第二章第18話 狩猟祭り(1)
「只今より、第 37 回狩猟祭りを開幕を宣言いたします!」
町を囲む壁の外に建てられた半円形のコロッセオのような会場に歓声が鳴り響く。この祭りの参加者は 50 人くらいでステージに集まっている。観客の人数はどれくらいいるのかわからないがかなりの人数だ。会場自体にそれなりの大きさがあるので少なくとも 1,000 人くらいはいるのではないだろうか?
年に一度のお祭りらしくものすごい熱気だ。だが私としてはマイクなしでこの広い会場に声を響かせている司会のおじさんの喉に驚愕している。
「今回は、なんと! 聖女フィーネ・アルジェンタータ様もご臨席を賜るという名誉を頂いています!」
また大きな歓声が鳴り響く。私は厳重に守られた貴賓席から顔をのぞかせて軽く手を振る。すると再び大きな歓声が鳴り響いた。
うーん、アイドルとかの有名人っていうのはこういう感覚なのかね? 未だに慣れないし、何ともこそばゆい気分だ。
「選手の皆さんは、日頃の狩猟で鍛えたその腕を見せてくれることでしょう! それでは、早速競技に入りたいと思います。ルールは簡単、これから参加者の皆さんは森に狩りに入っていただきます。そして、もっとも高価な獲物を狩ってきた人が優勝となります」
また大歓声だ。しかし、森に入っての狩りって、観客は一体何が楽しいのだろうか?
「そして、優勝者には商品としてクラウブレッツ特産の最高級牛肉 10kg と、そして記念のクリスタルトロフィーが聖女様より授与されます!」
うん? 聞いてないよ? まあそのくらい別にいいけど。
「それで、競技開始の鐘を、聖女様に鳴らしていただきましょう」
私は立ち上がると貴賓席の最前列に置かれた鐘をハンマーで叩く。カーン、という乾いた音が会場に鳴り響く。
「競技、スタートです!」
大歓声に見送られて選手たちが続々と会場のゲートを抜けて森の中に入っていく。ルーちゃんにも是非牛肉 10 kg 目指して頑張ってほしいものだ。さて、私たちはこれからどうしたものやら。
と、思っていたら、会場に楽器を持った人と民族衣装でドレスアップした若い女性、それに何やら大きな樽が運ばれてきた。
あれ? これってもしや?
「さあ、それでは選手の皆さんが狩りをしている間、会場ではぶどう踏みが行われます!」
またまた大歓声に包まれる。
おお、やっぱり。秋といえばぶどうの季節だもんね!
「さあ、我こそはという乙女の皆さん、是非奮ってご参加ください」
またまた大歓声。よく見ると観客の手には既にお酒の瓶が握られている。
「そして、フードコーナーもオープンしております。クラウブレッツ特産の肉を使った串焼き、ワイン煮、ソーセージ、チーズなど、様々な料理が皆さんをお待ちしています。特産のビール、ワインも各種取り揃えております。さあ、食べて、飲んで、祭りを思いっきり楽しんでくださーい!」
またまた大歓声だ。
なるほど、どうやら残った人達はこうやって飲んで食べて騒いで楽しむようだ。
「フィーネ様、ぶどう踏みは参加されないのですか?」
「私は遠慮しておきます。なんだか、諸々酷いことになりそうですから」
きっと、私が参加したら翌年には『聖女ワイン』とかの適当な名前がついてべらぼうな値段で売られていそうな気がする。
あれ? どこかから舌打ちが聞こえたような?
まあ、いいか。私たちはグルメを楽しむことにしよう。
「クリスさん、折角だから私たちも何か食べてみましょう」
「はい。お供いたします」
****
「うーん、ルーちゃんが大食いしていないと何だか寂しいですね」
フードコートに着いて少し歩いたところで私は呟いた。そう、ルーちゃんはうちのパーティーの食いしん坊担当兼美食発見係なのだ。こういった場所に来ると大抵はキョロキョロと辺りを見回し、あれが美味しそうだ、これを食べたいと言って美味しいご飯を見つけてくれる。
あちこちをちょろちょろと動き回るルーちゃんはエルフというより犬っぽい密かに思っているのは私だけではあるまい。この世界に存在するのかはわからないが、犬獣人、などと言われたほうがよほどしっくりくる気がする。
「仕方ありませんよ。ルミアはきっと今森の中で頑張っていますから」
「そうですね。楽しんできてくれるといいですね」
私たちはルーちゃんの健闘を祈りつつ、牛肉と野菜の串焼きにかぶりつくのだった。
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