ツンデレ幼馴染サンタからの特別なクリスマスプレゼント! 今更擦り寄って来たって、もう遅い! って言おうと思ってたんだけど……。プレゼントがまさかの……。ええっ?!
おひるね
第1話 もう、うんざりなんだよ!
「わぁ! にぃに! 今日の夜雪振るって!!」
リビングのTVの前ではしゃぐのは妹の小雪。
名前に負けず冬に強い子で、朝から元気いっぱいだ。
「ねえねえいこーよーにぃにも! イルミネーション超綺麗だよ?」
「兄ちゃんは勉強あるからなぁ」
「嘘つき! やーだやーだ。にぃにと行きたいぃ~」
できることなら行ってあげたいんだけどなぁ……とは思うも行きたくない気持ちが勝ってしまうのは、なにも妹が嫌いだからとかそんな理由からではない。
むしろ大好き。
兄ちゃんは小雪のことが大好きだぞー!
と、今この場で言ってしまうと、小雪はますます引き下がらないだろう。……困った。
「こーら! お兄ちゃんを困らせるんじゃないの! わがまま言うと連れてってあげないよ?」
「ちぇー。最近のにぃにノリ悪いからきらーい」
さんきゅー母ちゃん。
まあこれはあれだ。高校2年生にもなって、外出して家族でクリスマスを過ごすなんて言うのも、なんだかなぁ。ってやつ。
妹のことは好きだし、父さんや母さんのことも嫌いじゃない。
でも、…………なんだかなぁ。ってやつ。
思春期真っ只中。
スキル『カッコツケタガリー』などと命名しておこう。
彼女いない歴=年齢。
だからこそ余計にジェラシーを感じてしまう。
この日、いったいどれだけのカップルが……男女が…………ジングルベルに想いを乗せ、愛を囁き合うのだろう。そう思うと虫唾が走る。
──クリスマスなんて、嫌いだ。
◇ ◇ ◇
とはいえ平日だ。
祝日でもなんでもない。いつもと変わらぬ平日だ。なんのことなしに当たり前に学校に向かう今の俺が平日を証明しているわけである。
「ふぅー。さみぃ」
手袋の上からふぅはぁして温めてみるも、この寒さは拭えない。
だって今日はクリスマスだから。
なんてったってクリスマスだから。
平日だけどクリスマスだから。
敗北者としての心の寒さまでは拭えない。
それもこれも全部あいつのせい。
ことあるごとに俺の恋路を邪魔してくる、あいつのせいなんだ。
あいつさえ居なければ、今頃俺だって──。
こんなこと思っているとあいつはやってきた。
「おっはよーワンコ!」
「おう。おはよーさん」
「もぉ~! だからワンッ! って返事しなさいって何度も言ってるでしょ~」
そう言うと容赦なく頬をつねってきた。
「痛っ、いてて、いてて、……ワンッ!」
「じょーでき! ワンコは馬鹿だな~。最初から素直に吠えてればいいのに」
はぁ……。と心の中で溜息をひとつ。
今日の朝もいつもと変わらず、こいつと登校する。
幼馴染の華蓮だ。
成績優秀、容姿端麗、スポーツ万能。
どこに出しても恥ずかしくないスーパー美少女。
人あたりもよく、分け隔てなく誰にでも優しい。
なのだが、俺に対してだけ当たりが強い。
昔からこんな感じだったのだが、そのまま歳を重ね今もなお続いていると言えばそれまでだが。
こんなのはどうしようもなく間違っている。
そろそろ本当に突き放さないといけない。
俺はワンコじゃない。人間だ……!
