幕間

 大きな災厄があった。

 それは突如として人々の頭上、天高くに出現した。

 世界にできた“虚(うろ)”。

 経度、緯度、標高、海抜、自転、公転、あらゆる要素を無視して、その“虚”は生命体の上に現れた。観測できる“虚”は一つだけ、だが地上のあらゆる存在が視認できた。

 それが前兆。

 次いで起きたのは揺れだった。

 地震大国と呼ばれる国に住む住民であっても――或いはだからこそ――異様を認識できる空間の揺れ。

 そうして二つの異なる世界は融合した。

 二つの世界を巻き込んだその大災厄に、まだ名前が付いていない頃。

 大災厄の影響によって引き起こされた地殻変動と空間湾曲で、陸地と隔離されてしまったとある『島』に、取り残された人々がいた。

 異なる世界の人々は、突如起きた大災害に不安に蝕まれ、未来に絶望していた。

 もう自分達は助からず、世界は終わるのだと。

 その中で、一人の男が演説をしている。皆を勇気づけるように。

「これは、神が与え給うた試練なのです」

 そう男は言った。

「終末が訪れ、人類は滅び、我々は救済の舟に乗り損ねてしまった」

 笑顔で必死に語りかける男の声に、人々は少しずつ耳を傾けていった。

「ですが必ず、救われます!」

 身振り、手振りが聞く者の目を、耳を、そして心を惹きつける。

「だからその時まで、絶望せずに共に手を取り合って協力しましょう! 話す言葉が、肌の色が、主義主張が、信じるものが、種族が違う事がなんだと言うのです! 我々には心がある! 全員の魂に、高次元の存在へと成る権利があるのです!」

 男の演説に拍手が起こった。

 だが男はわかっていた、頭の中と心は冷え切っていた。

 ここにいる全員を生かすだけの物資は、この場所に存在しないことを。

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