第4話真奈(1)

翼の「理解」は、「ものの見事に」雲散霧消となった。

真奈は、玄関で靴を脱ぎ、そのまま翼の前に立ち、顔を赤らめて、ご挨拶。

「翼君、私が真奈、フルネームだと高橋真奈」

「翔子みたいな変な邪魔な女がいるけれど、気にしないで」

と手を差し出して来る。


翼は「どうすればいいの?」と困惑するけれど、今さら「お帰りください」とも、言い難い。

その顔をやわらかくして、「山本翼と申します」と、そっと真奈の手を握る。


すると真奈の顔は、ますます赤くなる。

「マジに・・・可愛い・・・」

「色白で、もち肌」

「小顔で目がクリクリしていて・・・はぁ・・・」

「目の保養になるなあ・・・一緒に歩くと・・・ドキドキするよ、この子なら」

「もー・・・どーでもいい失恋は、マジにどーでもいいって、はぁ・・・」

結局、真奈の言っていることも混乱、よくわからない。


翼が困っているのを察したのか、翔子が助け舟。

「真奈、昨日の夜も言ったけれど、あくまでも、プラトニック限定だよ」

「許すのは、話をする、食事をする、映画館、美術館とかコンサートで、手を握るまで」

「それ以上は却下」

「真奈が苦しんでいたから、気分転換で翼君を紹介したの」


すると真奈は、翔子を手招き、部屋の隅に行き、「ヒソヒソ」と話し合う。

真奈

「うん、それでもいい、とりあえず」

翔子

「とりあえずじゃなくて、その時間だけ、ルールを厳守して」

真奈

「それはその時しだいでしょ?男と女だもの、わからないよ、そんなの」

翔子

「酷いフラれ方をして可哀想だったから、紹介したのに、ダメ、危険なことしないで」

「真奈って、そんなに軽い女なの?」

真奈

「そんなんじゃないって、あんなダメ男より翼君のほうが可愛いもの、品があるしさ」

翔子

「とにかくルールは守って、翼君に迷惑かけないでね」

真奈

「うん、こんな可愛い子、お人形みたいな子、苦しませないよ、至れり尽くせりにする」

「でも・・・翔子・・・本当にいいの?翼君とデートしても」

翔子

「うーん・・・翼君は恋人って感じじゃないから、弟みたいな感じで」

「でも、だから心配になるの」


さて、真奈と翔子はヒソヒソ話しているつもりだけれど、翼の耳には「しっかりと」内容が聞こえて来る。

そして、翼は気が滅入る。

「面倒だなあ・・・どういうこと?」

「まだ引っ越しの片づけも中途半端で、ほぼ初対面の人とデート?」

「翔子さんも酷いけれど、真奈さんも酷いよ」

「ほぼデートが既定路線なの?」

「僕の自由とか都合とか意思はどうなる?」


しかし、そうは思っても、大学入学早々、先輩や先輩の友人女子とトラブルを起こすのも、得策ではない。

そして話が進まない、こんな状況が面倒だった。

翼は、二人に声をかけた。

「あくまでも一度だけ、僕でよかったら、受けます」


すると真奈の顔がパッと輝く。

「ありがとうーーー!うれしい!」

「じゃあ、サンドイッチ作って来たから、それを食べて・・・お出かけしようよ」

「うんうん、行先は任せて!」


翼がコクリと頷くと、真奈は、手早くテーブルの上にサンドイッチをセット。

いつの間に見つけたのか、全自動珈琲メーカーも操作して珈琲を三杯分淹れている。


ただ、翼はウキウキ顔の真奈より、翔子が気になった。

翔子は、テーブルの上には目をやらず、窓の外を見ている。

「少し寂しそうな顔になっている」とは感じたけれど、そもそも翔子が持ち込んで来た話。

話を再びゴチャゴチャとさせたくもなく、今日は真奈の機嫌を取ろうと考えることにした。

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