第50話翼の「食通、グルメ」感、翔子の無理やりデート申込

翌朝になった。

時計を見ると、午前7時半過ぎ。

食べるものもないけれど、食欲もない。


翼は、昨日の兄晃との会話を思い出す。

「お見合いの相手は、京都、銀座、博多ねえ・・・」

「隣の心春さんは、金沢」

「昨日、鎌倉で会った茜さんは、日本橋」

「そうなると、両方とも、恋人にはなれないと」


しかし、その考えが「間違い」と、すぐに気づく。

「心春さんも、昨日の茜さんも、そもそも俺を恋人の対象として、見てはいないはず」

「だから、気にする必要もない」

それで何とか、心を落ち着けたら、ようやく空腹感。


「駅前に珈琲屋さんがあった」

「確か、モーニングもやっているはず」

「軽く食べて、そのまま出かけてしまおう」

翼の決断は早い。

そのまま、アパートを出て、歩き出す。

幸い、隣の心春も出て来ないし、翔子からの連絡もない。


その珈琲店に入って、翼は「釜焼きスフレパンケーキ」と「カフェオレ」を頼む。

「何とか食べられる味」

「細かく言い出したら、何も食べられない」

「身体が美味しいと思えば、充分」


翼は、いわゆる「食通、グルメ」が好きではない。

「何故、その素材選んだのか」

「何故、その味付け、調理方法を選んだのか理解せず」

「生半可な味覚で、生半可な評論を書く」

「柚子の酸味とスダチの酸味も判別できない」

「それで、平気で噓コメントを書いてしまう」

「どうせ、その料理店から、取材料をせしめ」

「しかも取材の前には、出版社から金を貰っておきながらだ」

「食通、グルメ」と自称する人々の素行も好きではない。

「雑誌で読んだだけの話を、いかにも自分の体験談みたいに言う」

「その日は、実家の料亭で食事をしていたはずなのに、全然場所が違う名古屋で飯を食ったかのような記事を書く、その上、厚顔無恥にもマスコミで言いふらす」


「煙草を吸う食通、グルメ気取りまでいるしなあ」

「煙草を吸えば、味覚も嗅覚も、その時点でアウト」

「微妙な違いなんて、わかりようがない」

「しかも、煙草の酷い匂いは、口臭に酷さをもたらす」

「指先と衣類にも深く染み付く」

「それが周囲の人に、酷い迷惑になっていることにも、気づかない」

「そんな鈍い感性で、何で食通、グルメを気取り、食事の記事が書けるのか」


そんなことを思っていると、スマホにメッセージ着信。


「誰?」と思って、不機嫌顔のままスマホを見ると、翔子の「今、どこにいるの?」だった。

翼は、不機嫌のまま、「高井戸駅の近く」とシンプルに返す。


翔子からまたメッセージ。

「翼ちゃんのアパートの前にいる」


翼は呆れた。

「また突然、押し掛けたの?」

「どうして事前確認しないの?」


翔子

「余計なことは言わない」

「デートしよう」


翼は困った。

「は?どうして?」

翔子

「何でもいい、デートしたいの、ゴチャゴチャ言わない」

「駅前にいて、いなかったら泣く」


翼は、また「仕方ない」状態。

「わかった、泣かないで」と返信。


すぐに翔子からスタンプ返信。

ハグとキスのスタンプ、それが10個も並んでいた。

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