第一章 楽園監獄都市《メタユートピアシティ》・横浜(4)

 横浜市。

 旧称第二横浜市。ゴアール市と統合した第一横浜市とは別の、もう一つの横浜市だ。現在では一般的に横浜市と言えば海上の第二横浜市の事を指す。

 海の上に存在する現在の横浜市の実態は、エーテルネットでも噂程度の情報しか仕入れる事ができなかった。

 現想融合(ファンタジオン)時に、元々アースの日本に存在した神奈川県横浜市の一部の土地が、地殻変動と水位上昇によって遠く海上に隔離されてしまったのが元であり、そこに取り残された人々が住んでいるらしいという事しかわからないのだ。

 こちらからはその全容は、点々と灯る航空障害灯のような、赤く滲んだ光によって造られた輪郭で確認できる。

 光が滲んでいるのは、周囲の景色が歪んでいるのが原因だ。

「あの景色が歪んでるのって……」

「異界化による空間歪曲、だな」

 高橋の呟きにベルトールが頷く。

 異界化。

 それは空間上に異常を来す空間変動の一種である。

 異界化すると、その空間上に元々存在していた物が、機能を有したまま狂う。

 新宿市の地下ではアースの旧新宿駅とアルネスの旧ネルドア地下大聖堂が現想融合(ファンタジオン)の際に異界化し、新宿駅の姿を狂わせた巨大で異常な迷宮を構築するに至った。

 そして空間歪曲は異界化によって生じた空間の歪みであり、物理的な干渉ができなくなった空間の状態を指す。

 天を覆う分厚い雲やそれに伴う気温の低下といった気候変動や、ゴアール市を覆う鉱山の隆起といった地殻変動等と同じく、現想融合(ファンタジオン)という大災厄で二つの世界が融合した際に生じ、空間に残された爪痕の一つである。

「見た感じ、横浜市全体を覆ってるっぽいね」

 空間歪曲は大小存在するが、都市を丸ごと覆う規模の空間歪曲を見るのは高橋も初めてだった。海上で異界化が発生していた為なのか、空間歪曲以外の異常は見受けられない。

 陸路、空路、海路問わず歪曲が存在するルートは輸送コストの増大を招く為に空間の矯正が必要になる事が多いが、この規模の空間歪曲はそれも難しい。

 横浜市とは、海と空間歪曲によってできた、まさに絶界の孤島である。

「あそこに六魔侯の一人、黒竜侯シルヴァルドさんがいると」

 高橋の言葉にベルトールが頷いた。

「うむ。どうやら随分長い期間あの場から動いていないようだな」

「あんな隔絶された場所でよく自活できてんなあ。ところであれどうやって行くの? 物理的に行き来できなくない?」

「それをこれから探ろうと思ってな」

「なるほど、聞き込みだね!」

 その時だ。

「イイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!」

 大きな叫び声と共に衝突音が繁華街の方面、牌楼の付近で響いた。

「きゃあああああああ!」

「うお!? 危ねえ!」

 人々は皆一様に頭を抱えて低い姿勢でその場から退避していく。

「おーおー、見ろ高橋、事故だぞ」

「アチャー。空走車(フライトビークル)が建物に……」

 一台の単車型空走車(フライトビークル)が、建物の一室に突っ込んでいた。

 瓦礫と硝子が舞い落ち、通りに降り注いでいる。前方不注意か、あるいは機体の不備か、事故の原因は定かではない。

 喧騒の中から、通行人の話し声が高橋の耳に入ってくる。

「さっきの事故、どうも乗ってた奴、薬物依存症っぽいな。事故る前の挙動が完全にラリった時のそれだったし叫んでたし」

「最近多いよなぁ……その手の事故とか事件。スクリームってそんないいもんのか?」

「さぁなぁ。薬なんて大抵身体ぶっ壊すし、やらないにこしたこたねえよ」

「俺らにゃ安心安全な電薬(テクノ)があるしな」

「ちげえねえ、ギャハハハ!」

 言って、話していた二人はがっちりと握手をした。

 その話をベルトールも聞いていたらしい。

「スクリーム?」

 と、高橋に訊ねる。

「数年前から増えだした薬の名前だね」

「ふむ……」

「電薬(テクノ)じゃなくてちゃんとした違法薬物(イリーガル)。原料になってる赤マンドラゴラ自体が栽培禁止にされてんだよね。マンドラゴラって一口に言っても何種類も存在するけど、違法薬物の材料となるのがその赤マンドラゴラなの」