そう思い始めたのは中二の夏。
そして中三に上がる頃には高校行けば離れるわけだし、まあいいかなんて思った。
まさかの同じ高校へ進学。
華蓮が第一志望、さらには第二志望まで落ち、俺は補欠での繰り上げ合格。
まさに奇跡の大セールで俺たちは同じ高校へと進学してしまった。
そしてこれが、地獄への輪舞曲の始まりだった。
なんやかんやあって今ではワンコと呼ばれる日々を送っている。
「そうだ! これこれ! ワンコにあげようと思ってたの!」
そう言うと俺の有無などお構いなしに口の中にチョコを押し込んだ。
「うぐごごごご」
「美味しいよねっ?」
パクッと華蓮も同じものを口の中に。
まあ、美味しいですけどね。毎回強引なんだよ本当に。
心の中で本日二度目の溜息を吐いた。
──はぁ。
◇ ◇ ◇
そうして電車に揺られ、俺たちが通う学校の最寄り駅に到着すると華蓮は俺の腕に抱き着いた。
「あったかいね! ワンコ!」
「そうだな」
もはや俺は諦めの口調で素っ気なく返事をする。
これはいわゆるあれだ。
私のペットを取らないでね的なあれだ。
傍から見たらカップル。
でもここには埋められない大きな溝がある。
「いてて、いててて」
「素っ気ないの嫌いって言わなかったっけ? なんでこう毎朝同じこと言わすかなー」
抱き着いた腕の隙間から周りに見られないように脇腹をつねってくる。これがなんとも痛いのなんのって。
まあなんだ。いい匂いはするし、コート越しにも伝わる柔らかな何かは健全な男子高校生なら喜ぶ場面なのだろう。
でももう、俺の心はワンコと呼ばれる日々に疲弊して枯れてしまったよ。
俺はこいつと居る限り、未来永劫ひとりぼっちのクリスマスを過ごす。バレンタインもホワイトデーも。
まあ、ひとりぼっちとは言ったけどきっと華蓮は今年もうちに来るんだろうけどな。
隣にこいつが居ても、ひとりぼっちと何ら変わらないんだよ。
とはいえ毎年恒例だしな。仕方ないか。
そう思っていたのだけど。
その日の放課後、思いもよらぬことを華蓮から言われてしまう。
「え、なんで? もううちら高ニだよ? ワンコと過ごすわけないじゃん。クリスマスって言うのはね、大切な人、それこそ恋人とか好きな人と過ごすものなの。わかってるの?」
なんだって……?
それはいつか俺が言ってやろうと思ってたセリフだった。
それをこうも簡単に、クリスマスという今日に言われて、今まで張り詰めていた心の糸が切れたような気がした。
──プツンッ。
「ああそうかよ。もううんざりなんだよ! 二度と来んな!!」
「え、ちょワンコ? どしたの?」
「どーもこーもねーよ。じゃあな」
「あっ──!」
華蓮は何かを言いかけているようだったけど、俺はそれを振り払い走った。
あー、せいせいした。
これで俺はワンコじゃなくて人間だ!
「はははは、はは」
もっと高らかに笑えるものかと思ってた。
でも、ぜんぜん笑えなかった。
クリスマスなんて嫌いだ。
大嫌いだ。
◇ ◇
「クリスマス限定、スペシャルチキンハッピーセット12Pですね?」
クリスマスなんて祝うかよ馬鹿らしい。
「はい」
「お会計は1980円でーす」
クリスマスなんて平日だ。
どっかの誰かが勝手に決めたいつもと変わらぬ日。
だから俺は知らん!
今日はクリスマスじゃない!
「2000円お預かりいたしまーす。お釣りの20円でーす」
「どうも」
とはいうものの、バッチリチキンを買って帰宅してしまう俺は、とんでもないあまのじゃくだ。
自分の部屋に入ると、ベッドにダイブした。
仰向けになり天井を見上げる。
どこかで華蓮には期待をしていた。
もしかしたら、ひょっとしたら──。
そんな淡い期待すらも高ニのクリスマス。今日という日に討ち滅ぼされた。
俺は本当に、あいつにとって都合の良いワンコだったんだ。
いらなくなったら捨てる。その程度の存在。
なにがワンコだよ。
「ワンっ!」
「ワンっ!」
「ワンワンワンワンワン!!」
華蓮との思い出が脳裏を駆け巡る
「ワンワンワンワンワンワンワンワンワンワンワンワンワンワンワン」
思い返してみると、ワンワン言ってばかりだった。
ふいに溢れる言葉は「ワン」ばかり。
「ワオーーン!」
ひとり寂しく、自分の部屋で吠えまくった。
──俺は、捨て犬なんかじゃない。
今日から、人間なんだ──。
◇ ◇
さんざん吠えると不思議と心が落ち着いた。
パソコンの電源をつけて待機する。
どうせ華蓮が来るから見れないと諦めていた、メルルちゃんのクリスマス特別生放送!
