第101話西陣料亭のお見合いを終えて

翼と叔父夫妻は、賀茂の斎院跡に到着、参拝をする。

賀茂斎院跡は、平安時代から鎌倉時代にかけて賀茂社に奉仕する斎王が身を清めて住まわれた御所(斎院)のあった場所。

また、この一帯が紫野と呼ばれていたため、「紫野斎院」とも称されていた。


叔父晃弘

「かつては、この斎院の敷地は、大宮通りと慮山寺通りを東南の角まで、かなり広かった」

「約百五十メートル四方ぐらいやな」

「斎王の中には選子内親王や、式子内親王のように卓越した歌人もあり、斎院でしばしば歌合せが催されたとか」

「斎院にはほぼ500人の宮人や女官が仕えておって、女官にも秀れた歌人が多かった」


叔母由紀美は笑顔。

「正式には、櫟谷七野神社やけど、賀茂斎院跡のほうが馴染む」

「それにしても、翼ちゃん、渋い場所を知っとる」


翼も、叔母由紀美につられて笑顔。

「単なる気晴らしです」

「神経を使ったので」

「式子内親王様が好き、ということもあるけれど」


叔父晃弘は、首を横に振る。

「あの可奈子さんは、無理やな」

「あの店が今の状態では、とても末永い関係は結べん」

「グループの誰もがあの店に入っても、反対や」

「ほんま申し訳ない、わざわざ入学式の前の忙しい時に京都まで来てもらったのに」


翼はやわらかな顔。

「いや、心配はなさらず」

「結果が出て、一区切り」

「こうして来たかった賀茂斎院跡にも来られて」


叔母由紀美も頭を下げた。

「ごめんな、翼ちゃん」

「一度、店に戻ろう」


確かに狭い神社、翼と叔父夫妻は、京都店に戻ることになった。


京都店に戻ると、待ち構えていた美代子、同級生の梨乃、沙耶が飛び出して来た。

そして、由紀美から「かくかくしかじか」を聞き、ホッとした顔。


美代子

「はぁ・・・命が縮んだ・・・良かった」

梨乃

「結局、あの母と娘が墓穴を掘ったんやな」

沙耶は辛辣。

「今後の泣き顔が楽しみや、相当な高慢女やったから」


翼は、苦笑い。

「とりあえず、このグループに悪影響はなかったかな」

「それだけでも」

そして全員に頭を下げる。

「少ししたら、東京に戻ります」

「明後日は、入学式です」


叔父晃弘

「そやな、またおいで」

「わしから、晃君と両親に連絡しておく」

叔母由紀美

「火が消えたように寂しゅうなるな、葵祭にはおいで」


女子高生三人組は、途端にウルウル。

美代子

「つまらん、生きる希望がない」

梨乃

「うちも連れてって」

沙耶

「手を握って帰さん」


そんな「引き留め工作」はあったけれど、約1時間後に翼は京都駅から新幹線に乗った。


翼もラインメッセージで兄に報告。


兄からの返事は

「叔父さんからも丁寧な連絡をもらった」

「OK、疲れただろ?お前の判断がベスト、よくやった」だった。

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