第118話渋谷で翔子から声がかかり・・・

渋谷駅を降りて、歩き出した時だった。

いきなり、翼と心春の後方から大きな声がかかった。


「翼君でしょ?ちょっと!」


翼は、振り向かないでもわかる。

翔子の声だから。

心春は、キョロキョロと周囲を見ている。


翔子は。小走りに翼の前に来た。

「ねえ!大丈夫?顔が真っ赤だよ!」

いきなり、怒り顔気味になっている。


翼は、翔子に、心春とのことを、「かれこれ」と説明する。

怪訝な顔をしている心春にも、翔子のことを簡単に説明した。


翔子の口調は強い。

「翼君のアパートの隣の女の子?同じ大学の同じ学部?」

「翼君のご実家とも関係が深くて、幼い頃に、それはいいの」

「でもさ、一緒に長く歩いていて、翼君の変化に気がつかないの?」


翔子の、いきなりの強い言葉に、心春は押された。

「え・・・あ・・・全然・・・」

「翼君?そうなの?」

「どうして言ってくれないの?」


翼が答えに困っていると、翔子が代わりに答えた。

「当たり前、翼君が気を遣っているの!」

「そういう子なの!昔から!」

「熱もあるよ、その顔色」

「懸命に我慢している顔だもの」

「ずっとお世話して来たから、よくわかる」


翼は、目の前のプチバトルで、ますます胃が痛い。

「あの・・・根津美術館に行くという話で」

と、そこまでは言うけれど、胃の痛みで、言葉が続かない。


翔子は、翼に、また怒る。

「このアホ!」

「タクシーで帰る!」

「入学早々、寝込んだら困るでしょ!」


返す刀で心春に指示。

「ねえ、オロオロしていないで、タクシー拾って!」

「まずは病人を安静にしないと!」


心春も、こう言われては仕方がなかった。

翼は、いつの間にか、翔子に支えられているし、自分がタクシーを拾うしかない。


幸い、タクシーはすぐに拾えて、翼を真ん中に、三人でタクシーに乗る。


翼は実に申し訳なさそうな顔。

「なんか、すごい醜態に、ごめんなさい」

心春は、まだオロオロとしている。

「私が無理を言って・・・いろいろと」

翔子に冷静さが戻った。

「翼君は、時々、こういうことがあるの」

「それが心配で、翼君のお兄様夫妻と、ご両親にも面倒を見てやってくれと」

「でも、今日のことは、心春ちゃんが悪いとは言い切れない」

「それほど体力がないからさ、翼君は」

「あまり、気にしないでいいよ」


タクシーは、あまり渋滞もなく、アパートに到着した。

翼は、翔子に腕を組まれたまま、部屋に入り、ベッドで横になった。

薬を飲まされ、少しウトウトしていると、翔子と心春のヒソヒソ声が聞こえて来た。


翔子

「今日は泊まって看病するかな」

心春

「それなら、私も責任上、ご一緒します」


翼は、途端に頭痛まで発生している。

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