第21話吉沢恵美と洋食店家族に翼は気に入られる。

翼の顔も名前も知っていたお姉さんは、にっこりと自己紹介。

「私は、吉沢恵美、3年生、郷土料理研究会だよ」

「それから、この店は私の家、父親がシェフしているの」


翼は驚くやら、「郷土料理研究会に誘われたら危険」と思うやらで、複雑。

「ああ・・・それはそれは」と、返事もおぼつかない。


その吉沢恵美は、面白そうに翼の顔を覗き込む。

「へえ、写真も可愛かったけれど、実物も可愛いなあ」

「ずっと見ていたくなるなあ、この子、弟系?」

「ツンツンしていじりたい」


翼は、顔を赤らめて、ようやく声を出す。

「翔子さんのお知り合いのお店とは、全く知らず、これは失礼を」


すると吉沢恵美は「プッ」と笑う。

「翔子を気にしているの?幼なじみで同郷だから?」

「そんなのいいよ、しっかり言っていなかった翔子が悪い」

「隠していたのかな、教えてって言ったのに」

「この間のコンパで、翼君の写真を見てさ、そしたら高井戸に住むって聞いてね」


翼と吉沢恵美が、そんな話をしていると、吉沢恵美によく似た、おそらく母親のような女性も翼の前にやって来た。

「あら・・・恵美?この子お知り合い?」

恵美は、ニコニコ笑いながら、翼を紹介。

「うん、母さん、この子ね、翔子ちゃんの後輩で幼なじみ。高井戸に住むようになったと」


翼は、また赤い顔。

「あ・・・山本翼と申します、初めまして」

恵美の母は、楽しそうな顔。

「私ね、恵美の母で、良子」

「これから、良子さんって呼んでね」

「それにしても、初々しいなあ、可愛いし、いい感じ」

そして厨房を振り返る。

「パパにも紹介するかな」

翼が「え?」と戸惑うけれど、間に合わない。

良子は「パパ!こっちに来て!」と呼んでいる。


その「パパのシェフ」は、すぐに出て来た。

良子が、翼を「パパのシェフ」に紹介する。


翼は仕方なく「山本翼と申します、高井戸の住人になりました」と、頭を下げる。


「パパのシェフ」は、大きな身体で立派な髭で、「ほお・・・」と翼を見て自己紹介。

「私は吉沢隆、この店のオーナーシェフ、よろしく」

「何でもお腹が減ったとか、相談事があれば、おいで」

「それにしても、翼君、瞳がきれいだなあ、こういう人は性格がいい、一目でわかる」


翼が、「はい、ありがとうございます」と、頭を下げると、吉沢シェフは翼と握手、厨房に戻って行った。


恵美が翼の肩をポンと叩く。

「親父に気に入られたね、あれで気難しいのに」

「でも、気に入られると頼りになるよ」

良子は笑顔で、翼を見る。

「主人も言っていたけれど、お腹減ったら、ここにおいで」

「お金なんて気にしないでいいよ」


少しして注文したビーフシチューなどが運ばれて来た。

翼は、ビーフシチューを見て驚いた。

「すごく大きなシチュー皿で・・・」

確かに普通の店の1・5倍の大きさになっている。


恵美がプッと笑う。

「この大きさは、親父に気に入られた証拠」

「若いんだから、たくさん食べてってことかな」


これには翼も笑ってしまった。

「ありがとうございます、ここの店に通います」

「ご家族が、いい感じで」

「居心地が良くて」


その翼の応えがうれしいのか、恵美の母良子も笑顔で、翼を見つめている。


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