第24話 温泉はゆっくり浸かりたい
「腰痛い~。お尻痛い~」
翌朝、奏汰はベッドの中で恨みがましく訴える。
「ご、ごめん。だって奏汰のアソコ、凄いんだもん」
そんな奏汰に、ルシファーは離したくなかったんだもんと、詫びつつもにやにや。
いやぁ、あの感触、凄すぎた。今までのセックスなんてお遊びだったな。そう思う。
「はぁ。まぁ、相性がいいってことか」
文句を言いつつも、気持ち良さしかなかった事実に、奏汰もルシファーのことを認める。
あんなところにあんなものを入れて気持ちいいのか。
そんな当初の疑念が一発で吹っ飛ぶほど、それは気持ちよかった。
良かったけど・・・・・・
「ああ、今日は立ち上がりたくない」
それが本音だ。
「ええっ、今日こそ奏汰の水着姿が見たかったのに」
するとルシファー、せっかく海に来ているのにと抗議の声を上げる。
何なんだよ、この悪魔様。まさかの海好きか。
昨日も背中の羽が濡れることも気にせず、ばしゃばしゃ泳ぎまくっていたもんな。
奏汰はその姿を見て、海鵜かと心の中で密かにツッコんでいたほどだ。
「嫌だよ。泳げないよ、こんな状態じゃ」
奏汰はむりむりとふかふかの枕に顔を沈める。
「うぐぅ。俺様の責任だから強く言えない」
そしてルシファー、ぬぐぐっと悔しそう。
ははっ、珍しくルシファーが自分の非を認めているよ。
そんな呑気な会話をしていたら、ドアがノックされた。
「奏汰く~ん、ルシファー様、起きてる~?」
そして外からルキアの声。
「起きてるぞ」
ルシファーは答えると、バスタオルを腰に巻いてドアを開けた。
そう、起きてはいるが二人ともまだ裸だ。しかもその身体には情事の跡が!
奏汰は見られたら拙いと、がぼっと布団に潜り込む。
「ああ、まだお楽しみの最中でしたか。夜通しとは凄いっすね」
ルキアの呑気な声が布団の中にまで届く。
よ、夜通しに近かったけど、そこ、指摘しないでくれ!
「まあな。そっちだって夜通しだったんじゃねえの」
で、ルシファー、なんの確認をしているんだよ!
「そうなんですよね~。いやあ、サタン様のご子息は凄くて。で、俺も含めて3Pじゃないですか。ベルゼビュート様はもう大変で。まあ、可愛いんですけど。普段は完璧な人がエロく乱れるのって、なんであんなにいいんでしょうね。俺も止まらなくなっちゃいましたよ」
くくっと笑うルキアの発言はゲスだ。奏汰はベルゼビュートに心から同情する。
「なるほど、ベルゼビュートも奏汰と同じ状態か」
でもって、ルシファー、余計なことを言ってくれる。
くぅ、それって昨日、俺が乱れまくってたってルキアに教えてることになってんだぞ。解ってんのか、あの悪魔。
「じゃあ、丁度いいや。サタン様がこの近くに別荘をお持ちなんだけど、そこに温泉があるんだって。行きませんか?」
「温泉」
しかし、日本人として聞き逃せないワードが出てきて、つい反応しちゃう奏汰だった。
「温泉だぁ」
眺めバッチリの露天風呂に入り、奏汰はぷはぁっと息を吐き出した。
ああ、生き返る~♪
湯加減もよく、肩までしっかり浸かることができ、そして広々としている。もう最高の温泉だった。
「痛めた腰にいいですね」
「あっ、はい」
しかし、横にいるベルゼビュートがしみじみ言うので、奏汰は同意しづらいなあと思いつつ、頷く羽目になる。
「分けて正解でしたね」
そんな複雑な表情を浮かべる奏汰に、私と一緒の方が気楽でしょとベルゼビュートは苦笑する。
話題としてはどうしても昨夜のことになりやすいとはいえ、セクハラ行為の心配はないのだ。
「まあ、そうですね。奴らの前で無防備に裸を晒すなんて・・・・・・自殺行為ですよ」
奏汰は男女別ならぬ攻め受け別になるなんて、風呂が危険な場所になるなんてと溜め息。
「確かに危ないですね。特にサタン様は・・・・・・こうなると解っていたから、なかなか私も気持ちを認めなかったくらいに、どこでも発情していますからねえ」
ベルゼビュート、そう言って思わず遠い目をする。その遠くにはきらめく海が見えるのだが、それが何の慰めにもなってくれない心境だ。
「ベルゼビュートさんも大変ですね」
「奏汰だって。人間界から拉致されたわけですし」
「ええ、まあ、そうですね。でも」
奏汰はルシファーに出会えて良かったと、今なら心からそう思う。
あの頃の自分って迷走してたしなあ。なんか、ルシファーがやって来たからあれこれ向き合えたような気がするし。
しみじみと考えつつ、しかし腰が痛いと露天風呂に沈んでいく。
「今がいいなら、まあ、いいんでしょうね。私も、無理につれなくするのも面倒になっていましたし」
同じく露天に沈むベルゼビュートは
「愛されすぎるのも疲れますね」
