霊能力者紅倉美姫30 僕のカノジョは幽霊

岳石祭人

第一章 見ちゃったあ~


(ウワッ、マジッ!? ヤバッ、オレ、幽霊見ちゃってんのお~!?)


 と、重野峰雄(しげのみねお)は心の中で大騒ぎした。


(うっわあ~、俺、幽霊なんて初めて見るぞお~)


 極力こっそり横目で見て通り過ぎる。信号の横断歩道を渡って、土留めのコンクリートのタイルが貼られた黒ずんだ壁、それが一部引っ込んで桜の木が生えている。コンクリートの上は緑のフェンスが張られて、その向こうは大学の医学部のキャンパスで、駐車場になっている。


 その桜の緑の枝の下に、彼女は立っていた。


 今初めて幽霊だって気がついたけれど、もしかしたらこれまでも見ていたのかも知れない。気がつかなかっただけで。


(………脚が膝の下から透けてるんだもんな………)


 六月に入ってたいていベストやワイシャツだけの夏服になってるのに濃紺のブレザーを着ているのも目立つ。っていうか、他の奴らには見えてないの??

 峰雄は角を曲がるついでにそっと振り返ってみた。


(やっぱいるよ~。つーか、本当にオバケ?)


 どーも自分の悪い頭は信用できない。見間違いじゃなかったか?

 けんのんけんのん。触らぬ神に祟りなし。

 峰雄は、


(まっ、見なかったことにしよう)


 と決めて先を歩いた。

 峰雄の悪い頭はそれっきり学校ではその彼女のことを忘れて過ごしたのだが……。



 帰り道。

 歩いてきて、赤信号で止まった峰雄は手持ちぶさたに何気なく振り返って、

「うひゃあっ」

 と間抜けな悲鳴を上げた。彼女がやっぱりそこに立っていた。今朝のことはすっかりまるっきり忘れ去っていた。隣で待っていた女子高生に変な目で見られた。峰雄は勇気を出して訊いてみた。

「あの、僕って変ですか?」

「変です」

 それっきり女子高生はそっぽを向いた、一歩横へ離れて。峰雄はため息をついた。カノジョができるのはまだまだ当分先のことになりそうだ。

 ところでやっぱり彼女には彼女の姿が見えていないらしい……と思って振り向くと、

「うひゃあ」

 声を上げて、隣の女子高生がさらに向こうに離れた。

 桜の下の彼女が、うつむいていた顔を上げて峰雄を見ていた。

 どうしよう?と泡を食って、信号が青に変わったので女子高生を追い越して走って逃げた。さすがに女子高生は不安そうに後ろを振り向いたが、向き直ると向こうに駆けていく峰雄の後ろ姿を気味悪そうに見送った。



 さて翌日。

 さすがに頭の悪い峰雄も学習して歩道を渡ってくると素知らぬそぶりで先へ歩いた。桜の下にやっぱり彼女は立っていたが、もう驚かないし、無視した。

 ところが。

 峰雄はこの学校町学校通りをおよそ二十分歩いて自分の高校、県立青山高校に着く。この学校町にはその名の通り学校が多く、小中学校があるし、高校が三校、通りに面してある。表の大通りの方にはさらに二校ある。

 だから通学時間帯の今、通りの歩道には三校分の高校生が見渡す限り連なって歩いている。峰雄もその列に混じってのんびり歩いていた。一限目は理美先生(英語。LOVE)かあ~……なんぞと思いながら。あ、宿題忘れた。ま、いっか、怒られよう。なんぞと……。

 途中女子校でだいぶ生徒が減る。次に青山高校があって、その次の学校の生徒はこちら側からは少ない。

 表門を通りすぎて、本日の女子校のお嬢さんの見納めに……とアホなことを考えて振り向くと、三メートルほど後ろをブレザーの女子高生が歩いていた。(えっ)と見ると、足が透けていた。彼女だ。

(ヒイイイイイ~~ッ)

 と峰雄はおののいた。ついて来ちゃったあ!?

 峰雄が立ち止まっているとオバケの彼女も止まった。陰気に下を向いている。峰雄はその顔の暗い陰を見てゾオ~~ッと震え上がった。道に向き直ってカタカタと歩き出した。頼む~、ついて来るな~……、と念じながら。

 着いた。

 正門には向かわず、塀沿いの路地を生徒玄関直行の通用口へ向かう。

 他の生徒たちに混じって階段を上がって、玄関へ上がって、向こうを見ると、曲がり角のところに彼女が立っていた。

 峰雄の顔を見て、口が笑ったように見えた…………。

 人が通り過ぎて、それと共に消えてしまった。

 峰雄はその場にへなへなへたり込みそうになった。

 どうやら、本当に憑かれちゃったかもしれない…………。

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