最弱でビビりな主人公が龍の刺青を彫られて・・・訳あり無双系主人公に!!

トンテンカン

第1話 女と入れ墨と大乱闘

この世は、己の肉体が強ければ強い者ほど・・・“富” “名声” “女”なんでも手に入る一攫千金の武術の時代


子供からお年寄りまで武術を習い、国民全土がカンフーの心得を持つ、この世界でワタシは、駆け上がってやる!


こんな底辺で惨めな場所からおさらばしてみせる!!


「・・・・・・絶対に!!」


「―――オイ!新入り!!独りでブツブツ、ブツブツ言ってないで手を動かしな!皿洗い終わんないよ!!」

「ハイ、すいません!バイトリーダー!!」

床や壁、天井まで油まみれの汚い厨房で女は、元気良く返事をする


「何度、言ったら覚えるんだい?あたしは、バイトリーダーじゃなくて社員なんだよ!!あんた仕事は、出来ないし役職もいつまで経っても覚えない・・・!!」

小肥りのおばさんが頭を抱える


「店の皿を何枚割れば、仕事を覚えられるんだい?」

「コツは、掴かんだネ!あと200枚くらいで・・・」

「―――まず罪悪感を覚えな!!」

仕事覚えの悪い新入りにキツく怒鳴り付ける


「・・・はぁ~・・・あんた、名前は、簡幸ガンシンって言ったかい?あんた見てくれは、良いんだから客席へ料理を運んどくれ!!」


ワタシは、この社員おばさんの言う通り!

見た目には、自信がある!!


スリットの入ったセクシーなチャイナ服を着こなせるナイスバディに!爽やかなショートカット!!こんな可愛い女の子を人目につかない、凍りそうな冷たい水しか出ない洗い場で皿洗いさせるなんて・・・


―――宝の持ち腐れネ!!


ワタシは、表舞台ホールでこそ輝くヨ!!


「・・・わかったヨ!!」

社員のおばさんの指示に従い、洗い場から離れる


「―――うわっと!?・・・あ、危ない!新入り!!」

「・・・避けなっ!簡辛ガンシン、大火傷するよ!!」

床が油でヌルヌルしてた所為で従業員が足を滑らせて熱々のあんとチャーハンが同時に宙を舞い、簡辛ガンシンの頭上へと落ちていく


「―――ほいっと!・・・この餡掛けチャーハン、どの席に運べばヨロシ?」

空中でバラバラになったチャーハンの米粒と熱々の餡を一滴も床に落とさずに大皿で綺麗にすくい取った簡辛ガンシンが何事もなかったかのように訊ねる


「・・・さ、3番テーブルだよ!」

「―――わかったヨ!!」

そのまま3番テーブルへと運んで行く


「・・・ふ~!・・・あ、危ねぇ~!!もう少しで大事故になるところだった!!」

「そうだよ!バカタレ!!間一髪だよ!!・・・でも、あの子!良くこのツルツル滑る床の上であんな芸当が出来たもんだよ!!」

「だよな!長年働いてる俺達ですらたまに転びそうになるのに・・・初日で滑らずにあの動き・・・!!」

簡辛ガンシンの身のこなしに感心する



大勢の客で賑わい活気溢れる店内


「「―――ぎゃはははーーー!!!」」

「お待たせ~!餡掛けチャーハンネ!!」

簡辛ガンシンが3番テーブルで気分良く大笑いして、お酒を飲んでいる男達の席へ料理を届ける


「・・・何だ?姉ちゃん、見ない顔だな!新入りか!?」

「・・・うん」

「この店は、料理は、絶品だが・・・店員がブスでしょうがねぇ~!ちょっと近くに来い!チップくれてやる!!」

「わぁ~!社長さん、ステキ~!!」

髪の毛が薄い男性客が財布から金銭を取り出し、いやらしく、簡辛ガンシンの胸と胸の間にお金を入れてくる


「次、運んで来る時もお前が来いよ!!」

「は~い、喜んで~!!」

横柄な態度で指図するハゲ頭に笑顔を見せ、ホールの端へと下がる


「・・・ちっ!胸を触ってこれっぽちか・・・!!」

胸元に入れられた金額を確認するがあまりの少なさに愕然とする


「・・・ま~ 良いネ!本命は、盗ったし!!」

セクハラされる前にハゲ頭の客から盗み取った分厚い財布を手に取り、中身を確認する為に一度ホールから離れる


「・・・それより、聞いたかよ?この世には、何の苦労も努力もせずに強くなる方法があるんだとよ!!」

「お前、呑み過ぎだ!さっきのセクハラといい、そんな話がある訳ねーだろ!!」

男性客2人が話の続きを大声で喋り始める


「まー聞けっ!!」

グラスに入ったアルコールを一気に呑み干し、周りの客に聞かれないように小声で話し始める


「何のリスクもなしに、そんな“力”を得られる訳じゃない!―――ある条件をクリアした者にだけ力が宿るんだ!!」

「・・・・・・続けて!」

呑み干したグラスにアルコールを注ぎ、話の続きを催促する


「あるに出会い、入れ墨を彫って貰わないとダメなんだ!!」

「・・・?・・・わからんな?その“力”と“入れ墨”に一体、何の関係があるんだ!?」

ハゲ頭の話が理解できずに首を傾げる


「武術の拳法の中に象形拳しょうけいけんという動物の動きを模様した拳法があるのは、有名な話だよな?」

「あぁ~カマキリの動きを模様した蟷螂拳とうろうけん!蛇の動きを模様した蛇拳じゃけん!―――だが!それは、何十年ものの血の滲む修行をして、その中でもほんの一握りの達人にしか体得できない奥義!!」

