第二章第36話 歓迎の宴

「いやぁ、愉快愉快。今代聖女は我が里の親戚で間違いなしとはのう。さあ、皆の衆、宴じゃ。新たな里の仲間リエラとルミア、それに我が里の親戚で次期聖女のフィーネ・アルジェンタータ殿、そしてその聖騎士のクリスティーナ殿を歓迎しての宴じゃ」


夜の帳の降りた白銀の里でインゴールヴィーナさんが嬉しそうに笑っている。


今代聖女間違いなし、か。


ううん、今回ばかりはそう思われても仕方ないかな? 私の浄化魔法で倒したっていったらインゴールヴィーナさんもかなり驚いていたしね。


さて、私はインゴールヴィーナさんの近くに腰をおろして食事を頂いている。メインディッシュはトナカイ肉のステーキだ。香草を使っていないのに臭みもなくあっさりしている。だからといって淡泊すぎず、中々の美味だ。ルーちゃんとリエラさんは里の皆さんとテーブルを囲んでいる。


こうやって見てみると、白銀の里とはいうものの、私のような白銀の髪と赤い瞳を持っている住人は驚くほど少ない。この宴に参加しているだけでも 50 人ほどのエルフがいるが、ぱっと見ても 10 人くらいしかいないのではないだろうか。


「長老様、この里に住んでいるエルフの皆さんなんですけど、想像していたよりも白銀の髪と赤い瞳の方が少ないですよね。どうしてですか?」

「おお、なるほど。そなたはそこも知らぬのじゃな。白銀の髪と赤い瞳をもつ者はな、全員この里で生まれ育って進化したハイエルフなのじゃ。そしてそれ以外の者は皆エルフじゃな」

「ええと、白銀の髪と赤い瞳のハイエルフ以外はみんな外から移住してきたってことですか?」

「そのような者たちも多いが、そういう意味ではないのじゃ。そなたは『存在進化』を知っておるかの?」

「いえ」

「ふむ。『存在進化』というのは、より上位の種族に進化することじゃ」


ふうん? ポ〇モンかな?


「なんじゃその表情は。エルフが『存在進化』をするとハイエルフになるのじゃ。そうすると種族としてのベースの力が上昇するでの、最終的にはより強い力を得ることができるのじゃ」


ほほう。なるほど?


「そしてその条件は、自身の契約精霊を上級精霊へと進化させることじゃ」


インゴールヴィーナさんがドヤ顔で説明をしてくれる。


「ふふ、そなたの自称する吸血鬼じゃと、吸血貴族という種に進化するのじゃ。儂も吸血鬼の進化条件は知らぬが、吸血貴族は例外なく凄まじい数の眷属を従えておるからそのあたりが進化条件かもしれんのう」


いや、自称っていうか、本当にそうなんだけどさ。すでに論破された手前上、なかなか言いづらい。


「さっきのお話だと、精霊も進化するんですよね?」

「その通りじゃ。力を使い、精霊としての本分を果たすことで進化していくのじゃ。進化する順に、幼年精霊、下級精霊、中級精霊、上級精霊、大精霊となるのう。普通に生活しておれば、大精霊まで進化するには数千年は必要じゃな。そなたも契約精霊を得たならば絆を深め、上級精霊へと育ててやることじゃの。まあ、千年もしないうちに進化するじゃろ」


いやいや。千年って、スケールがおかしいから。


心の中でそうツッコミを入れつつ、私は本来の目的に話を切り出してみる。


「はい。ところで、私は精霊樹に認めてもらえそうでしょうか?」

「うん? ああ、そういえばそうじゃったのう。なあに、そなたは分体とは言え冥龍王を退けるほどの【聖属性魔法】の使い手じゃ。大丈夫じゃろう。明日にでも挑んでみるがよい」

「ありがとうございます」


よし、やっと許可を得た。これで戦闘力が手に入ったと言ってもいいだろう。


え? レベルアップしてめちゃくちゃステータス上がっただろうって?


いやあ、うん。気付いてた。クリスさんに言われた目安のステータス 100 以上を軽く超えたからね。


おそらく、レベル低い状態で完全に格上な相手を相性とチートで下駄履いて勝ったおかげだろう。


「そういえば、精霊にはどんな精霊がいるんですか?」

「一番多いのは四大元素と呼ばれる火土水風じゃな。数は少ないが光と闇、あとはもっと珍しいが命の精霊というのもおるな」

「光、ですか? 聖ではなくて?」

「うむ。そうじゃ。光の精霊は瘴気の浄化ができぬのじゃ」

「瘴気、ですか?」

「うむ。魔物の魔石に宿っておるあれじゃな。そなたも聖女として旅をしてきたなら一度くらいは浄化に関わったのではないかの?」

「ああ、そういえばそんなこともありましたね」

「あれは、そうじゃな世界を蝕む毒のようなものじゃ。どこから来るのかはわからぬが、あれに触れ続けると生き物は狂ってしまうのじゃ。瘴気さえ、瘴気さえなければの……」


インゴールヴィーナさんはそう言うと、心なしか寂しそうに目を伏せた。


「ああ、そうじゃ。伝説上の存在でよいなら花の精霊なんてのもおるらしいのじゃ」

「花の精霊ですか?」


なんだろう。ドライアドとか、アルラウネとか、そんな感じのやつ?


「ま、伝説上の存在じゃ。なんでも、大地を汚す瘴気や毒などの土壌汚染を浄化し、大地に恵みをもたらし花を咲かせることができるそうじゃぞ。儂も長いこと生きておるが、花の精霊に会ったという話は聞いたことすらないのう」


ふーん。まあ、三千歳オーバーのハイエルフが見たことないならおとぎ話レベルなんだろう。


私は話に一区切りをつけると辺りを見回す。ルーちゃんはいつも通り食べているようだ。他の里のエルフ達とも楽しそうにおしゃべりをしている。


姉さま、姉さま、と慕ってくれているかわいい妹分と別れるのは少し寂しいけれど、お母さんもいるこの里で同族と暮らすほうがきっと幸せなはずだ。


そしてそのお母さんの方だが、こっちはこっちで相変わらずのようだ。本気を出した時と比べれば少ないがお皿を高く積み上げている。そして、何故かビョルゴルフルさんに靴を舐めさせている。


いやあ、何だかいつも通りの光景で安心するなぁ。あはは。


うん、やっぱりこのモンスターはこの里に封印しよう。そうしよう。それが一番だ。


「フィーネ様、やはり寂しいのですか?」

「そうですね。リエラさんはともかく、ルーちゃんとはそれなりに長く旅をしてきましたからね。あと数日でお別れかと思うとやっぱり寂しいです」


やっぱりクリスさんは優しい。いつもこうやって気遣ってくれて。


「クリスさん、いつもありがとうございます」


私の口から自然とお礼の言葉が出てきた。クリスさんは、どういたしまして、と笑顔でこたえてくれた。

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