仮面の恋人

舞夢

第1話魔女の襲撃

魔女が突然、ドアを叩いた。

「翼くーん!」


翼は、ドアを開ける気にもならない。

「あの声は、高校の部活の先輩の翔子さんだ、酔っている、それも酷く」

「夜の11時だろ?まだ終電はあるはず」


しかし、魔女翔子はドアを叩き続け、しかも脅しまでかけて来る。

「開けろーーー!開けないとここで泣くぞーーー!」

翼は仕方がなかった。

大学入学、せっかくの一人アパート暮らしが始まったばかりなのに、近所迷惑になっても困る。

それでも仏頂面で、ドアを開ける。


途端に

「つ・ば・さ・ちゃーん!」

翔子はアパートに飛び込みざま、翼に抱き着こうとする。


しかし、翼も心得たもの。

その身をかわすと、翔子は「わっ!」と、そのまま玄関にダイビング状態になる。


翼は、うつ伏せダイビング翔子を見下し、冷ややかな声。

「何ですか、田中翔子先輩」

「こんな深夜に、何の用?」


翔子は、「この薄情者」と言いながら、モゾモゾと身体を起こす。

しかし、やはりロレツが回っていない。

顔も真っ赤、相当酔っている。

「おい!翼!先輩を何だと思っている!」

「翔子さまが、来てあげたの!」

「何で、すぐにドアを開けない!この寒いのに」

「それに何?せっかく翼君で暖を取ろうと思ったのに、身をかわす?」

「この私の愛の抱擁を無駄にするってこと?」


翼は、答えるのも面倒、でも、うるさいから対応する。

「そもそもね、翔子先輩、何で僕のアパート知っているの?」

「同じ大学とは言ったけれど、まだ誰にも言っていないよ」

「翔子さんって、僕のストーカーなの?」

「マジにキモイんだけど」


しかし、翔子は、翼の言葉を聞いているのかいないのか。

「まずはお客さんなんだから、お茶とか珈琲でしょ?」

「ああ、その前に水」

と、そのまま立ち上がって、コップを勝手に持って、水も勝手に「ゴクゴク、プハー!」と飲む。


翼が呆れていると、ようやく、翼の質問に一つ答える。

「まず、このアパート、翼君のお母様、智美さんに教えてもらった」

「しかも、ふつつかな息子をよろしくとね」


翼は、反発した。

「我が母親ながら、情けない、それは認める」

「でもさ、翔子さん、常識ってあるの?」

「夜の11時過ぎに、若い男のアパートに突然、押しかける若い女」

「しかも、その泥酔状態で、抱き着こうとするって」

「マジに酒臭い、一種の変態に近い」


しかし、またしても翔子は、翼の反発を聞かない。

「あーーー!うるさい!」

「私、眠いから寝る!」

「ベッドはどこ?」

「寒いの!しっかり暖房して!」


こうなれば、翼も反発はしない、とにかく面倒。

翔子をベッドに寝かせ、自分は寝袋に入った。


すぐに寝息を立て始めた翔子を見ながら、翼は思った。

「外面はいいけれど、マジに強引で我がままで」

「引っ越し早々、先が思いやられる」


ただ、翼にも引っ越しの疲れがあり、すぐに眠ってしまった。

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