第102話佐々木香織とデートの約束、夕食はカレー南蛮

新幹線が新富士駅近くになったところで、翼は車窓から富士山を眺める。

「雪が五合目まで、いい感じ」

「春の青空と、雪化粧の美しい富士山」

「これで桜でもあれば、絶景かな」


また、少しボンヤリが続き、新横浜を過ぎたところで、スマホにメッセージ。

鎌倉で再会した幼なじみの佐々木香織だった。

「翼君!明日の品川のプール、朝10時でいい?」


翼は、慌てた。

実は、忘れていたから。

それでも律儀に返す。

「了解しました、ホテルのロビーで待ち合わせでいいかな?」


佐々木香織の返信も早い。

「OK!すっごくワクワクしてドキドキしてる」

「でも・・・ダイエット失敗かも」

「絶対に笑わない?」


翼は言葉を選ぶ。

「そんなこと言わないで」

「香織ちゃん、可愛い」

「僕もドキドキするくらい」


佐々木香織

「もーー!眠れなくなる!」

「でも楽しみ!」


佐々木香織との話は、それで一旦終わり。

それでも、京都にいる時よりは、相当気楽。

「香織ちゃん、そんなに太っていないのにな」

「気にし過ぎかな、ダイエットなんて」


新幹線を品川で降りて、山手線、井の頭線と乗り換えて、自分のアパートに戻った。

時計を見ると、午後7時を過ぎたところ。


翼は、少し考える。

「夕飯どうしようか」

「昼飯の可奈子さんの店は、全く食べた気がしなかった」

「とにかく香料の臭気が酷かった」

「目の前の食事を口の中に入れて、飲み込んでいるだけ」

「味付けそのものが、悪いのではなかった」

「しかし、素材の良さを生かし切れていなかった」

「薄味だけでなく、旨味もなかった、味に芯がない」

「固定客だけで、非難されることもないから、それにアグラをかいているのかな」


しかし、美味しくなかった昼飯のことを考えたところで、今さら、仕方がない。

「この部屋に食材がない以上、外に出るしかない」

翼は、アパートを出て、高井戸の街を歩き出した。


「やはり四月の初旬、風が冷たい、寒い」

「そうなると温かい物かな」


そうは言っても、吉沢恵美の洋食店には、行きづらい。

「街中華も入ったけれど、その気分でない」

「もう少し落ち着ける店がいい」


翼は、少し先に、蕎麦屋の看板を発見。

全く悩まず、そのまま。昭和レトロ風の蕎麦屋に入った。

頼んだのは、「カレー南蛮のうどん」。


「カレーも和風で美味しい」

「うどんも、なめらかで、もっちり」

「年季が入った職人が、しっかりと仕事をしている」

「実に食べ飽きない、美味しい」


翼は京都での緊張感から解放され、ようやく食を楽しんでいる。

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