第一章第25話 聖女とは

2023/09/04 経過時間についての誤記を修正しました

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「教皇様、その人たちは何かまずいんですか?」


クリスさんが宿の手配に言って残された私は教皇様に質問してみた。クリスさんの様子が気になったのだ。


「いえ。そんなことはありませんよ。シャルロット嬢もユーグも上位貴族の出身でしてな。要するに、典型的な上位貴族なのです。なので、平民出身のクリスティーナとは反りが合わないようですね」

「そういうものですか」

「貴女もいずれお会いになりますから、その時に分かりますよ。シャルロット嬢もユーグも皆良い子たちですよ」


そう言って教皇様は優しく微笑んだ。


どうやら貴族といっても、どこぞのキノコ子爵のような面白枠ばかりではないらしい。


「さて、何から相談に乗りましょうかな?」

「はい。ええと、そもそもなんですが、聖女ってなんですか?」


あれ、驚いた顔をしている。これはクリスさんに説明されていると思っていたパターンな気がする。


「なるほど。そこからですか。では、ご説明いたしましょう。聖女、というのは貴女の治癒師と同じような職業です。ただ、聖女はただの職業ではなく、世界の人々を癒し、勇者と並び魔王を倒すという特別な使命を帯びています。そして、この聖女という職業は誰もがなれるものではなく、神に選ばれたただ一人のみが就くことができるといわれています」


なるほど。それで希少価値があるからただの候補の段階なのに下にも置かぬ扱いをされているわけか。


「聖女というのは、ほとんどの場合は聖騎士が見出した女性の中から出ています。理由は分かりませんが、聖剣が聖女の素質のようなものを感じ取り、聖女候補のもとに聖騎士を導いていると言われています」


うん。やっぱり私は違うな。もともとクリスさんはシュヴァルツ討伐に来ていたわけだし。それに、討伐隊が組まれたころだと私はまだこの世界にいなかったわけだし。


「何やらご自分は関係ない、とでも言いたげなお顔ですが、私は現段階において貴女が最有力だと思っています。貴女は、クリスティーナの貴女に対する騎士の宣誓で、彼女の聖剣セスルームニルを使ったとお聞きしていますよ?」

「え? どういうことですか?」


聞いてないぞ、そんな話。あ、いや、そういえば何かざわついていたような?


「聖剣というのは持ち手を非常に選ぶのです。少しでも気に入らない相手には、触られることすら嫌がるのです。重くなって持てなくなる程度ならまだよいですが、突然熱くなったり、衝撃が走ったり。それだけで命を落とすことすらもあるのです。ましてや、闇の力をもったものが触れたなら即座に浄化されてしまうでしょう。ですので、いくら聖女候補といえどもそう簡単には持てないですし、聖騎士もそれを持たせたりはしないのですよ」


おいいいいい、思っていたよりも遥かに危険物じゃないか!


「その聖剣をわざわざ宣誓に使うよう差し出した、ということはクリスティーナはよほど貴女の資質に自信を持っていたのでしょう。そして、貴女もその聖剣を軽々と扱ったそうではありませんか」

「ああ、そういえばそうでした」

「それは、聖剣自身が貴女にも扱えるように手伝ってくれたのですよ」

「え?」

「そもそも、あの大きさの剣ですからね。もともとそれなりに重いのですよ。少なくとも、レベル 1 の治癒師が自由に振り回せるほど軽くはありません」

「な、なるほど」


たしかに。結構長い剣だしな。って、聖剣はそれで良いのか? 吸血鬼に扱われるとか、もうちょっと聖剣としてのプライドを持とうよ!


「ですので、貴女は聖騎士が見出しただけでなく、聖剣自身にも認められているのです。貴女はご自分にもっと自信を持った方がよろしいでしょうな」

「は、はぁ」


でも聖女をやりたいわけではなくて、もっと無双したいわけなんですが……


「あの、勇者というのは?」

「勇者というのも職業です。これも神が選ぶといわれており、魔王が現れると神によって魔王を倒すべく選ばれ、いつの間にか勇者の職を与えられているそうです。こればかりは神のみぞ知る、といったところですね」


やべぇ、この世界。ということは、別の職業してたのにいつの間にか勇者になって、はい、勇者になったから魔王倒してきてください、ってなるわけか。


ていうか、アニュオンって、こういうゲームだったっけ?


何か、動画で見たアニュオンとは随分と違うような気がする。


まあ、もうかなり時間が経っているから動画の内容もかなり記憶が曖昧になってきているけれど。


「さて、他にはありますかな?」

「はい。実はゾンビを 12 匹も浄化したのにレベルアップしないのです」

「なんと、やはり吸血鬼というのは成長しづらいようですな」

「そうみたいです」

「今はどれほどの経験値を稼ぎましたかな?」

「あ、見てみます。ステータス・オープン」


────

名前:フィーネ・アルジェンタータ

種族:吸血鬼(笑)

性別:女性

職業:治癒師

レベル:1

Exp: 119

────


「今は 119 です」

「なるほど。人間でしたらレベル 3 になっている経験値量ですな。もし差し支えなければ、【回復魔法】のスキルレベルを教えて頂いてもよろしいですかな?」


うぅっ、これはまずい。MAX まで上がっていると知られたらヤバいよな。どうしよう。


「なるほど。答えづらいなら結構ですよ。もし、【回復魔法】のスキルレベル 3 以上あるのでしたら、副職業を取ってみてはいかがでしょう?」

「副職業?」

「ええ。治癒師をやりながら、別の職業を同時に持つことができるのです。とはいっても治癒師のような戦闘職ではなく、生産職や商業職と呼ばれるものに限られますが。【回復魔法】のスキルレベル 3 というのは、上級職である司祭に転職するために必要なレベルです」

「なるほど。そんなことができるんですね」

「はい。貴女は熱心に図書館に通われ、人々を救うための知識を学ばれていたと聞いています。それを活かす意味でも、まずは薬師を取ってみてはいかがでしょうか? そして、付与師を経て魔法薬師となればポーション作りもできるようになりますから、貴女の望み通り、より多くの人々を救えるようになるでしょう」

「そ、そうですねぇ」


どうしよう。そんなつもり全くなかったのに。図書館で魔導書が読みたかっただけなのにどんどん話がおかしな方向に。


──── どうしてこうなった?


「では、早速薬師の副職業を授けて頂きましょう。着いてきてください」


あ、困ってなんとなく答えた「そうですねぇ」を肯定の意味にとられた。

うーん、ま、いいか。なるようになるでしょ。せっかく勉強したのに使わないのはもったいないし。


こうして私は教皇様の見事なブーンからのジャンピング土下座に 10 点満点をつけている間に副職業、薬師を授かったのだった。

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