 高橋は己の知識を補足するように、高速でファミリアの検索エンジンを起動、スクリームについての情報を流し込む。

 言ってしまえばニュース記事を読み上げているだけなのだが、ベルトールに良い格好をしたいという安っぽい見栄である。

「ふむ、なるほど。薬か……余らには関係のない話だな」

「だね。んでどっから聞き込み行く? ゲームとかだと酒場だよね。行くか、酒場に!」

「いや、別にそこらの者に訊けばよかろう」

「あれえ? こういう時ゲームを参考にした行動するんじゃないのお?」

「ふーやれやれ、余がゲームばかりしているゲーム脳だと思っているのか?」

「それは結構思ってる」

 高橋の言葉を軽くあしらって、ベルトールは埠頭の縁に腰を掛け、小汚い格好をして釣りをしているドワーフの老人へと話しかける。

 海は夜の闇が滲んで暗く、中は見えないが、海面には汚物のようなものが膜を張り、大小様々なゴミなどが漂流している。

「釣れるか?」

「いいや。こんなもんばっかだな。糸を垂らして海を眺めてるだけさ」

 老人が笑いながら片手で叩くのは、大きめの瓶のような容器だった。

 中には粘度の高そうな赤い液体と、海綿状になった萎びた果実のようなものが入っており、容器の側面には漢字とアルファベットと数字の書かれたラベルが貼り付けてある。

「なんだそれは」

「さあなぁ。たまにこの辺に流れ着いてくるんだ。中身は海に捨てて、瓶だけ貰っとる」

「ふむ……」

 ベルトールは、顎で海の向こうに見える横浜市を指す。

「一つ訊ねるが、あそこに行く方法は何かないか?」

「……なんだお前さん、あそこに行きたいのか?」

「うむ」

 首肯するベルトールに、老人は竿の先を見つめながら困ったように頬を掻く。

「事情は知らんがやめときな、としか言えねえな。俺もここに来て長いが……あそこに行こうとした物好きは何人か知っている。でも帰ってきた奴は一人も知らない。俺が知ってるんのは、あそこは昔、この都市の前身の一部だったって事くらいだ」

「その口ぶりからするとあそこに行った者もいた、という事か?」

「そいつらが実際に辿り着いたかどうかも知らんよ。だがそうさな……あそこに行けるかどうかって話なら、不可能じゃないかもしれねえな」

 老人の言葉に、高橋が首をかしげる。

「ん? 行けんの? 空間歪曲で入れなさそうだけど」

「こいつはどこから流れ着いたと思う?」

 言って、老人は容器の蓋を指で叩く。

「え? この流れからするともしかして……」

「そう。こいつはどうも横浜市から流れ着いてきてるんじゃないかって話なんだ」

 それを聞いて、ベルトールは合点がいったように声を上げた。

「なるほど、その容器が横浜市から流れてくるのが本当だと仮定すれば、空間歪曲という一枚の幕で都市全体を覆っているように見えて、その実大小無数の空間歪曲が重なって形成されているのだろうな。空間歪曲生成の理屈からいえばむしろそれが当然か」

「横浜市(あっち)からゴアール市(こっち)に輸送船が来てるっつー噂もあるから、本当なら船が通るくらいの隙間もあるってわけだ。それに上空の方まで覆ってるわけでもねえ、俺も何度かあそこに小型の飛行艇が行き来してるのを見た事あるからな」

「船が来るという事はどこかで横浜市の船が停泊するのか?」

 ベルトールの言葉を受け、老人は頷いて倉庫街の方を指差す。

「危ねえから俺は近づかんしよく知らんが、どうもこの先に横浜市が所有してる港と倉庫があるらしい。でも行くのはおすすめしねえぞ。この辺り取り仕切ってるヤクザ・ギルドの縄張りの中だし、勝手に入りでもしたら殺されっちまっても文句は言えねえからな」

