第77話京都行新幹線車内で、従妹美代子と

翼は、翌朝6時にアパートを出て、高井戸駅に。

井の頭線、山手線を経由して品川で、のぞみに乗り込んだ。

そこまで早く出たのは、隣の心春にも、誰にも気づかれたくなかったため。


「気を遣う必要も義理もないけれど」

「みんな、あまりにも接近し過ぎだ、対応できない」

「だから、下手に顔を合わせると、説明やら何やらで、時間を取られる」

「それよりも、少しでも一人の時間を増やしたい」


新横浜を過ぎたところで、アパートで淹れて来たコロンビアを口にする。

「まだ熱い、でも香りがいいな」

それで少し落ち着く。


ところが、小田原を過ぎたところで、早くも従妹の美代子からメッセージ。

「翼兄さん、新幹線乗った?」

翼は苦笑。

「うん、今、小田原を過ぎた」

「名古屋を過ぎたら連絡するって言ったけど?」

美代子

「だって、待ちきれんし」

「翼兄さん、お腹をすぐに壊すやろ?心配や」

「美代ちゃんを見れば治るかな」

美代子

「あのな、お世辞言わんと」

「女子は、それで舞い上がる」

「要注意や、うちが教育するよ」


翼が「はい、先生、よろしく」と返すと、美代子は美人女子教師の大きな「了解」スタンプ。


しかし、美代子のメッセージは、なかなか終わらない。

「車窓から富士山の写真を撮ること」

「うなぎパイが食べたい」


「雷おこしは買ったよ、大好物でしょ?」

美代子

「それも食べて、うなぎパイも食べる」

「育ち盛り?」

美代子

「欲しい場所にない、いらない場所にある」

「コメントは差し控えたい」

美代子

「世渡り上手やなあ、また誤魔化された」

翼は返事に困る。

「美代ちゃんが可愛いなあと」


美代子の話題が変わった。

「それでな、うちの悪友女子が見たいって言っとる」

「うちを入れて、三人やけど」

翼は、また面倒。

「顔見せて、はい、さようならって出来ないでしょ?」

「荷物もあるしなあ」

それでも、「誘っちゃったんでしょ?」と確認。


美代子

「うん、あの雑誌以来、毎日しつこうてな」

「うちにも、お友達付き合いがあってな」

翼は、美代子の話を受けることにした。

「あの雑誌を見るのは、同業者だよね」

「仕方ない、話を合わせる」

「富士山が見えて来た」

「後は、名古屋を過ぎてから」


美代子との話は、そこで一旦終わった。


翼は、車窓から、真っ白な雪が残る富士山を撮り、目を閉じた。

「はぁ・・・面倒・・・」

「胃が痛い・・・キリキリする、何も口に入れたくない」

「京都の間、持つかな」

「都内に戻っても、京都に行っても、気が重い」


結局、家で淹れて来た珈琲は、ほとんど残すことになった。

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