第一章第5話 吸血鬼令嬢?

そんなこんなで私たちは森を抜け草原を抜けてザラビアの町に到着した。そして、私はそれはそれは豪華なホテルに連れていかれた。


「フィーネ様。長旅、大変お疲れ様でした。こちらがザラビアの町で一番のホテルでございます。支払いは全て騎士団で行いますのでどうぞごゆるりとおくつろぎください。明日の朝、私めがお迎えに上がります」


そう言うとクリスさんはどこかへいってしまった。私はホテルのボーイさんに案内され、やたらと豪華な部屋へ通された。


とんでもなく大きなベッドルームにとんでもなく大きなベッド、それにふかふかのソファ。トイレとバスルームは別でベッドルームのほかにリビングルームまでついてる。どう考えても一人で使うには広すぎる。


現実世界では泊まったことないけど、これって、スイートルームってやつだよね?


いやいやいや。最初のイベントクリアした報酬がこれってどう考えてもおかしいだろ。これ、絶対なんか結構大変な頼み事される次のイベントがある系のやつだよね?


もしかして、やらかした?


あー、あのイベント全員助けちゃいけなかったのか? いや、むしろクリスさんを見殺しにするのが正しかったのか?


とはいえ、見殺しにするのは流石に気分悪いし、きっとまだ森をさまよっていただろうしなぁ。いや、そもそもクリスさんがNPCとはとても思えないし。


ええい、まあ、なるようになるか。とりあえず今日はこのVIP待遇を満喫することにしよう。


****


気がついたら朝だった。昨日はやたらと豪華なディナーを食べ、そして久しぶりにお風呂に入った。洋式のバスルームなのでバスタブの中で体を洗うスタイルだったが久しぶりにお風呂に入れたのは素直に気持ち良かった。やっぱり日本人なら風呂だね!


で、お風呂から上がったら備え付けのガウンを羽織ってベッドにダイブ。そして今に至るわけだ。


それにしても、だ。どうしても納得いかないことが一つある。何で装備品のワンピースが汚れてヨレヨレになってきているのだろうか?


普通、VRMMO だと装備品はいつでも新品同様のはずだ。もしかして、アニュオンって装備品に耐久度とかあるタイプなのか?


いや、だからといって見た目がヨレヨレになるのはどうなんだ? 見た目課金の装備が汚れるとか、暴動が起きるだろ、絶対。


あ、それとも、魔法で修繕する的なやつか? あ、でも鍛冶とか錬金術に関係していそうなスキルは取らなかったからなぁ。厳しいか。ワンチャン、【回復魔法】で何とかなったりしないかな?


よし、ヨレヨレの服が新品同様になる回復魔法っと。





うん、何も起こらなかった。そりゃそうか。回復魔法万能説はナシか。残念。


私はやむなくヨレヨレになった初期装備のワンピースを着て朝食ビュッフェを頂く。なんだか視線が集まっているようでちょっと恥ずかしい。


まあ、これだけの高級ホテルでみすぼらしい服を着た絶世の美少女が一人で朝食食べてたらそりゃ気になるわな。


そそくさと朝食を済ませて部屋にひきこもる。クリスさんが迎えに来てくれるそうだし、それまでは大人しくしておこう。どうせ外に出たって何かするお金はないんだから。


****


どうしてこうなった?


あ、ありのまま今起こったことを話すぜ。部屋でクリスさんを待っていたと思ったらいつの間にかお姫様みたいなドレスを着せられていた。何を言っているのか分からねぇとは思うが……


はい。部屋で待っていたらクリスさんの使いだ、というメイドさんが三人訪ねてきて、あれよあれよという間に着替えさせられましたのでした。まる。


いやはや、あれは恐ろしかった。何と言うか、抵抗する間もなく素っ裸に剥かれてだな。


やー、アニュオン、面倒くさいね。装備変えるだけでこれとか。私は縁がないだろうけど、あの騎士様達の着ていた重そうな鎧とか、一人で着られるのかねぇ?


さて、とだ。その後やってきたクリスさんにこれまた豪華な馬車に乗せられ、その中で事の真相を聞くことになる。


「フィーネ様にはこれより領主様にお会いいただきます。フィーネ様が現在お召しいただいているドレスは、我々でご用意できる最高級のものでございます。お気に召していただけたかはわかりませんが、どうかこちらでご容赦ください」

「は、はあ。そうですか。私としてはいつものワンピースでも――」

「なりません。フィーネ様は異国の貴族のご令嬢でらっしゃいますよね? いかに他国とはいえ、アルジェンタータ家の家格が軽んじられるようなことがあってはなりません」

「は?」

「え?」

「私、別に貴族ではないですよ?」

「え?」

「どうして貴族だと思ったんですか?」

「え、家名がある時点で貴族なのではないかと……」


なるほど。様で呼ばれていたのもそれが理由か。


「家名はあっても貴族ではないのです。なので、普通の服でよいのですが……」

「……すみませんでした」


この脳筋くっころ女め!


しかし、これは一体どういうイベントなのだろうか?


きっと今ストーリーを攻略しているんだろうが、元々魔王をやらされそうになっていたのを無理やり変なキャラを作って割り込んだ形になっているんだよな。


しかもその魔王を最初にイベントで倒してしまったわけだ。


うん、これ絶対ストーリー崩壊してるだろ。もしかして、ストーリーが魔王討伐後まで一気に進むとか?


まあ、どんなストーリーなのか知らない時点で考えるだけ無駄か。このまま楽しむことにしよう。


そんなことを考えながら私は馬車に揺られるのだった。


──── しかし、いつになったら強制ログアウトさせられるのだろうか?

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