第一章第21話 ゾンビ退治 中編
どんな場所には朝はやってくる。昨晩私たちがゾンビの臭いと死闘を繰り広げたパーシー村も穏やかな朝を迎えていた。
「ふわぁ、おはよーございます」
「おはようございます、フィーネ様。昨晩はお見事でしたね」
私は欠伸をしながらクリスさんに挨拶をする。そう、昨晩は都合 11 匹のゾンビを浄化して、天国だか地獄だかは知らないがどこかに強制送還してやったのだが、そのせいで寝不足だ。とにかく眠くて眠くて仕方がない。
「レベルはいかがですか?」
そうだ。確認していなかった。クリスさんに言われて気付いた私はステータスを見てみる。
────
名前:フィーネ・アルジェンタータ
種族:吸血鬼(笑)
性別:女性
職業:治癒師
レベル:1
Exp: 109
────
「レベルは上がっていませんね。経験値は 10 から 109 に増えています」
あのゾンビは 1 匹あたり 9 の経験値をくれたらしい。
それにしても、なぜレベルが上がっていないのか? やはり吸血鬼だからか? それともこの『(笑)』のせいか?
「そうですか。人間だとすでにレベル 3 に上がっているはずなのですが、ハイエルフの成長の遅さというのはこれほどまでだったのですね」
なるほど。ということはレールに乗っていたらレベル 10 になるまで最低 15 年はかかっていたのか。危ない危ない。
「ゾンビは今晩も出るかもしれませんし、もう少しこの村に滞在してみましょう」
「そうですね」
お昼の間、私たちはパーシー村を見て回った。周囲は畑と森しかない本当に長閑な田舎の村、特にやることはないけど穏やかな時間だ。少し肌寒いけれど天気も良くて、日向を歩いていれば十分に暖かい。散歩にはうってつけで、心が休まる休暇とはまさにこのことだ。何より、ここに滞在している間は高級ホテルの無駄に高い部屋代がかからないというのが素晴らしい!
そして、村内には特に重病人がいるわけでもなく、腰が痛いとか、そういった程度の人達ばかりだったので、散歩ついでに治癒魔法をかけてあげた。今までの感覚では MP 切れを起こしていそうなのにその兆候は全くない。レベルもステータスも上がっていないのになぜだろうか?
ちなみに、お礼は何でも良いということが既に伝わっていたらしく、やたらと野菜をたくさん貰ってしまった。人参、ジャガイモ、それに少し季節外れらしいがトマトも。
うん、やっぱり田舎の贈り物といえば野菜だよね。キッチンがないうえに今のところ旅の最中もほとんど自炊してないから使い道ないけれど。
****
そして夜になった。村長さんのところで晩御飯を頂いてから再びゾンビの出待ちをする。ほとんど全部浄化したはず、という話を聞きつけたのか、村長さんの他に村の若い衆が数人、私たちと一緒に村の広場で待っている。
「もしかしたら、もういないかもしれませんけど」
「そうでしたらワシらとしてはありがたい限りです」
私の言葉に村長さんが反応する。
「今までは毎晩出ていましたからな。これで一匹も来なければもう大丈夫でしょう!」
「だといいですけど……」
村長さんの言葉に私は相槌を打つ。
──── しかし、あれだけ動きの遅い魔物なら村の男性陣でどうにかなったんじゃないですかね? 燃やすとかすれば倒せそうな気もするけれど
「しかし、フィーネ様の浄化魔法はさすがでしたね。ゾンビは浄化しない限り、切ろうが潰そうが燃やそうが、復活してくる厄介な相手なのです」
うおっ!? クリスさんに心を読まれた?
「それに、浄化だって簡単ではないはずなんです。並みの腕では、何度も何度も浄化してようやくゾンビが湧かなくなる、というくらい大変な仕事なんです」
「へ、へぇ、そうなんですね……」
「ああ、そういえばフィーネ様はゾンビ退治のお仕事は初めてでしたね」
「はい。そうですね。他にはあの妙に気障ったらしいシュヴァルツを行きがかり上、浄化したくらいですね」
「さすがです、フィーネ様」
何がさすがなのかはよく分からないが、この辺りはもう突っ込んでもきりがないのでやめておこう。
と、その時、かすかに腐臭が漂ってきた。
「あれ? どこかにゾンビが湧いていそうですね。かすかに臭います」
広場に緊張が走る。
「やはり、墓地でしょうか?」
「そうかもしれませんね。行ってみましょう」
「かしこまりました。フィーネ様。村のみなさんはいつものように戸締りをしておいてください」
「「「わ、わかりました」」」
私たちは村人を残して墓地へと歩を進める。そして、道半ばまで歩いたところで私は立ち止まる。
「どうされましたか?」
「いえ、墓地ではなさそうだな、と思いまして。さっきまで臭っていたのですが、村から離れるにつれてなくなってきました」
息を飲む音がする。
「急いで戻りましょう」
「はい」
私たちは小走りで村の広場へと戻ってくる。臭いも先ほどよりもきつくなってきているし、どこかからか近づいてきているのは間違いなさそうだ。
たき火の周りには村の若い衆が残って私たちを待っていた。
「あれ? 皆さん、何で帰っていないんですか?」
「いえ、その。暗闇からガブリとやられたくないと思いまして」
「ここなら灯りがありますし、聖女様達がお戻りになるまではここにいたほうが良いかなって」
「あ、でも村長さんは帰りました」
なるほど。どうやら村長さん一人が帰ったらしい。
「では、村長さんが無事か、確認しに行きましょう」
私たちは村長さんの家へと向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます