第二章最終話 花乙女の旅立ち

その後、恵みの花乙女誕生の祝いなるものが開かれ、里の人達総出でのどんちゃん騒ぎが繰り広げられた。トナカイ 4 頭分ものお肉が振る舞われ、リエラさんも満腹になったうえにお酒を飲んで気分が良くなったようで楽しそうしている。リエラさんの足元にビョルゴルフルさんがいて恍惚とした表情を浮かべているような気もするけれど、きっと気のせいだ。気のせいだったら気のせいだ。


私は何も見てない。いいね?


さて、そんなこんなで五日ほど白銀の里に滞在した私は、精霊についてなど多くのことを学んだ。


まず、産まれたての精霊であるにも関わらずリーチェは既に幼年精霊ではなく下級精霊らしいということで驚かれた。やはり、花の精霊は独特なのだろう。


そして、精霊は契約者に召喚されない限りは実体を持たない。そして、普段は精霊界という別の世界のような場所――エルフ族も行ったことがないので詳しいことはよくわからないらしい――にいるか、私たちの今いるこの世界のどこかで自由気ままにしているらしい。


そして、その実体化していない精霊の姿を見ることができるのはエルフ族以外に殆どいない。ただ、私はリーチェの姿だけは召喚していなくても見ることができる。なので、契約者と契約精霊について例外となるようだ。


また、精霊は契約者に召喚されることで実体化し、契約者の魔力を使ってより強い力を振るうことができるらしい。そうして召喚し、精霊に力をたくさん使わせてあげることで精霊は育っていくらしい。


ただ一方で、実体化されている時に攻撃されると傷ついてしまうそうだ。そして、その傷が癒えるまでは召喚できなくなり、最悪の場合は死んでしまうこともある。なので召喚する時と場所は選んだほうが良いだろう。少なくともリーチェは戦い向いた精霊ではないので戦闘時には召喚しない方が良さそうだ。


私のもともとの計画は戦える精霊と契約して戦力を得ることだったので、その点では失敗といえるかもしれない。


だが、リーチェは本当にかわいいので問題ない。問題ないったら問題ないのだ。


かわいいは正義。いいね?


え? ペット馬鹿? 何を失礼な。リーチェは家族ですよ?


さて、話を戻そう。先日の冥龍王の分体との戦いでレベルが上がったおかげでステータスもかなり上がった。


そして、今更だがなのだが気付いたことがある。ステータスをじっくり見ていて気付いたのだが、私って実は魔法より肉弾戦のほうが向いている気がする。


────

名前:フィーネ・アルジェンタータ

種族:吸血鬼(笑)

性別:女性

職業:治癒師、付与師

レベル: 11

HP:263

MP:225

STR:269

INT:214

AGI:203

DEX:236

VIT:247

MND:225

LUC:225

────


ほら。職業が治癒師なのに HP のほうが MP より高いし、STR と VIT が INT と MND より高い。普通に考えると、これってどう見ても戦士向けのステータスじゃないかな?


何が治癒師が天職だ。あのハゲめ。よくも!


****


さて、ついにモンスターから逃げられる、じゃなかった、モンスターを押し付ける、でもなかった、恵みの花乙女としての責務を果たすため、白銀の里を旅立つ時がやってきた。


うん、あくまで責務を果たすための旅だからね。後ろ髪引かれるけど仕方ないね。


「短い間でしたが本当にお世話になりました」


私はお世話になった里の皆さんにお礼の挨拶する。


「うむ、長い旅になるじゃろうがよろしく頼むぞい。魔王出現の噂もある昨今じゃ。気をつけて行くのじゃぞ」

「はい。任せてください。まずはツィンシャ大密林にあるシルツァの里ですよね」


ツィンシャ大密林というのはここから遥か東、レッドスカイ帝国南部の山奥にあるらしい。


「うむ。恵みの花乙女としての自覚が出てきたようで何よりじゃの」


インゴールヴィーナさんが目を細めている。なんだか騙してるような気分だが、背に腹は代えられない。私は曖昧に微笑んで誤魔化す。


すると、今度はリエラさんが声をかけてきた。


「聖女様ぁ。ここまでありがとうございますぅ。よろしくお願いしますねぇ」

「え? あ、はい」


うん? なんか頼まれたっけ?


「この里はわたしがちゃんと躾けておきますからぁ、いつでも安心して戻ってきてくださいねぇ?」

「え? ええぇ」


こ、怖い。なんかこの語尾上げが妙に悪寒を感じさせる。果たしてこの里は大丈夫なのだろうか? 自分が持ち込んだ種ではあるがいささか、いやかなり心配ではある。


ううん、違う。これは隔離したんだ。そう、これは尊い犠牲ってやつだ。敬礼!


残念なことにルーちゃんの姿はない。ちゃんと出発の時間を伝えておいたんだけどな。見送りをしてもらえないのはちょっと寂しい。


「それでは、皆さん、ありがとうございました。行ってきます」


私はクリスさんの手を取り二人で里を出るため森へと歩き出す。


「フィーネ様、寂しくなりますね」

「そうですね」


ムードメーカーをしてくれるかわいい妹分が抜けてしまったのでこれからはまた静かな旅になりそうだ。リーチェは加わったけれど、喋ることはできないので静かなままだ。


「はあ、ルーちゃん……」


寂しさからついぽろりとかわいい妹分の名前を口にする。


「なんですか? 姉さま」


はあ、なんか幻聴が聞こえる。末期かな。


「ちょっと、姉さま、なんであたしを無視して歩いていこうとするんですか!」

「ほえ?」


顔をあげるとそこにはルーちゃんが旅の格好をして立っている。


「え? ルーちゃんが何でここにいるんですか?」

「何でって、姉さまと一緒に行くために決まってるじゃないですか!」

「ええ? だってルーちゃんは白銀の里に移住するために私と来たんじゃなかったんですか?」

「そうですけど、まだ妹も見つかってないですし。それに……やっぱり姉さまと一緒に旅をしたいんですっ!」


ルーちゃんちょっと顔を赤らめながら笑顔でそう言ってくれる。嬉しいこと言ってくれる!


あ、涙がでてきちゃいそう。


「ルーちゃん!」


私はルーちゃんを感情の赴くままに思い切り抱きしめた。少し背の低いルーちゃんの頭を抱きしめて私のささやかな胸のふくらみにぎゅっと押し付けたのだ。


「ありがとう、ルーちゃん大好き!」

「ちょ、ちょっと、姉さま苦しいですよぉ。はーなーしーてー!」


ルーちゃんがじたばたと暴れるが離してあげない。レベルアップした吸血鬼の身体能力はかなりのものなのだ。


「フィーネ様、良かったですね」

「クリスさんだって嬉しいくせに」

「ふふ、そうですね。私も嬉しいです」


そういってクリスさんが笑う。私も笑う。そんな私たちをリーチェがニコニコと楽しそうに微笑みながら見つめている。


「ちょっとぉ、はーなーしーてーくーだーさーいーよー!」


私たちの楽しい旅はまだまだ続きそうだ。


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