と付け加え、二人で笑ってしまうのだった。
「くう。昨日の今日だから仕方がないとはいえ、風呂が別なんて」
「腰のためとはいえ、お預けを食らった気分だ」
その頃、ちょっと離れた位置にある、聳える山の景色が素晴らしい露天風呂に入る攻めご一行様は、お風呂で温まった奏汰やベルゼビュートを見たいようと叫んでいた。
「奏汰くん、複数プレイを受け入れてくれますかね」
ルキアは温泉を堪能しつつ、そこは確認。すると、高位の悪魔二人ははたと立ち止まる。
「言われてみれば奏汰は倫理観が凄いからなあ」
ルシファー、悪魔じゃないからなあと腕を組む。
「慣れれば大丈夫だろ。お前の変態的な愛も受け入れたんだ。いずれは、俺だって奏汰を味わいたい」
サタン、二番目でいいから好きになってほしいんだと、割と本気に主張する。
「その場合、俺様はベルゼビュートを試していいんですね」
ルシファー、それは考え物だとそう訊ねると
「やればいいだろ。というか、いずれは4Pそして5Pへと発展させたいのに」
サタンは何の躊躇いもなく言い放った。さすがは悪魔の王。倫理観なんて欠片もなかった。
「サタン様、さすが~♪」
すでに3P要員のルキアは拍手喝采だが
「いや、複雑すぎる。奏汰は俺様の伴侶です!」
珍しくルシファーが拒否に回るのだった。
「そもそもベルゼビュートさんとサタンさんって、ずっと一緒にいるんですよね?」
温泉に浸かりつつ、なれ初めってどうなっているのかと奏汰は訊ねてしまう。
「ずっとというと違いますけど、この魔界が出来上がる頃には一緒にいましたね」
「へえ。魔界っていつくらいに出来たんですか?」
悪魔に関してそれほど詳しくないしと、奏汰はさらに質問。こういう確認をする時間がなかったから、まとめて訊いてしまう。
「キリスト教がヨーロッパを席巻してからですよ。悪魔というのは、結局のところ神と対立するものという意味ですからね。あの教義がなければ、我々も悪魔じゃないです」
ベルゼビュートは、色々と大変でしたと大きく伸びをする。なるほど、キリスト教がなければ悪魔はいなかったのか。それは不思議だ。
「ああ、もちろん他の教義であっても悪魔というのは発生しますけれどもね。でも、これほど爆発的に悪魔の数が増えたのは、あの教えのせいです。他を認めない一神教というのは、その他の神を悉く悪魔にしてしまいますし」
「はあ。今でも宗教対立してますもんね。何かと悪魔が増えそう」
「そう、それです」
おかげで魔界の整備も急ピッチでしたねとベルゼビュートは溜め息だ。
なるほど、人間界の影響をもろに食らうわけだ。悪魔がひょいひょい現われちゃうと、魔界も大きくなっていくというわけだ。
「ふん。じゃあ、ルシファーもその頃は真面目に働いてたのか? いや、今も真面目だけど政治方面って意味で」
あのルシファーも元は天使だもんなあと奏汰は首を捻る。どういう経緯なのか知らないけど、奴も天界から魔界へとやって来たわけだ。
でも、あの俺様男が天使。なんか想像できない。天界のことを中学校って言っちゃう男だぞ。
天使長だった頃から適度にサボってそう。
「政治方面は昔から適当ですよ、あの方は。しかし、サタン様をお慕いしているのは私と同様ですから、整備中は尽力してくださいましたよ。まあ、ルシファー様の適当部分を直すのは大変でしたけど」
「・・・・・・ベルゼビュートさん、ちょっと恨んでますね」
「まさか。ははっ」
「いや、完全な苦笑い」
こんな感じて、奏汰とベルゼビュートはお友達として仲良くなったのだった。
「遅い!」
が、そんな平和な会話が展開されているとは思わないのがこちらだ。
温泉を堪能するよりも悶々としてしまったルシファーたちはさっさと出てきたのだが、あの二人がなかなか温泉から出て来ない。ビール片手に待っているが、全然出て来ない。
「これはあれだな。奏汰とベルゼビュートの二人でお楽しみタイム中だな」
「ぐっ」
ルシファーの心配に油を注ぐのはもちろんサタンだ。
「おっ、綺麗どころが絡み合っているわけですね♪」
で、余計なことを言うのがルキアである。
おかげでルシファーはそろそろ我慢の限界に到達しつつあった。缶ビール一本分待ったが出て来ないなんて。絶対に何かやってる!
「許せん! 俺様を無視して温泉プレイを楽しむなんて!!」
もうこうなったらあの二人の入る温泉に突撃するぞ。ルシファーはバスローブを脱ぎ捨てながら走って行く。
「よし。堂々と行けるぞ」
「はい」
もちろん、サタンもルキアも追い掛けるのだった。
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