥルムは、完全にケバブだね。おいしそう。エクメーイは、サンドイッチの具が焼き魚らしい。マントゥは肉まんにしか見えない。
ルーちゃんは私の食べる量を知っているので小さく分けてくれる。残りはルーちゃんが食べているわけだが、この丁度いい量を切り分けてくれる気遣いがとてもうれしい。
ホントに、私は良い妹分を持てて幸せだ。
さて、まずはケバブ風の食べ物から行ってみよう。
私はそのままパクリとかぶりつく。野菜のシャキシャキとした歯ごたえが気持ちい。そこに香辛料の香りのついた羊肉とヨーグルト風味のソースが絶妙にマッチしている。これは美味しい。思っていたよりもちょっとスパイシーだけどそれがまた美味しい。
「これ、美味しいですね」
「ですよね! あたしもこれ大好きです!」
ルーちゃんは早くも 2 つ目のケバブを口に運んでいる。さらに手元にもう一つと私の食べきれない分――もとの四分の三くらいの大きさだ――が控えている。
ルーちゃんのお腹は今日も平常運転のようだ。
「フィーネ様、こちらのサンドイッチもなかなかいけますよ」
「じゃあ、今から試してみますね」
どれどれ、焼き魚とパンというのは日本人としてはなかなか受け入れがたい組み合わせだが、試してみよう。
私は半分に切られた魚サンドイッチを口に運ぶ。
お、想像していたよりもずっとおいしい。中に細かく刻んだ玉ねぎやレタスのような葉っぱも一緒に入っていて、レモンのような柑橘系の酸味と塩味が絶妙にマッチしている。ふわふわのパンに染み込んだ魚の油もその味を引き立てている。
「本当だ。美味しいですね。パンと魚が合うなんて、想像の埒外でした」
「そうですよねっ! あたしもさっき試食したら美味しくてびっくりしました。森では食べられない味ですもの」
ルーちゃんは試食までしていたらしい。あんなに食べて太らないのは羨ましい。まあ、私の場合はそもそも食が細くて太るほど食べられないのだが。
「さて、こっちの肉まんはどうでしょう?」
わたしは密かに楽しみにしていた肉まんにかぶりつく。これも半分はルーちゃんが食べてくれる。
・
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なんか、思っていたのと味が違う。まずくはないけど、そんなにおいしいわけでもない。
なんかこう、想像していた肉まんと違ってふわふわじゃないし、お肉もなんか硬いしスパイシーだ。これ、ひき肉にした方が美味しいような気がする。
「悪くはないですけど、想像していたのとちょっと味が違いましたね」
「そうでしたか。姉さまはどれが一番おいしかったですか?」
「ケバブ、じゃなかった。この薄皮で巻いてあるやつですね」
「ドゥルムですね! そっか、姉さまはこういう味がやっぱり好きなんですね!」
ルーちゃんが何か納得しているが、やっぱりということはすでに好みを把握済みということなのだろうか?
「じゃあ、食べ終わったらデザートですよっ! 海の見えるカフェでアイスクリーム出してくれるお店があるんです。行きましょうよ!」
よく見るとルーちゃんはあれほどあった屋台グルメがもうお腹の中に入っている。
「ルーちゃん、ちょっと待ってください。まだ食べてますよ」
「むぅ、わかりました。じゃあ、リーチェちゃんと遊んでいても良いですか?」
「いいですよ。リーチェ、おいで」
周りにリーチェの姿が見えなかったので私は花乙女の杖を軽く振ってリーチェを召喚する。リーチェはまわりをきょろきょろと見回している。
「ルーちゃんが一緒に遊びたいそうですから、遊んであげてください」
「リーチェちゃん、おいで?」
そういってルーちゃんは広場にある花壇へと小走りに向かっていった。リーチェもその後を追う。リーチェの通った後にはひらひらと僅かに薄くピンクがかった白い花びらが舞い、地面に落ちるとそれは溶けて消える。とても幻想的で、とても美しい不思議な光景だ。
二人は花壇の花を見ては楽しそうに笑っている。エルフの少女と小さな精霊と花、まるで絵画のような素敵な光景だ。その光景にクリスさんも思わず目を細めている。
そうそう、それとリーチェと契約してしばらくしてから気付いたのだが、私もうっすらではあるが他の精霊の存在を感じることができるようになった。
といってもはっきりと姿が見えるわけではなく、なんとなくそこに何かいるかも、といった感じなのだが。
ある時に気配に気付いてルーちゃんに聞いてみたところ、そこに精霊がいるとのことだった。
ルーちゃんのように話したり力を借りたりということはできないのは残念だが、もしかしたらそのうち他の精霊の力を借りることができる日が来るかもしれない。希望は捨てずにいようと思う。
「フィーネ様、私も食べ終わりました」
「それじゃあ、ルーちゃんチョイスのそこのカフェに行きましょう。ルーちゃーん! 食べ終わりましたよー!」
「はーい」
私たちは広場に隣接したカフェに移動しテラス席に着席すると、アイスとお茶のセットを頼んだ。
しばらく待っていると、穏やかな香りで落ち着いた味の紅茶が運ばれてきた。これならミルクティーにしても美味しいかもしれない。
運ばれてきたアイスは少しクリーム分が足りなくてシャーベットっぽいけど、ちゃんとしたアイスクリームだ。魔法を使って冷やす必要があるのでこのセット 3 人分で銀貨 1 枚約五千円、かなり高価だが払っただけの価値はある。
リーチェはそんな私たちを尻目にテラスに置かれている植木鉢の花の傍でなにやら嬉しそうにしている。
小さな精霊が花の傍で戯れている。それだけで何と癒される光景だろうか。
そして、先ほどの広場の花壇もこのテラスの花も、きっと元気になることだろう。
花の精霊であるリーチェが近くにいるだけでその周りの植物は元気になるのだ。リーチェの存在は、瘴気やらなにやらを浄化するという役目だけでなく、その場所にある植物全般に大きな恩恵を与える存在だ。
インゴールヴィーナさんの話によると、浄化だけでなく植物を元気にすることもリーチェが力を振るっていることになるのでその成長に繋がるのだそうだ。なので安全そうな場所ではできるだけ召喚してあげるようにしている。
だって、私のかわいいリーチェが立派に成長した姿を見たいじゃない?
そんなリーチェが花と戯れるかわいらしい姿を眺めながら私はアイスをひとかけ、口に放り込んだのだった。
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