生徒会に入る。そして後輩を愛でる。

Joining


 ♡ ♡ ♡



 ──別の日の放課後。


 生徒会室を訪れた茉莉まつりは会長の絢愛あやめに手招きされた。他の役員はまだホームルームが終わっていないのか、生徒会室には茉莉と絢愛しかいなかった。


「ん? なんですか会長さん?」


 絢愛の隣の席に腰を下ろした茉莉は、身を乗り出してきた彼女に両手で頬を挟まれた。


「ていっ!」

「ふぁにふぅうんでふか(なにするんですか)!」


 絢愛は茉莉の瞳を真っ直ぐに見つめてくる。口調や態度はいかにもふざけているように見えるが、その目は全く笑っていなかった。


「このこの! 金髪巨乳の恋人がいて羨ましいやつめー!」

「ふぇぇ……」


 散々茉莉の頬を弄って満足したのか、茉莉を解放する絢愛。



「でね、どうかなづきちゃん? 私は羚衣優れいゆちゃんを生徒会に入れようと思うんだけど」

「えっ……?」


 その話は寝耳に水だった。会長以外は投票で選ばれていないとはいえ、今まで生徒会に縁もゆかりも無い三年生を突然生徒会に入れるなんて前代未聞だった。校則や生徒会規則で決まっているわけではないが……。

 安定を求める絢愛らしくはない決定だった。


「別に驚くようなことはないでしょう? 生徒会は意欲のある学生を受け入れないわけにはいかないわ」

「でも……」


 茉莉には羚衣優と一緒に生徒会の仕事をしている絵面がどうしても想像できなかった。


「だってほら、あの子毎日生徒会室の前でづきちゃんを待ってるでしょ?」

「うぅ……そうですけど」


 確かに毎日生徒会室に迎えに来てくれる羚衣優の存在は嬉しくもあったが、他の生徒に目撃された時の言い訳を考えないといけないので少し迷惑していた。

 そしてなにより、絢愛の口調には有無を言わせぬ気迫があった。


「でも、羚衣優せんぱいは生徒会に入りたいわけじゃないと思いますけど……」

「じゃあ本人に聞いてみる? 生徒会室でづきちゃんと一緒に仕事してみないって」

「聞き方……」


 そんな聞き方をしたら羚衣優は十中八九しっぽを振って生徒会の一員になるに違いない。


「づきちゃんもできるだけ羚衣優ちゃんと一緒にいたいでしょ?」

「あ、あたしはそこまでは……」


 茉莉はあくまでも仕事と恋愛はきっちりと分けたかった。生徒会に羚衣優が入ってしまったら、今までどおりに仕事ができるか、頼れる副会長でいれるか自信がなかった。茉莉は変なところで不器用だったのだ。


 そんな茉莉の様子を見て、絢愛はふふっと笑った。


「づきちゃんもこんなにオンナノコな表情をするようになったのね! お姉さん嬉しいわ!」

「からかわないでください!」

「そーお? 可愛いと思うけど……ねー? 羚衣優ちゃん?」

「──!?」


 慌てて扉の方を振り返る茉莉。するとまた窓の端に見慣れた金髪が隠れていくのを目撃してしまった。絢愛は随分前からそれに気づいていて、あえて羚衣優に聞かせていたようだ。

 茉莉は絢愛の策略に舌を巻いた。これはもう羚衣優の生徒会入りは確定したようなものだ。


 おもむろに立ち上がった絢愛は、扉に歩み寄って外に顔を出す。


「ちょ、ちょっ会長さん!?」


「れーいゆちゃん。あっそびましょー?」


 あたふたする茉莉をよそに絢愛は羚衣優に声をかける。絢愛の肩のところから顔を出すと、羚衣優は扉の脇に身をかがめて頭を両手で隠すという謎のポーズで震えていた。どうやら羚衣優は人見知りらしい。


「初めまして、私の名前は四月一日絢愛っていうの。知ってると思うけどこの星花女子学園中等部の生徒会長。──神乃羚衣優ちゃん。生徒会に入らない?」


 あ、言ってしまった……。と茉莉は頭を抱えた。

 しかし羚衣優は首を横に振る。


「い、いえ! わたしはいいんです、ごめんなさい……」

「ふーん、そっかぁ」


 諦めた様子でこちらを振り向いた絢愛は──ニヤリと笑った。


「──それじゃあづきちゃん。まだ他の人来ないみたいだから私とエッチなことしよっかぁ?」

「ふぎゃっ!?」


 正確に文字にはし難いが、羚衣優はそんな声を上げて絢愛を押しのけながら強引に生徒会室に入ってきた。そして茉莉の右腕にしがみつきながら絢愛を睨みつける。絢愛の言葉に驚いた茉莉だったが、その羚衣優の様子が好きなおもちゃを独り占めしようとするネコのように思えたので本能的に「可愛い」と思ってしまった。


「あら、でも生徒会役員じゃない人は生徒会室に入れないのよー。どうしようかしらねぇ……」

「いるだけでよければ入りますけど……」

「いるだけでいいのありがとー!」


「……」


 いいように丸め込まれてしまった茉莉と羚衣優は目をぱちくりさせているだけで、何も口にすることができなかった。


「じゃあれいちゃんは──れいちゃんって呼んでいい? れいちゃんは、づきちゃんの隣に座ってね? 一応部屋の中ではイチャイチャは控えてくれたら嬉しいけど、もし我慢できなくなったら皆生温かい目で見てくれると思うから、そのままイチャついてもいいのよ?」

「やめてくださいよ会長さん……」


 そう言いながらも、茉莉は満更でもなかった。羚衣優が隣にいるというだけで、なんとなく落ち着くという事実を今ひしひしと感じていたのだ。



「あ、ちょうどよかった。みんな、今日から新しい生徒会メンバーが増えるわよー」


 その時、生徒会室の扉が開いて沙樹、杏咲、玲希の三人が入ってきた。





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