待機中のコメント欄は荒れていた。
『なにがクリスマスだバカヤロー』
『ゲーム配信はよー!』
『チキン食べすぎておなかパンパンだお』
『一年一度、チキン食べまくっても太らない日だろJK!』
『↑嘘つき野郎はNG安定~』
コメント欄を見ているだけで笑みがこぼれた。
そうこうしている間にメルルちゃん特別ステージは開演した。
『おーおー! なんだね君たちぃ~! 今日はメルルちゃんと過ごすぅ~、一年に一度の最高の日じゃないのかね~!』
『うおお! メルルちゃん!』
『待ってました我らの姫!』
『俺らとメルルちゃんで奏でる最高の夜!』
『メルルちゅわぁぁぁぁぁぁん!』
『メルルはね~、今日という日をお前たちと過ごせて嬉しいぜい!』
『うおお!メルルちゃん!』×100。
『じゃあいっちゃおーかー! クリスマスメドレー! メルルとお前らで奏でるぅ~、ジングルベールはカンカンカーン!』
『カンカンカンカン!』
『カンカンカンカン!』×100
なんだ? お、俺も打ち込まないと!
『カンカンカンカン!』
キーボードで『カンカン』と打ち込んでるうちに、メルルちゃんや大勢の視聴者たちと、ひとつになれた気がした。
俺はひとりじゃないんだ!!
『カンカンカンカン!』
そんな、カンカン真っ只中の至福の時に、ジングルベルとは程遠い、我が家の寂れたインターホンが鳴った。
──ピンポーン。
誰だよこんな時間に。
受話器を取り「どちらさまですかー」と尋ねると、
「わたし」
その声は華蓮だった。
今更なんだよこいつ。
なにかあったのか?
いや、なにかあったに違いない。
喧嘩でもしたのか?
嫌なことでもあったのか?
まあそんなところだろう。それでなんだ? うちに来たってか?
──ふざけんな!!
「帰れ。もううんざりなんだよ」
「やだ。開けて……お願い」
ああ、そうだな。
インターホン越しに言ってもわからねえよな!
面と向かって言ってやるよ!
俺は今日、メルルちゃんとクリスマスを過ごすんだ!! ってな!!
もう、お呼びじゃねえんだよ!!
おまえなんか!!
俺は勢い良くドアを開けた。
待っててメルルちゃん。今すぐ『カンカン』しに戻るから!
ガチャン。
その瞬間、俺は目をパチクリした。
夢でも見ているような光景が広がっていたからだ。
頭の中のメルルちゃんは一瞬で消え去り、目の前の異様物に目を奪われた。
──大きな靴下があるんだよ。
……うん。自分でも何を言っているのかわからない。
でもあるんだよ。目の前に。人が一人入ってそうな大きな靴下が!!
てっぺんの部分が紐で結ばれてて、明らかに人が入っている佇まい。
これはいったい、どういうことなんだ?
その場に立ち竦むと、靴下の中から声がした。
「開けて。紐引っ張るだけでいいから」
その声は完全に華蓮だった。
いや、わかってたけどね。もうそれ以外に考えられないし!
何がいったいどうなっているのか。
これから何が起こるのか。
そんなことを考えながら恐る恐る紐を引っ張ると……。
じゃじゃーんと華蓮が飛び出して来た。
「うわぁっ」と驚き俺は尻餅をついてしまった。
「華蓮サンタからワンコ君にプレゼントだよ!」
出てきたのはサンタのコスプレをした華蓮だった……!
でも不思議なことに、プレゼントと言ったにも関わらず手にはなにも持っていない。
呆気に取られ、唖然とする俺に見かねたのか、華蓮は自分の頭を指差した。
その先にはリボンが着いていた。
……………………………。
………………。
……ハッ!
ようやく俺はすべてを理解した。
それは、健全な男子高校生なら誰もが一度は妄想したであろう、奇跡の産物だった。
“”プレゼントは、わ・た・し“”
それが今、目の前に現れたのだ!
「サプライズのつもりだったのに、本気で怒っちゃうんだもん。鈍感ワンコ! いいかげんわたしの気持ちに気付いてよ……」
「……ごめん。まあ、風邪引くから中入れよ」
「うんっ!」
◇ ◇
なんかよくわからない。
いや、わかっていたのかもしれない。
華蓮はちょっとツンデレなだけで普通の女の子なんだって──。
だから期待もしたし怒りもした。
無意識と意識下で答えを彷徨い、本当の華蓮の気持ちに気付けなかったんだ。
12月24日。
この日は一生で忘れられない、男にとってたった一度の思い出。
卒業の日となった──。
これからもすれ違ったり喧嘩をすることもあるかもしれない。
それでも俺はお前を離さない。
だってもう、ただのツンデレさんって、わかったのだから──。
ツンデレ幼馴染サンタからの特別なクリスマスプレゼント! 今更擦り寄って来たって、もう遅い! って言おうと思ってたんだけど……。プレゼントがまさかの……。ええっ?! おひるね @yuupon555
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