第9話 呪ワレシ少女ノチカラ


「……リア?どうして……」


 ソールは、呆然とした表情を浮かべたまま、ただ俺の方を眺めていた。すっかり驚いた様子で、完全に腰を抜かしてしまったように、ソールは地面へと座り込んでしまった。そんなソールに、俺は声をかける。


「もう大丈夫!このくらい力が戻れば…… 十分に戦える!」


 俺は、視線を目の前にいるダークドラゴンへと戻した。傷口から血を流しながら、ダークドラゴンは、怒りにまみれた様子で、俺の方へと攻撃を繰り出してきた。激しい爪による攻撃。だが、一部とはいえ呪いが解け力が戻った俺にとっては、この程度の攻撃、造作も無い。


 そして、先ほどから溢れてくるような魔力。これなら、全盛期ほどとはいかないが、十分な威力の魔法も放つことは出来そうである。


 全く当たらない攻撃に、業を煮やしたようなダークドラゴンは一気にブレス攻撃を放つ体制へと移行した。俺の後ろには腰を抜かしたように、ただただこちらを見つめているソールがいる。俺1人ならかわすことも出来そうだが、今のソールは反応することは難しいだろう。


 ならば……

 

 回避すると言う判断が出来ない以上、強力な魔法をぶつけて、ダークドラゴンの攻撃を打ち消すしかない。ダークドラゴンと戦ったこと自体はないが、文献で調べた記憶はある。ダークドラゴンのブレス攻撃は強力な火属性の攻撃である。ならば、その強力な攻撃にぶつけるのなら……

 

リアが魔法使いとして、名を轟かせた所以は、その強力な魔法攻撃のおかげもあるが、何よりも並外れた知識量。状況を見極める分析力、そして数多の魔法を使いこなす万能さという所にあったのだ。弱点を的確に突く魔法攻撃。それがリアの武器であった。


 そもそも魔法には属性がある。火と氷はお互いに相反するように作用する。火は氷に弱いし、また逆も然りである。火属性の攻撃を繰り出してくると言うことであるならば、こちらが繰り出すのは氷属性しかない。要は、力と力のぶつかり合いと言う事だ。俺の力がどの程度まで戻っているか、ある意味では自分を試すようなチャンスでもあるのだ。


ダークドラゴンが灼熱の炎を吐き出すのとほぼ同時のタイミングで、俺も魔法を発動させるべく声を上げる。


「フロスト!」


 リアの発動した氷魔法と、ダークドラゴンの吐き出した炎がぶつかり合う。激しい爆音と共に、白煙が舞い上がった。その光景を、目の前にいる少女をソールはただただ見つめていることしか出来なかった。


「リア…… すごい……」


 白煙が次第に薄れていき、ダークドラゴンの姿が徐々に見えはじめた。全盛期のリアであれば、今の一撃で勝負は決まっていたであろう。だが、呪いの影響で、やはり魔法の威力は落ちているようである。それでも、リアは傷一つ無く、ダークドラゴンの前に立ちはだかっていた。


「一気に決める!」


 今の発動できる魔法の威力は大体わかった。それにまだ魔力量も万全ではない。このまま長引かせるよりも一気にたたみ込むように攻撃を繰り出さなければ、ダークドラゴンは倒せない。そう判断したリアは一気に魔法攻撃でダークドラゴンを攻め立てる方針を決めた。


「アイスエッジ!」


 リアの声と同時に、周囲の空気が一気に冷たくなる。ぴきっ、ぴきっと音を立てながら、周りの水分が凝集していく。洞窟の上空には先端が尖った大きな氷の塊が、複数生成されていた。


 そして、リアが手を振ると、それに呼応するように、氷の塊が一気にダークドラゴンに向けて飛んでいく。氷の刃の連続攻撃が次々とダークドラゴンへと命中する。舞い上がる血しぶき。そして、再び舞い上がる白煙。そのまま、うめき声を上げながらダークドラゴンはその大きな身を地面に沈めた。

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