第一章第3話 吸血鬼襲来
私は荷馬車に揺られている。
ドナドナ、というわけではない。なんとか騎士団のみなさんが気を使って荷馬車に乗せて運んでくれているのだ。
いくら吸血鬼とはいえキャラメイクしたばかりの私のレベルは1だ。高レベルな騎士団のみなさんと同じペースで歩くのは無理なのだ。主に体力的な問題で。
さて、荷馬車に乗りながらくっころさんことクリスさんにメニューやらステータスの話を聞いてみた。
「クリスさん。アニュオンのメニューはどうやって開くんですか?」
「??? あにゅおん? めにゅー? それは、フィーネ様の故国の言葉でしょうか?」
もしかしてクリスさんは NPC なのだろうか、とも思ったが、 NPC にしてはあまりにも人間ぽい。
「じゃ、じゃあ、ステータスはどうやって確認するのでしょう?」
「ステータスでしたら、神殿で職業を授かることができれば確認できます。フィーネ様はまだ職業をお持ちではないのですか?」
「はい。実はまだなのです」
「そうでしたか。申し訳ありませんが、職業を授かることができる神殿は、わが国では王都にしかございません。手配は致しますが、当面は今のままでご辛抱ください」
「いえ、ありがとうございます」
私はお礼を言うと、気になっていることを質問してみる。
「ところで、町というのは……」
「今、我々が向かっているのはザラビアという港町です。それほど大きな町ではありませんが、我ら第四分隊の駐屯している町です」
ほら、聞いてないことまで矛盾なく答えてくれる。NPC ではこうはいかないはずだ。どうにも謎は深まるばかりだ。
半日ほどドナドナされていると、日が傾いてきた。
「フィーネ様、本日はこちらで野営致します」
どうやらまた野宿するらしい。それならモフモフも連れてくればよかった。とはいえ、後悔先に立たず。大人しく言われたとおりにしておこう。
しかし、アニュオンにログインしてからもう二日目だ。そろそろ強制ログアウトさせられても良いころだと思うんだけどなぁ……?
私はすっかりお客様扱いだ。これまでの会話から総合的に判断すると、私はどこか良いところのお嬢様だと思われているようだ。やっぱりこれも容姿端麗の効果かな。わざわざ 10 ポイントを消費してでも取っておいてよかった。
「フィーネ様。どうぞこちらをお召し上がりください」
「ありがとうございます」
干し肉と野菜のスープに固いパン。おいしくはないけれど、仕方ない。まあ、
そのまま騎士様達が張ってくれたテントに入り、おやすみなさい。私はクリスさんと同じテントだ。中身は別として体は女だからね。私は毛布に包まるとあっという間に眠りについた。
****
そして、私は突然の爆発音と怒号に目を覚ました。
「襲撃だ! 吸血鬼だ! 奴が出たぞー!」
うん? 吸血鬼ならここにもいるけど、私はいいのかな?
そんなどうでもいいことを考えながら周囲を確認してみると、隣で寝ていたはずのクリスさんがいない。どうやらもう迎撃に向かったらしい。
テントの外からは殴られたような音と騎士様達のうめき声、クリスさんの苦しそうな声も聞こえてくる。
──── これって、騎士様達が一方的にやられているんじゃ?
これはまずい。このまま騎士団が全滅してしまったらこの快適な旅が終わってしまう。
やむなく戦うため、私は毛布を羽織ったままテントの外へ出ることにした。
いや、だって、肌寒いんだもの。仕方ないじゃないか。
それに、私のスキル振りは対聖職者と対吸血鬼に特化しているのだ。そんじょそこらの吸血鬼ならレベルMAXの【聖属性魔法】を打ち込んでやれば一発だろう。
よい、しょっと。
私はテントから外へ出てみると、割と大惨事になっていた。10人ほどいた騎士の皆さんがボロボロの血だらけになって倒れている。そして、お尻をついたクリスさんとその前に立つやたらと美形の男という図が目の前にある。金髪に金色に輝くネコかヘビのような縦長の瞳孔を持つ瞳と少し尖った耳。口元からは牙が覗いている。
なるほど、こいつが言っていた吸血鬼か。
吸血鬼は余裕そうな表情でクリスさんを見下ろしている。
それに対するクリスさんは鎧の胸の部分が破壊され、右手で胸が見えないように隠しながらお尻を地面についてその男を見上げている。剣もその手を離れてしまったのか、左手は地面につかれており何も握っていない。
こ、これは! まさしく伝説のくっころではないか!
うーん、眼福眼福、って、違った。助けなきゃいけないんだった。
よし、あいつはまだこっちに気付いていないし今のうちに――
「フィーネ様? なぜ出てきたのですか!」
うわー、台無しにしてくれたよ。このくっころめ。
「おや? どうして貴女のようなお方がこのような者たちと共にいるのですか?」
「いやぁ、行きがかり上と言いますか……」
「まあ、良いでしょう。私は食事の時間ですので貴女のお相手はまた後でさせていただきます」
「はぁ……」
「フィーネ様!お逃げください」
いやいや。一人で逃げてどうするんだよ。町の場所も分からないのに。
そうこうしている間に吸血鬼の男がクリスさんに近づいていく。
「くっ、私は吸血鬼の眷属になどならぬ。一思いに殺せ」
うーん、惜しい。あ、でもこれもくっころの一種かな?
って、違う違う。助けるんだった。
えーと、聖属性の浄化魔法であいつを浄化っと。
次の瞬間、吸血鬼の足元から真っ白な光が立ち上り、辺りをまるで昼間のように照らす。
「ぐああああぁぁぁぁ!」
吸血鬼の男が凄まじい叫び声を上げる。やはり、使いたい魔法を割と適当に念じるだけでも発動するらしい。それにしても明るいな。そして、叫び声がうるさい。早く静かになってくれ。
「ば、バカな。なぜ、貴女がそれを……」
しばらくすると、なんだかそれっぽいセリフを残して吸血鬼の男は消滅した。まあ、最初のボスがそんなに強いわけないし、楽勝で当然なんだろう。
「な、な、な、な」
クリスさんが「な」しか喋らなくなってしまった。周りの騎士様達も大惨事だし、治療してあげるとしよう。みんなの傷よ、治れ~っと。
すると、私の周りから暖かな光が広がり、騎士様達の傷がみるみる治っていく。いやぁ、さすがレベルMAXの【回復魔法】、死者が出なくてよかったね!
「な、な、な、な」
やっぱり「な」しか喋らない。もしかして、これクリスさんも騎士様達も死ぬイベントだったのかな?
ま、いっか。寝よう。
「じゃあ、私は寝ますね。おやすみなさい」
私はテントに潜り込んでそのまま眠りについたのだった。
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