第11話 魔界ホスト・ルキア
食後は近くにあるバーに行くぞと、ルシファーは意気揚々と奏汰の手を引っ張って歩き出す。
「バーまであるのか。ってか、俺、そんなに酒に強くないんだけど」
この間ワインを200本飲んで二日酔いを起こした悪魔とは違うんだぞと、一応は主張しておく。
「大丈夫だ。軽く飲んで帰るだけ。それにバーも俺様が経営しているところだ」
「へえ」
「そんな、酔わせて悪戯しようとか思ってないから」
「・・・・・・怪しい」
てへへっと笑う顔ほど信用ならんものはない。奏汰は思わずじどっと睨む。
「本当に何もしないって」
「あっ、ルシファー様♪」
夜道を歩きながら揉める二人に、やたら明るく声を掛けてくる奴がいた。一体誰だと振り向くと、いかにもホストな格好の男がいた。コウモリ羽もホストクラブの方針かと思ってしまうほどだ。
「ああ、ルキア。どうした?」
「知り合い?」
「うちの従業員の一人」
「・・・・・・」
さらっと紹介されて、お前ってホストクラブまで経営してるのと奏汰はドン引き。
「どうも~。『ナイトメア』ナンバーワンホストのルキアで~す」
そんなドン引きしている奏汰に向かって、ルキアは軽く挨拶をすると名刺を渡してくる。手慣れている。マジでホスト。
「ん?日本語だ」
「だって、お兄さん日本人でしょ。サービスするよ♪」
にこにこと笑うルキアは、背が高いから気づかなかったが日本人っぽかった。あれ、お仲間?
「ああ。ルキアは人間だったんだ。ちょっとやんちゃが過ぎて見事に悪魔の仲間入りを果たした。俺様が日本に興味津々だと言ったら、日本の水商売というのを教えてくれたんだ」
えっへんとルシファーは威張るが、色々とツッコみどころがあり過ぎてどこから処理すればいいのか解らない。
「ええっと、じゃあ、ルキア君は日本人なんだ」
「そっすよ~♪ いやあ、魔界サイコーっすよね。お兄さんはどんな悪さをしたの?」
「いや、俺はこの悪魔に拉致されただけで」
「へえ。まあ、真面目そうっすもんねえ。ルシファー様、このお兄さんをご指名しちゃったんだ」
「ああ。伴侶という席にな」
「くはっ。カッコイイ~♪」
おい、誰か助けてくれ。
奏汰は軽い調子で交わされる会話に頭痛がしてきた。ってかこのルキア、根っからのホストだ。
「そうだ。これから飲む予定だったんだ。バーでお洒落に奏汰を落とそうと思ってたんだが警戒されてな。予定変更して『ナイトメア』に行こう」
しかもルシファー、あろうことか行き先をホストクラブに変更してくれる。何の嫌がらせだ。同じ水商売ならばせめてキャバクラにしてくれ!
「いいっすね。お兄さん、モテますよ~♪ ルシファー様、シャンパンタワー入れてくださいよ」
「もちろんだ」
「あ、あの」
奏汰が何か言う前に、ルシファーにぐいぐい引っ張られ、ルキアに背中を押される。
だ、誰か助けて~。
ルキアに連れられてやって来た『ナイトメア』は、日本のホストクラブと大差ない場所だった。
「ルシファー様~、奏汰く~ん。サイコーだよ♪」
ただし、客が男だということを除くという注意書きが必要だ。自分たちもそうだが、他にも男の客がちらほらといて、しかも真剣に口説いていたりするから・・・・・・単純なホストクラブではない。
「はあ。現物を見るとびっくりするな」
で、奏汰は人生初のシャンパンタワーに呆然となる。上からざばざばと振りかけられてグラスにシャンパンが満たされていく状況も凄いが、流れるシャンパンがキラキラ輝いてそれも凄い。
「すげえ」
もう、感想が凄いに集約されてしまう。
「あっは。奏汰くんの顔、可愛い~」
「本当だ。さすがはルシファー様、お目が高い~♪」
ルキアに続いて別のホストが褒めそやすが、奏汰は嬉しくない。
「だろう。これからもっと可愛くなる予定だ」
そして奏汰の肩を抱いて自慢しちゃってるルシファーは、奏汰と対照的に超嬉しそうだ。
「何だよ、可愛くなる予定って」
「そりゃあ、決まってるだろ」
にやっと笑われ、その先は聞かない方がいいんだなと奏汰はげんなり。
「確かにベッドでもっと可愛くなるんだろうなぁ。ああ、羨ましい」
しかし、ルキアがずばっと言ってくれたので、奏汰はがっくり肩を落とす。
さっきからダメージばっかり食らうなあ。
「じゃあ、ルシファー様と奏汰くんを祝して」
「かんぱ~い」
そんな奏汰を除いていつの間にか店中に配られたシャンパンにより、盛大に乾杯が行われる。そして拍手される。
ああ、いたたまれない。
「今日は俺様と奏汰の未来を祝して奢るぞ~。たっぷり飲んでくれ」
「やった~」
「売り上げは俺のものっすよね」
しっかりそう確認するルキアは、さすがはナンバーワンホストというところか。
「ううん。ルキアが三分の二で、二番のミチルと三番のルノアが三分の一ずつだな」
「さすがはルシファー様」
「経営者の鏡です」
三分の一配分されると知ったミチルとルノアがルシファーの前に跪き、手を取ってキスをするというサービスをしていた。
いやはや、ここって何なの?