「大丈夫だ、問題ない。情報感謝する、助かったぞ」

 老人に礼を告げ、二人はその場を去った。

 そして向かう先は老人が指差した先、倉庫街だ。

 人気がなく、灯りも乏しい倉庫街を、ベルトールと高橋は並んで歩く。

「んでさ」

 と、高橋が口を開いた。

「これもしかしなくても横浜市所有の港だか倉庫だか行く感じだよね?」

「うむ。今日は情報収集だけのつもりだったが、期せずして収穫があったからな。ちょうど其方も来ていた事だしこのまま偵察に向かう」

「マキナとか緋月とか呼んでこなくていいの?」

「偵察に何人も必要なかろう。人数が増えれば増えるだけ目立つ」

「そりゃまあそうなんだけどさ……」

 高橋に戦闘能力はほとんどない。

 放出魔力量も保有魔力量も平均以下であり、身体能力も並である。ファミリアに攻撃魔法はインストールしてあるが、あまり使う事はない。

 ファミリアは、古くは選ばれし者だけが専有していた魔法という神秘を万人が扱える技術にしたが、全てのヒトが全ての魔法を自在に使えるようになったわけではないのだ。

「偵察に限って言えば余と其方の編成が人数と対応力のバランスが最も良い」

 一応信頼して貰っているのだろうと、高橋は前向きに捉える。

 自分にできる事は後方支援であり、戦闘面ではベルトールとて最初から期待していないだろう。

「んじゃあいっか」

 ――高橋はこの数時間後に、自分がこう発言したのを後悔する事となる。

 ほどなくして、二人は目的の場所に辿り着いた。

 高いフェンスで行く手が阻まれており、物々しいゲートが一つ。

「『高圧電気注意』『ここより先横浜市領土につき立入禁止』『フェンスに近づく場合警告なしに発砲する場合があります』と。物騒だねぇ」

 どの看板にも、隅に波止場用心棒組合(バウンサーギルド)とサインがある。

 ゲートの周囲には何台もの監視カメラとガード用のマギノロイドが二体、狭い守衛室の中で監視カメラをチェックするはずのオーガの守衛が椅子に座って船を漕いでいる。

「高橋」

 その一言だけで高橋はベルトールの意図を汲み取れる。

 ゲートを開けろ、そう彼は言外に告げているのだ。

 染まってきてんなー、と高橋は思いつつも、悪い気はしない。

「ベルちゃんがあたし抱えて飛び越えちゃ……うのはまずそうだね。結界ありそうだし」

 職業柄、高橋はこういった警備が厳重な建物や区画に入る事も多い。

 そして高橋の経験上、往々にしてこういった所には感圧、魔力反応、他にもいくつか複合した結界が張られているのである。

 この手の防御能力を持たない探知に特化した結界は物理的に侵入を拒まない分、解呪もすり抜けも難しい。

「できなくはないが、其方がいるのだから正面から入るのが正道であろう。それに力押しばかりでは余のステルススキルも育たんからな、ステルスゲーなのに何故か毎回無双ゲーになってしまうと評判だ」

「後半は無視するね。オッケー、ボス」

 彼女、高橋は霊竄士(エーテルハッカー)だ。霊竄士(エーテルハッカー)のやる事といえば一つしかない。

 霊竄(エーテルハック)である。

「フタバちゃーん、よろしくー」

 高橋は自身の持つ三体の人造精霊の内の一体、フタバをファミリア内で起動する。視界の隅で美少女アバターが立ち上がり、忙しなく小さなウィンドウを開閉している。

 フタバは情報処理全般を担当する人造精霊だ。市販のファミリアに標準的に搭載されているタイプのものを、個人的にカスタマイズしたものである。

 フタバが周囲の機械やファミリアの通信状況をキャッチし、仮想ディスプレイ上に表示される。視界内で、エーテルネットワークで相互接続されている機械が様々な色の光の線として可視化され、飛び交っている。

 ゲートの開閉は守衛室側で一括管理されており、それ以外の通信は一切遮断されている。エーテルネットワークから守衛室の中へ直接アタックを仕掛ける事はできない。

 逆に言えば、守衛室さえ掌握してしまえばいいだけの話だ。

「ま、基本に忠実だわな。アオイー」

 次いでアオイを呼び出す。フタバの隣に、別のアバターが表示される。

 アオイは映像や視覚の改竄に特化した人造精霊だ。

 通常、二体以上の人造精霊を同時に起動すると、ファミリアのハングアップや強制終了だけでなく、脳に強い負荷が掛かり、最悪の場合死に至る。

 だが高橋の脳が持つ高い処理能力は、三体までの人造精霊の同時起動を可能にした。古い時代の魔導士としての才はないが、彼女には現代のウィザードの才が備わっていた。

 エーテルネットワークから切り離されているのはゲートのセキュリティだけで、監視カメラとマギノロイドはオンライン状態になっている。

 フタバによって経路を割り出し、監視カメラとマギノロイドをエーテルネットワーク上からハッキングして侵入。どことも知れない民間警備会社の防壁など、高橋からしてみればあってないようなものだ。

「んー、ちょろいね」

 難なく監視カメラとマギノロイドのセキュリティを突破し、アオイによって改竄されたループ映像に差し替え、マギノロイドの聴覚センサも狂わせ、高橋とベルトールの姿を認識できなくする。

 高橋は堂々と守衛室に向かって歩いていく。マギノロイドの視界内に入っているが、今の高橋は透明人間と同義だ。

 全く反応されないまま守衛室の扉を開け、居眠りをしている守衛のファミリアの背後に立つ。守衛は全く起きる気配がない。

 守衛のファミリアは、ゲートの制御端末と有線接続されていた。守衛のファミリアからの認証がなければ、開かないシステムになっているようであった。

 感知結界といい、港の倉庫のセキュリティにしてはかなり厳重だ。が、末端の意識の低さまではどうしようもなかったようだった。

「よっと」

 ジャケットのポケットからファミリアの接続端子付きケーブルを取り出して自身のファミリアに接続、眠っている守衛のファミリアの空いているソケットにケーブルの端子を差し込み、有線接続をする。

