第一章第20話 ゾンビ退治 前編
そしてその夜、私たちは村の中央広場で待っていた。肌寒い季節なので王様に貰ったローブを羽織っていても少し寒い。寒空の下、私たちはたき火の前で暖を取っている。空気の澄んだ冬空に浮かぶ三日月が私たちとこの村をほのかに照らす。
「フィーネ様、どうかあまり無茶はなさらず。ゾンビたちの動きはさほど速くないとはいえ、噛まれると毒や呪いを受ける恐れがあります。MP の枯渇に十分ご注意ください」
「はい。分かっています」
とはいえ、毒と呪いは耐性がMAXになっているのだから効果はない気もする。でもゾンビって不潔そうだし、触られただけで変な病気になったりしそうだ。そもそも、気持ち悪いものに噛みつかれるのは遠慮しておきたい。
そんなことを考えていると、墓地のある方向から「う゛ー」という唸り声が聞こえてきた。
「フィーネ様、来ましたよ」
「わかっています。やりましょう」
墓地の方を見ると、くすんだ青緑色の二足歩行をしている何かがよろよろとこちらに向かってくる。あれがゾンビのようだ。よく見ると目玉が落ちかけていたり、そもそも落ちてなくなって眼窩にぽっかり穴のあいている奴もいる。うええ、気持ちわるっ。
そう思って見ていると、風向きが変わったようで鼻をつく酷い腐敗臭が漂ってくる。
「く、臭い……」
思わず鼻をつまんでしまう。すると、クリスさんが驚いている。
「フィーネ様、臭いを感じるのですか?」
「えええ、すごい臭いじゃないですか。臭い臭い。あと、見た目が気持ち悪いです」
「おお、この暗い中でも見えるのですか。さすが、ハイエルフの感覚は凄まじいですね」
「ハイエルフじゃないですけどね……さあ、さっさと終わらせましょう。臭くてたまらないです」
私が立ち上がると、クリスさんも立ち上がり、聖剣セなんとかを抜き放つ。
「ええと、村の通路をこっちに向かって歩いてきているのが 4 匹ですね。ここからだと 200 メートルくらいはありそうです。あと 6 匹くらい。どこかにいるはずですけれど、姿が見えませんね」
「では、フィーネ様。まずはその 4 匹を浄化しましょう。私は後ろについてフィーネ様をお守りします」
そう、これは私の経験値稼ぎなのだ。クリスさんが戦ってしまうと経験値が得られないのだ。
「お願いします!」
私は魔法の射程範囲に入るまでゆっくりと歩いて近づいていく。およそ 50 メートルくらいで届きそうな気がしたので立ち止まり、浄化の魔法を使う。
──── ええと、ゾンビの皆さん、臭くて気持ち悪いので早く天国でも地獄でも良いからさっさといなくなってください。浄化魔法っと
すると、ピンポイントで光の柱が立ち上り、 4 匹のゾンビが天国か地獄かしらないけどどこかへ還っていく。
「まだ臭いですね。鼻が曲がりそうです。こればかりは臭いを感じないクリスさんが羨ましいです」
「でも、臭いを辿っていけば大本に辿りつけるのでは?」
「犬じゃないんですから、そんなことできませんよ」
いくら吸血鬼は五感が優れていて嗅覚に優れているとはいえ、漂ってくる臭いだけで相手がどこにいるかを判断するなんて無理だ。
それにしても臭い。ただただ、ひたすらに臭い。本当に臭い。
「「う゛ー」」
お、また墓地のほうからだ。
「どうやら墓地のようですね。行ってみましょう。フィーネ様」
「そうですね」
私たちは墓地へと歩を進める。その途中にいたゾンビを二匹浄化した。
そして、墓地へとたどり着いた私たちが見たのは、墓の下からゾンビが這い出して来るというなんともショッキングな構図だった。墓石の前の土から身を捩って這い出してきている。
「うええぇぇ、気持ち悪い。それに臭い、臭い、臭い!」
私は思わず愚痴ってしまう。
「いやぁ、これは中々見られるものではありませんね。私もはじめて見ました」
さすがのクリスさんも少し顔をしかめている。
「見たくないですよ。こんな光景。えーい、全員浄化!」
私は浄化魔法を発動して這い出てきているゾンビ達をまとめて浄化する。
「相変わらずフィーネ様の浄化魔法は桁違いですね。ところで、MP は大丈夫ですか?」
「あれ? そういえば大丈夫ですね。まだまだ余裕がありそうです。なんで?」
そういえば、シュヴァルツを浄化したときも意識せずに結構な魔法を使っていた気がするけれど、MP は全く問題はなかった。治癒活動の時はあんなに MP 切れを起こしていたのに。
「なるほど。分かりました」
「お。どうしてなんですか?」
「フィーネ様は、本番に強いタイプなんですよ、きっと!」
ああ、期待した私がバカだった。MP と消費 MP は決まってるんだから、そんなわけないでしょうが!
そんな下らないやり取りをしていたが、後続のゾンビたちは一向に出てこない。どうやら打ち止めのようなので、今日のゾンビ退治はお開きとなった。
私たちはその足で村長さんのお宅に戻り、いつもよりも固いベッドで眠りにつくのだった。
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