第二章第2話 イルミシティの闇

「聖女フィーネ様、聖騎士クリスティーナ様、ようこそイルミシティへお越しくださいました」


私たちが乗合馬車を降りると、町の衛兵がずらりと整列してやたらと大仰な出迎えが待っていた。


「私はデズモンド・メイナードと申します。ご覧のとおりの未熟者ではございますが、陛下より伯爵としてこのイルミシティ一帯をお預かりしております」

「デズモンド様。お目にかかれて光栄です」

「フィーネ様とクリスティーナ様には我が町で快適にお過ごしいただきたく準備を致しました。手狭かもしれませんが、我が屋敷にておもてなしをさせていただく名誉を賜ることはできませんでしょうか」


なんだか、今までで一番へりくだっている気がする。


「デズモンド様。お申し出、ありがたくお受けさせていただきます」


ニッコリ営業スマイル。クリスさんにエスコートされ私は迎えの馬車に乗り込んだ。周囲にはガラス玉やガラス細工を持った人が大勢いたのでちょっと悪いことをしてしまったかもしれない。それに経験値的にもちょっともったいない。


そして、私たちは大豪邸に連れてこられた。伯爵は手狭だなんて言っていたがとんでもない。まるで小さなお城だ。


「ようこそおいでくださいました。聖女様、聖騎士様。そしておかえりなさいませ。旦那様」


執事さんとメイドさんがずらっと並んでお出迎えをしてくれる。


「父上! おかえりなさい」

「おお、フェリックス。聖女様、聖騎士様、これは私の次男のフェリックスと申します。どうぞお見知りおきください」

「フェリックス・メイナードと申します。どうぞよろしくお願いいたします」

「フィーネ・アルジェンタータです。こちらはクリスティーナ。よろしくお願いします」


こういう時は営業スマイルはなしだ。今まで散々追いかけまわされたからね。


「おい、フェリックス。アルフレッドはどうした?」

「それが、兄上はどこかに出掛けていまして」

「むう、せっかく聖女様がおいでだというのに……」


どうやらアルフレッドという男は親の言うことを聞かないタイプのようだ。


「申し訳ございません、聖女様。実はもう一人息子がおるのですがどうやら急な用事のようでして、また後ほどご紹介させていただいてもよろしいでしょうか?」

「はい」


正直、紹介しなくていいんだけどな。貴族の息子なんて紹介されても大抵は不愉快な思いをするだけなんだしさ。


「おい、お二人をお部屋にご案内しろ。それでは、聖女様、聖騎士様。私どもは執務がございますので、これにて失礼いたします。後ほど、歓迎の晩餐会をいたしますのでどうぞご出席ください」

「ありがとうございます」


伯爵親子が屋敷の奥へと消えていく。


「それでは、聖女様、聖騎士様。お部屋にご案内いたします」


執事さんが案内してくれる。


「ああ、部屋は一部屋でお願いしますね」

「一部屋、でございますか? か、かしこまりました」


最近はクリスさんと同室にしてもらうようにしている。以前なら頑として聞き入れなかっただろうが、領主邸に泊まった時にそこのバカ息子に合鍵を使って寝室に侵入されたことがあったのだ。その時は影に潜って難を逃れたのだが、それ以来クリスさんは同室に泊まってくれるようになった。ホテルでもそうしてくれるので私としては宿代が安く済むようになってラッキーだ。


「どうぞこちらのお部屋をお使いください。もう一台のベッドは後ほどお運びいたします」

「ありがとうございます」

「それでは失礼いたします」


執事さんが優雅に礼をして部屋から退出していく。


「フィーネ様。すでにお気づきかと思いますが、この町に着いて以来ずっと何者かに後をつけられておりました。それに、この屋敷の中にも監視の目があるようです」

「この屋敷でも、ですか? ということは伯爵が監視をつけているってことですか? あれ、でもそうすると町中で尾行する意味はないような?」


伯爵本人が私たちに同行していたんだから、わざわざ尾行をつける意味はないだろう。


「監視をしているのが伯爵なのか、それとも別の者なのかはわかりませんが、警戒をしておくに越したことはないでしょう」

「そうですね。でも、クリスさんはどうして後をつけられているとか監視の目があるとか、分かるんですか?」


すると、クリスさんが意外そうな顔をしている。いやいや、普通分からないと思うのだが。


「それは、私が常々周囲を警戒しているからです。神経をこう、キュッと引き締めて、スッとすると、私への視線が感じられるようになります。その状態で自分の意識をブワッとすると、フィーネ様や私に敵意を向けている者や観察している者の動きがグイッと感じられるようになるのです」


しまった。最近事件がなかったからすっかり忘れてたけど、脳筋くっころお姉さんなんだった。聞いた私がバカだった。


「そうですか。参考にしてみますね」

「お役に立てて何よりです」


クリスさんが分かりやすく満足そうな顔をしている。


とはいえ、最近は主に下心的な悪意を向けられることも多くなってきたし、私たちに良からぬことを考えている連中をすぐに見つけられるようになれたら嬉しいんだよなぁ。


ああいう風に言うということは、少なくともスキルで探知しているわけではないはずだ。それなら、試しにやってみよう。





うん、さっぱりわからん。いや、待てよ。魔法で何とかできないかな? 索敵魔法とか、割と定番な気がする。


──── 聖属性の魔法で敵を探せ





うーん、何も起こらない。じゃあ、ちょっと自分で少しコントロールしてみよう。


【聖属性魔法】を起点に魔力を引っ張り出して、こう、レーダーみたいにして、くるくると回すイメージ。そこに聖属性を邪魔するものは……


「っ! クリスさん! 行きましょう」

「フィーネ様? どうなさったのですか?」

「何か、とても強い何かを感じたのです。場所はわかります」

「かしこまりました!」


私たちは急いで屋敷を飛び出し、感知したおかしな気配のする場所へと走りだした。

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