「ほらほら、奏汰くんも飲んで~」
「そうそう。魔界なんだよ。楽しまなきゃ」
「堕落サイコー」
そんなコールを聞きながら、奏汰はますますげんなりする。
ただ、思った。ここが最も魔界らしい。
「奏汰、どうした?」
シャンパン片手に固まり続ける奏汰に、さすがのルシファーも心配になる。
「いや、別に。欲望に忠実だなあって」
「そりゃあそうだ。そしてそんな悪魔たちを満足させるために色々経営しちゃう俺様って偉い!」
「はいはい」
「実はこの町のほとんどの店が俺様のものだ」
「だろうな。もう大体想像できていたよ!」
レストランに服屋にバーにホストクラブ。何かと節操なく商売しているというが、全部やってますと言われるのが一番すっきりする。
「みんな、経営は面倒だからやりたくないんだって。面白いのに」
ルシファーはそんなことを言って膨れているが、やっぱり魔界トップ3が真面目ということだ。
ここが平和な理由がはっきりした、カオスの夜だった。
翌朝。目覚めたらもう12時前だった。
「めっちゃ寝た。ってか普段、夜遊びとかしないからなあ」
奏汰は部屋の置き時計を見つめたものの、まだ布団から起き上がる気になれなかった。なんかもうめっちゃ怠い。
あれからホストたちと盛り上がるルシファーは、そのまま朝までどんちゃん騒ぎ。途中様子を見に来たベヘモスに奏汰は助けを求めたが
「駄目!奏汰はここにいるの!!」
「そうだよ~♪ まだまだ夜は長いよ~♪」
とルシファーとホストたちに阻まれ、結局はオールだ。奏汰はその後コーラばかりを飲んで酒は飲まなかったものの、徹夜して騒いだのは同じだから疲れている。
「ううん」
もうちょっと寝るかともぞっと動いて、ふぁさっとした何かに当たる。これはどう考えても羽毛の感触。
「あ?」
見ると、さも当然のように横で寝ているルシファーがいた。しかも疲れているからか、珍しく奏汰とは反対側を向いていた。だから羽が顔に当たったのか。
って、おい、お前には立派な部屋があるだろう。
「ルシファー、邪魔」
「邪魔とは何だ~。むにゃむにゃ」
まだ寝ぼけているらしいルシファーは、反論したわりにすぐまた寝てしまった。
なんだ、この悪魔。
「むにゃむにゃじゃねえよ」
奏汰はルシファーにデコピンを食らわせ、取り敢えず風呂に入るかと起き上がった。帰ってきてすぐに寝たから、何だか気持ち悪い。ついでに着替えるのも面倒だから、ネクタイとベルトだけ取って寝た状態だ。
「はあ」
と起き上がって、ズボンがいなくなっていることに気づく。
え? 確かに穿いて寝たよね?
奏汰はどこにいったんだろうと、起き上がってベッドをがさごそ。
「いいなあ。ワイシャツだけの奏汰。淫靡でいいよ」
「っつ」
背後から誰かが抱きついてくる。奏汰はフリーズ。
あれ、目の前にはまだ寝ているルシファー。ってことは誰?
「奏汰。どうだ? 俺のものにならないか」
そしてすかさず口説いてくる声で解った。
「ちょっ、サタン王。どいてください」
奏汰はじたばたと暴れる。しかし、サタンはしっかホールドしてくれている。
「ええっ、やだ。もっと奏汰とスキンシップしたい」
「めっちゃ一方的」
「いいじゃないか。奏汰ってあれだろ。待ってたらそのまま自然消滅するような関係になるタイプだろ。自分から押すのも苦手なくせに、相手が自分のテリトリーに入ってくるのは許せないんだ。可愛いねえ」
「ぐっ」
見透かされている。そういうところは王様っぽいな。奏汰はそのまま忘れ去ってくれよと心の中で絶叫。
「ほら。ちょっと足を開け」
「なっ、何を」
「何ってそこの大きさを」
すすっと太ももを撫でられ、そして大きさと言われて気づく。
「セクハラすんな~!」
サタンの手が股間に伸びる前に、奏汰は渾身の頭突きをサタンの顎にお見舞いするのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます