第49話翼に「お見合い話」、翼は承諾に追い込まれる。

兄の晃からのメッセージは「翼に、お見合い話がある、それも数件」の表示。

翼は、困惑。

「今、電車に乗っている」

「鎌倉の武さんの店から、高井戸に帰る途中」

「詳細はアパートに着いてから」と返す。

晃は「了解」とのメッセージ、そこで一旦、途切れる。


翼はスマホをバッグにしまい、憂鬱な顔で、車窓から既に暗くなった街を眺める。

「大学入学前で、いきなり見合い話?」

「しかも数件?」

「僕には恋愛の自由がないの?」

「嫌だよ、どうせ業界関係者に決まっているし」


ただ、兄の晃も見合い結婚だったことを思い出す。

「ほぼ、政略結婚だった」

「義理のお姉さんになった圭子さんは、いい感じだけど」

「普通のサラリーマンの家庭育ちでは、確かに理解できない、対応できない業界ではある」


しかし、翼は首を横に振る。

「まだ早いよ、そんなの」

「業界の勉強だけでなくて、別の勉強もしたいのに」

「アパートに戻るのも、気が重い」


そうは言っても、仲がいい、面倒見がいい兄を裏切るわけにはいかない。

翼は高井戸の駅に着くと、真っ直ぐにアパートに戻った。

そして、早速、兄と連絡を取る。


「今、アパートに着きました」

「待たせてごめんなさい」

「ああ、急がせて悪かった」

「翼のお見合いの話が三件来た」

「京都と銀座、博多もある」

「どうしても・・・です?」

「会うだけでいいよ、お付き合いもあるしさ」

「前からあったけれど、翼は受験勉強中で黙っていた」

「それと、業界雑誌で、ますます顔と名前が売れたこともある」

「普通の恋愛はできない・・・かな」

「ああ、無理、圭子だって業界の育ちだから、対応できる」

「そうでない育ちの子は、苦労させるだけ、それが現実」

「兄さん、胃が痛くなるよ、見合いしたくない」

「そんなこと言うな、弱過ぎる、翼は」

「子供の頃から、すぐにお腹壊して」

「ごめんなさい、心配かけて」

「いいよ、翼」

「でもな、みんな翼に期待するから、話が来る」

「違う勉強も確かに大事、しかし、期待を裏切らないように」

「わかりました、具体的なことは、お任せします」

「ああ、連絡をするよ、会うだけでいいよ、気にするな」

「強い言い方で悪かったな」

「父さんも母さんも心配しているし」

「圭子も、お前の話が多いぞ、可愛くて仕方ないみたいで」


兄晃との話は、そこで一旦終わった。

翼は、スマホを机の上に置き、ベッドに転がり込む。


「嫌だ・・・見合いなんて・・・」

「これもレンタル彼氏?」

「違うなあ・・・下手をすると一生もの?」

「胃が痛いよ・・・結局・・・」

「嫌だよ、こんな人生」


翼は、しばらく寝転がったまま、何もできなかった。

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