3話 転生者の仕留め方
キャンプを設置したあたし達は、ブリーフィングを行っていた。もちろん、勇者一行を始末するブリーフィングだ。
しかし困った事に大悟兄さんも優も、まったくやる気を出してくれない。まぁ原因は分かってるんだけど。
基本的に兄さんも優も、優秀な兵士だ。だけど感情に流されやすく、引き金を引くのを躊躇ってしまう、兵士としては重大な欠点も抱えている。
「……二人共、この作戦に乗りたく無かったら降りていいよ?」
「姉さんは?」
「あたしは勇者を殺す事に躊躇いは無い。だから任務を続けるよ」
「……桜を残して帰れない。俺は残るぞ」
「そうだね~。……気乗りはしないけど」
とりあえず二人共残ってくれるそうだし、早い事作戦を立ててしまおう。
あたしは転送してもらったホワイトボードにマーカーを走らせて、シスターから聞いた勇者一行の特徴を箇条書きにしていく。
・勇者は女性のみで構成された四人組。
・メンバーは勇者、魔導士、僧侶が二人。
・攻撃力よりも防御力に全てを割いている。
・武器は大した事ないけど、防具は全員が伝説級の装備らしい。
・攻撃魔法や攻撃技よりも、回復魔法と防御技が強力。
・武器や防具は魔法の力で無理矢理装備しているらしく、筋力が足りない為に崖が登れないらしい。
・防具を外すには、魔法で装備を解除しないといけないらしい。
・一説には、勇者達を召還した女神が旅に同行しているらしいが、確定情報ではない。
・全員が回復魔法と蘇生魔法を使える。
こんな所だろうか。至って面倒な特性のターゲットだ。
「すっげぇ~仕留めるのがめんどくさそう」優が文句を言いながら乾パンを開ける。
「正面から撃ち合っても弾が切れるのが先だろうな」
「そうだね。因みに勇者達は何かのダメージを無効化する術は無いって言ってたじゃん?」
「あぁ……確かにいけ好かないシスターモドキが話してたな」
「うん。だからさ、落とし穴に落としてナパームでも放り込めば焼き殺せるんじゃない?」
幸い、この世界の重力は重い方だ。体感だと1・5倍程だろうか?。そんな世界で筋力が足りない装備を無理矢理着てる……なぜ魔王サイドは勇者を落とし穴に落とそうと考えなかったのだろうか。
そして完璧な鎧を着込んでるという事は、それだけ防具と体の隙間が無く、空気さえ入り込む余地が無いって事だろう。もちろん、籠った熱を逃がす術もない。
「…………焼き鳥が食えなくなりそう」
「じゃあ優の分の焼き鳥は俺が頂くわ。ごち!」
「兄貴には絶対にやらねぇよ! 無理してでも食うわ!」
「はいはい、二人の焼き鳥はあたしが食べるから準備に取り掛かるよ」
こうしてあたし達は、早速落とし穴を作る為に最適な場所を探し始めるのだった。
「なぁ、姉さん」優が涙目であたしにしがみ付いてくる。そしてどさくさに紛れて揉んで来る。
「何?」
「落とし穴を掘る理由は分かってる。分かってるんだけどさ」優は背後に少しだけ掘られた小学生が作った落とし穴みたいな何かを指差して泣きながら言う。「何で自力で、しかもお子様シャベルで掘らにゃいかんのですかっ!」
「採掘機なんて転送したら、この世界の文明レベルが崩壊するじゃん」
「なら爆弾は!? 先週自衛隊からTNTとかC3とか10キロくらい届いてたよね!?」
…………。
どうして父さんとあたししか知らない納品書の内容を優が知っているのだろうか。さてはコヤツ、ま~た納品中に武器庫に忍び込んだな。帰ったらお説教確定。
しかしTNT……トリニトロトルエンか。確かに使えたら穴掘りも多少捗りそうだけど、メリットよりデメリットの方が大きいんだよね。
「爆発音に魔物や勇者が釣られて来ないとも限らないから、TNTは却下」
「C3は?」
「同じ爆薬じゃん、駄目に決まってるでしょ」
休んでる暇があるならキリキリと働く!――あたしは優のお尻を叩いて穴掘りに戻らせた。
大悟兄さんは富士……レスト? まぁとにかく真一兄さんと交信して、必要な物を転送してもらっている。因みにあたしは見張り兼、指揮役だから何もしてない。
「姉さん、でっかいシャベルとか無いん?」
「私物でよければ」あたしはバックパックの外側に取り付けていたサバイバル用品のマルチスコップを優の元まで放り投げる。
「あっはぁぁぁ!」優はスコップを抱きしめると「姉さんの匂いがするぅぅぅ!」と、変態チックな事を言いだした。
あのスコップ、メンテナンスで油は塗ったけど、それ以外は何もしていない筈だ。…………嘘! あたしって普段から油臭いの!?。