「んがっ!? な、なんだぁっ!?」

「おっと、面倒だから起きないでくれ給えよ」

 端子を差し込んだ瞬間に起きてしまった守衛に、有線接続で直接催眠(スリープ)の魔法を流し込む。

「はうっ」

 そのまま糸が切れた人形のように、守衛は再び強制的に眠りについた。

 霊竄術も万能ではない。エーテルネットワークから切り離されたものに対してはどうやっても接続できないので、こうして物理的なケーブルを媒体として有線接続が必要となる。

 そもそもが無線で論理防壁を難なく突破する高橋の腕前が異常なのであって、霊竄士(エーテルハッカー)はソーシャルハックや有線接続を用いるのが基本だ。

 そして有線で接続さえしてしまえば論理防壁もほとんど意味がなくなり、丸裸も同然になり、魔法の効果は覿面となる。

「あたしなんかが直接催眠(スリープ)使っても防がれちゃうけど、有線接続してるなら一発で寝落ちしちゃうんだもんねえ」

 高橋のファミリアと守衛のファミリアを繋ぐケーブルは霊素による擬似神経と同等のものが生成され、高橋のファミリアから守衛のファミリアを直接操作可能となる。

 守衛のファミリアを介して制御端末に接続。トラップを警戒しながらゲートの制御権を掌握し、拒むように閉じていたゲートが、迎え入れるかのように自動的に開いていく。

「うむうむ、任務完了」

 守衛のファミリアに接続していた方のケーブルの接続部をジャケットの裾で拭いながら、高橋は守衛室から出ていく。

 地味な仕事だ。と高橋は自覚している。

 新宿市でベルトールの信仰力を上げた時のような、派手な仕事の方が稀だ。霊竄士(エーテルハッカー)の仕事なんていうのは地味で気付かれない程にいい腕なのである。

 ただそれと彼女の持つ自己顕示欲や承認欲求を満たしたいという気持ちがなくなるわけではないし、彼女も割り切っているつもりだった。

「鮮やかなものだな」

 守衛室の側で待機していたベルトールが、高橋に感心したような声をかける。

 だから――こうして自分の仕事をベルトールに褒められるというのは、彼女にとって得難い喜びなのでる。

「まねー」

 気恥ずかしさを隠しながら、高橋は普段どおりに言う。

「でもこんくらいはあたしじゃなくても誰でもできるよ」

「謙遜をするな、其方の腕前は良く知っている。よくやった」

「……ま、こういう簡単な事ならいくら振ってくれてもいいんだけどさ」

 この男に頼られる、任されるという事に彼女はえも言われぬ幸福感を覚えていた。

「うりうり」

「なんだ急に……」

 恥ずかしくなった高橋に肘で脇腹を突かれ、ベルトールは鬱陶しそうな視線を向ける。

「まったくもーあたしがいなきゃベルちゃんなんにもできないんだから」

「ふっ、余を侮るなよ? 余とて常に成長を続けている男、其方程ではないが、霊竄の基本くらいは勉強している」

「ほんとー? あたしの仕事なくなっちゃうじゃーん。んで、こっからがゴアール市じゃなくて横浜市の領地なんだ」

「そのようだな」

 言いながら、二人は境界を超えた。

「横浜市の領土っていうけど……当然ながら別にゴアールと変わらんね」

「そうだな、とりあえず周囲にヒトの気配や魔力の反応はないが」

 そのまま一番近い倉庫の中へと入る。

 倉庫には粗末なコンテナボックスがいくつも並んでおり、他にはこれといって目立つものはない。

 高橋がコンテナボックスの前に駆け寄り、縁に手を置いてぴょんぴょんと跳ねる。

「中身なんだろーねこれ」

「開けてみるか」

「おっいいねえ」

 単純な魔法と物理の二重錠しか掛けられておらず、ベルトールは魔力を込めて素手で二重錠を引きちぎり、コンテナボックスを開く。

「ん……?」

 高橋が覗くと、中には細かな赤い結晶が入った透明の袋が大量に詰め込まれていた。

「これって……」

 袋を手に取り視覚情報から人造精霊が検索を掛け分析を即座に開始。

 すぐに結果が出た。

「中身の成分を分析しないと確定とは言えないけど、これ多分スクリームじゃ……」

「ふむ……どうやら少しずつ見えてきたようだな」

「じゃあ、スクリームの輸出元って……横浜市……?」

「ああ、恐らくヤクザ・ギルドが横浜とゴアールのブローカーを――」

 そこで、だ。


「警告します」


 背後から機械的な音声が響いた。

「ここは父祖の支配領域です。父祖の許可なく支配領域に立ち入っており、逮捕、連行、勾留、裁判の対象となります。抵抗する場合は神罰が執行される事となります」

 高橋が振り向くと、そこにいたのはIHMI製の戦闘用マギノロイドが数機。自動小銃型の魔導銃を構えている。

 だが覆皮(カバースキン)もない旧式の人形型(ドロイドタイプ)、第二次都市戦争時に投入された骨董品だ。外にいた警備用マギノロイドの方が数段マシである。

(さぁベルちゃんっちゃっちゃと無双して片付けちゃって!)

 この程度、ベルトールの相手ではない。それどころか、高橋だけでも対応できる。

 ベルトールを横目で見ると、何やらPDAをタッチ操作している。

(この状況であってもPDAいじってるなんて、流石に余裕だね!)

 PDAの操作が終わったらしく、ベルトールは口を開く。

「よし」

 だが彼の口から出た言葉は、高橋がまるで予想していないものであった。


「わかった、投降しよう」


 ベルトールは両手を挙げて、膝をつく。

「うんうん。え?」

 完全な無抵抗。

 降参の姿勢。

「ええええええええ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!?」

 倉庫の中、高橋の叫び声が響き渡った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る