第78話浜松から京都まで そして京都駅で女子高生三人と顔合わせ

翼は、浜松近辺の車内販売で「うなぎパイ」を買い、ついでに水も買った。

「胃薬を飲まないと、歩くのも大変」

「美代子ちゃんと、その友達に苦しい顔を見せたくない」

胃薬を何とか飲んで、目を閉じた。

「効果が出るのが、一時間ぐらいかな」

「京都駅に間に合うかな」

ただ、それ以上は考えないようにした。

胃の痛みは、考え事をすると、いつも酷くなるから。


名古屋を過ぎ、約束通り、美代子に連絡。

再び目を閉じて、滋賀に入ったところで、目を開けた。


「大きな山がない」

「小さな、こんもりとした山が、ぽつんぽつんと」

「田んぼが多い、美味しいお米が取れる」

「確かに古代から豊かな土地だった」


突然、近江八幡を思い出した。

「のんびり歩くにはいいかな」

「あの水郷もいいな、絵になる」

「赤こんにゃく、鮒寿司、近江牛」


車窓から空を見た。

「青空か、でも、春の青空」

「光にやわらかさがある」

「新幹線の車内からだろうか」


畑仕事をしている人が目に入った。

「軽四トラック、最高」

「農産物を積んで、産直市に運ぶのかな」

「実家にいる頃、産直に遊びに行った」

「農家のおじさんに聞いた、朝に収穫した枝豆を、午後に茹でて食べる、それが贅沢とか」

「もぎたてのトマトも美味しかった」


そんなことを思い出していると、胃の痛みがやわらいでいる。

「胃薬かな、それとも、あの時のトマトを思い出したからな」


京都に近くなったところで、翼は、思いついた。

「自家菜園を増やすかな」

「専門家の指導を仰いで、ただ仕入れられる高級野菜を調理するよりは・・・」

「兄さんと叔父さんにも相談してみよう」


しかし、その考えも進められない。

車内に「京都駅」のアナウンスが流れている。


のぞみは、間もなく京都駅に到着。

翼は、下車して新幹線改札口に進む。

その改札口に、美代子と、その友達らしい女子高生が二人、大きく手を振っている。


新幹線改札口を出た翼は、やわらかめに挨拶。

「お久しぶり、美代子ちゃん」

「それから、お友達の方でしょうか」

「山本翼です、いつも美代子が大変お世話になっております」


美代子は、ハイテンション。

「うわーーー!マジに東京の可愛い系男子や!」

「ちょっと前はひ弱系でね、うちがお世話せんと、倒れると思うとったけど」


その美代子を、お友達女子高生の一人がブンと押しのける。

「うちは、梨乃と申します、憧れの翼さん、うちも、どうぞごひいきに」と、すんなり翼の手まで握る。


もう一人のお友達女子高生も続く。

同じように梨乃を押しのけて

「うちは、沙耶と申します、もう翼さんにお逢いしとうて、昨日も寝られへん」

と、当然のように翼の手を握る。


翼は、三人の女子高生を見て思った。

「ハツラツとして・・・元気そのものだ」

「でも、合わせきれるかな」


美代子は、いつのまにか、翼のキャリーケースを持っている。

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