あたしは肩周りの匂いを嗅いでみた。……うん、よく分からない。でも今度からは香水を付けよう。
そんな事を考えてると、兄さんから連絡が入った。どうやら装備の転送が完了して、ついでに所定の位置に設置もしてくれたとの事。相変わらず頼りになる兄様だ。
そして気が付くと、優も巨大な穴を掘り終わって最後の仕上げをしていた。
優の色彩能力は高い。故に完璧なカモフラージュを作ってくれる。変態だけど頼りになる子だ。
「優、仕上げは頼んだよ」
「ほいほい、お任せ~」
帰ったら焼き肉連れて行ってね~――と言う優の言葉は聞こえなかった事にする。この間、着もしない花柄のワンピースを買った所為で所持金がスッカスカなのだ。……まぁ頑張ってるし、お小遣いが入ったら連れてってあげようかな。
「はぁ」あたしは深めのタメ息を吐く。「優に甘いな……あたし」
「流石兄さん、状態も設置も完璧だね」
「伊達に次男はやってないからな。この手の仕事は慣れたもんだ」
「心強いよ、兄さん」
兄さんの設置した装備の確認、及び点検を終えた頃、優からも落とし穴が完成した旨の連絡が入った。後は勇者一行が落とし穴に掛かるのを待つだけだ。
さて、後半日もしない内に家に帰れそうだ。体が重くて汗もかいたし、熱いシャワーが恋しい。
あたしは優にキャンプへ戻る様伝えると、兄さんと共に作戦の最終確認の為にキャンプへ戻っていくのだった。
〇
「ぬぁ~! 疲れた~!」優が両手を伸ばしながらキャンプに戻って来た。
「お疲れ」
「悪いな、肉体労働なんかやらせる事になっちまって」
あたしと兄さんは優の頭を撫で回す。言葉では「止めろよ!」とか言ってるけど、抵抗しない辺りが無性に可愛く感じる。まんざらでも無いんだよね、気持ちいいんだよね。顔を赤らめちゃって、可愛いヤツめ。
さてと、優を弄るのは程々に、あたしは改めてホワイトボードの前に立って作戦の説明を始めた。
「ザックリと纏めると、優の頑張って掘ってくれた落とし穴に勇者一行を落とす」
「へへっ。俺、頑張った!」
「後でもっと褒めてやるよ。で? あの真一の兄さんに送ってもらった迫撃砲とグレネードランチャーは?」
あたしはホワイトボードに掛かれた穴に落ちる棒人間を描くと、サラサラと矢印を書き足していく。
「勇者は魔法で装備を無理矢理着てるとの事だから、同じように魔法を掛けないと装備を直ぐに脱げない。もちろん、穴を登るなんて不可能でしょうね」
「だろうね~。せいぜい同じだけ苦しんでくれ」
…………。
そう言えば優、どうやって掘った穴から登って来たんだろう?。
「思念は置いといて、登れない穴に落とした瞬間、あたし達は迫撃砲で勇者一行に集中砲火を掛ける。因みに弾はナパーム弾だからね、誤って目の前に撃ち出さないでよ」
「了解だ」「うぃ~」
「その後、燃えて慌てふためく彼女たちは、急いで回復をしながら火を消そうとして、装備も捨てようとするでしょう。そこをグレネードランチャーで追撃、魔法を使う間も与えずに焼き殺す」
以上が主な作戦内容だよ――あたしは質問を受け付ける為に、二人の返答を待つ。
すると兄さんが質問を投げかけてきた。
「伝説級の防具だろ? ナパーム程度で焼き殺せるのか?」
「さぁ? でも熱さに負けて防具を外せば、ドカンだよ。頭と体が分離すれば死ぬでしょう」
「……エグイな」
その後も暫く待ってみたけど、他の質問は無いみたいだ。
あたしはホワイトボードの前から離れて椅子に座ると、水筒にコッソリと入れてきた紅茶を一口飲んだ。まさかティーパックの紅茶で生き返る美味しさに感動を覚える日が来ようとは……。
「しっかしさ~」優が教会からぶんどって来たお菓子を食べて、夕日を見上げながら呟く。「こんなに防御が硬いとかさ、誰にも肌を触らせない勇者達って処女じゃね?」
「ブフゥッ!」兄さんが水を噴き出して咽る。
「さぁね。まぁ少なくとも今まで傷モノにはなってないでしょう」
横から兄さんがあたしの事を叩いてくる。きっと変な話に乗るなと言いたいんだろう。
そんな下らない話をしながら、あたし達は交代で見張りを続けて勇者一行が来るのを待った。
そして遂に、その時は訪れたのだった。
「
「
「
「りょ~かい。さぁて! 鉄壁の処女ちゃん達を弄んでやりますか!」
「楽しみ過ぎないでよ?」
「……俺らの会話って、絶対に悪者だよな」
あたし達は各々のポジションに向かって歩いて行く。恐らく正義を成そうとしている彼女達を無慈悲に、そして残酷に殺す為に。
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