第110話翼の確認 兄と義姉

翼は、兄晃に確認する必要があった。

それは心春の母が、「明日、自分の顔を見た後に、グループの本店に行き、両親や兄様、源さんにも逢いに行く」と聞いたから。


さっそく兄晃に電話をかける。

「兄さん、隣に住む伊東心春さんのお母さんが」

と言いかけると、兄晃の反応も早い。

「ああ、聞いている」

「懐かしいな、子供の頃はお世話になった」

「お前は病気がちで、あまり顔を見ていないかな」

「要するに、翼を狙っているのかな」


「そこまでの関係とは知らなかった」


兄晃は少し笑う。

「心春ちゃんも、有力な候補だよ」

「立派なお店で」

「お見合いも何も、隣に住んでいれば、大学も学部も同じなら、いらないよな」


翼は焦った。

「そういうのは困る、次から次に」


兄晃は、また笑う。

「それを何とかする、してしまうのが、翼」

「人生経験の一つさ」


翼は、反発を諦めた。

「わかった、当たり障りなくやる」


兄晃は忙しいらしく、いきなり義姉の圭子に変わった。

「翼ちゃん?心配やったよ、ほんま」

「京都は立派やったな、ありがとさん、疲れたやろ?」


翼はまた焦る。

「京都の西陣は、入った時点でアウトでした」


義姉圭子

「そやな、そこまで、しょうもない母子とは、知らんかった」

「いい判断や、無理言ってごめんね」


翼は、ここに来て、ようやく近江米のお礼を言う。

「あ、お米ありがとうございます、かなり助かりました」


義姉圭子は、プッと吹く。

「そやな、翼ちゃんが自炊するのに米がないなんて、ほぼ冗談やもの」

しかし、すぐに話題が変わる。

「なあ、隣の心春ちゃんとは上手にやっとる?」

「源さんの、一押しや」


翼は、あいまいな返事。

「うーん・・・そう言われてもね」

「きれいな人で性格もいいかな」

「でもね、立て続けで」

「よく、わからない、実際のところ」


義姉圭子も考えた。

「そやなあ・・・翼ちゃんは繊細で、人に気を遣う」

「だから、疲れることもある」

「しっかりフォローして、細かいことも任せられる娘さんがいいな」

「翼ちゃんが、フォローするんやなくてね、フォローされるくらいの娘さん」

「テキパキと仕事をこなして、先が見える娘さんかな」


翼は、苦笑。

「そんな人いるかな」


義姉圭子

「いや、そんな娘さんでないと、翼ちゃんを任せられん」

「そうでないと、翼ちゃんが苦労するばかりや」

「翼ちゃんが、それで体調でも崩したら、我がグループどころやない」

「業界全体の不幸につながる」


翼は、笑ってしまった。

「話が大げさ」


しかし義姉圭子は、潤んだ声。

「ほんまや、もう・・・心配でしょうがない」


翼は、また返事に困っている。

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