「詳しいな~!・・・そうだ!その奥義を入れ墨を彫って貰うだけで体得できるんだよ!!」

興奮したハゲ頭の声のボリュームがどんどん大きくなっていく


「・・・はっ!しょうもない!!そんな話しデマだよ!デ・マ!!入れ墨を入れるだけで強くなれるんなら・・・この左腕に入れている俺も拳法使えるってことだよな!!」

左腕の袖を捲り上げると大きくて便りなるという意味で大便という文字が彫られている


「そんなゴロツキやチンピラが入れているタトゥーなんかとは、違うんだよ!その辺にいる彫り師なんかじゃなく!に出会わないと!!」

「・・・伝説の・・・彫り師・・・?」

「その伝説の彫り師に入れ墨を彫って貰えれば、超人的な肉体を手に入れ、人間離れした力を得られる!!・・・その入れ墨の名は!!」



―――悪魔デビルズ刺青モンモン―――


「・・・で、悪魔デビルズ刺青モンモン!!」


悪魔デビルズ刺青モンモンに描かれた動物の力を授かり修行なしで象形拳しょうけいけんをマスターすることが出来るんだ!!」

「マジかよ!?スゲーな!!」

「驚くのは、まだ早い!その悪魔デビルズ刺青モンモンを彫れる伝説の彫り師をこの村で目撃したんだ・・・!!」


「―――その話、詳しく聞かすゲロ!!」

小太りでスキンヘッドの男が割って入ってくる


「何だ、おっさん!酔っ払いか?・・・でも出歯亀は、良くないぜ!―――パチンっ!!」

ハゲ頭が指を鳴らすと店の中にいた屈強な用心棒達が立ち上がりスキンヘッドの男を取り囲む


「亀じゃないゲコ!蛙ゲロ!!」


「「―――なっ!!?」」

スキンヘッドの男が話し終えると同時に用心棒達が一斉に倒れる


「・・・こ、この用心棒は、名の知れた武術家だぞ!?」

「そ、それを一瞬で!?・・・何をしたんだ!!」

スキンヘッドの男が何をしたのか理解できず、店内の客達がざわめき始める


「―――お客様、申し訳ございません」

厨房から痩せ干せた年寄りの料理人が仲裁にやって来る


「ここは、お客様の胃袋を満たす場!他の皆様の御迷惑になります!!」

「老いぼれは、引っ込むゲロ!!」


「老いぼれですか・・・―――フンッ!!」

全身に力を入れるとさっきまでの姿とは、打って変わって、ひ弱そうな身体が筋骨隆々の肉体へと変化する


「これなら文句は、ないでしょ?私は、この身1つで猛獣を狩り肉を卸しています!悪いことは、言いません!今日のところは、お引き取りを・・・!!」


「「「―――オォォォーーー!!!」」」

頼もしい料理人の姿に店中が興奮の渦に包まれる


「私の眼の黒い内は、この店では、好きには、させませんよ!!」

「・・・そうゲロか~・・・黒い内は、ね・・・!!」

「―――ふぐっ!!?」

屈み込んだスキンヘッドの男が跳び跳ねた勢いそのままに料理人のアゴ下へアッパーを入れて、高い天井へと料理人の上半身を減り込ませる


「ゲロロロ~!!これで眼の色は、黒じゃなくなったゲコ!俺様の好きにさせてもらうゲロ!!」

Tシャツを脱ぎ捨てて上半身が露になる


「・・・い、今の超人的なジャンプ力!背中の蝦蟇ガマの入れ墨!!・・・ま、間違いねぇ~!コイツ、蝦蟇蛙ガマガエル盗賊団、団長だぁぁぁーーー!!」


「「「―――ぎゃぁぁぁーーー!!!」」」

料理人が一撃で倒され、スキンヘッドの男の正体が解り、店内が大パニックに陥る


「・・・こ、ここ、コイツが大陸一の盗賊団を束ねるジャクシか~!!」

「に、逃げないと・・・!!」


「―――待つゲロ!!」

「・・・ぐっ!・・・ぐ、苦しい・・・!!」

ジャクシが天井へ届く程の長い舌を伸ばし、屋根を支える柱へ巻き付け、逃げる男の首を締め上げて、宙吊り状態にする


「・・・ひっ、ひぃぃぃーー!!・・・こ、この超人的な力は、悪魔デビルズ刺青モンモンだぁぁぁーーー!!」

連れの男が腰を抜かして悲鳴を上げる


「ゲ~ロゲロゲロ・・・!!ゲロ?お前には、さっきの話の続きを喋ってもらう!喋らなければ・・・こうだっ!!」

「―――ぐへっ!!」

宙吊りになっているハゲ頭の腹を殴り付ける


「早く喋らないと・・・この人間サンドバックが窒息するゲロよ!!」

「や、やめてくれーー!!」

ジャクシへ連れの男が頭を下げ、懇願する


「・・・ア~ララ!!」

戦利品サイフを確認し終えた簡幸ガンシンが声を漏らす


店内が騒がしくて様子を見に来てみたら悪魔デビルズ刺青モンモンを持つ男が暴れてんじゃん!?


コイツら何って言ってたっけ?

・・・蝦蟇蛙盗賊団?


そういえば、聞いたことアルネ!

この地域では、有名なワルだって・・・!!


店長も天井に突き刺さってるし、バックレるなら今の内かな・・・


「殴られて死ぬのが先か?窒息するのが先か?楽しみゲコ!!」

再び宙吊りのハゲ頭を殴ろうとする


「や、止めろ!止めてくれ!!誰か助けてくれーー!!」


こんな状況で悪魔デビルズ刺青モンモンを持つ人間相手に立ち向かう奴は、本物のアホか損得勘定で物事を考えない物語の主人公ヒーローぐらいネ!!



『―――弱い者イジメは、止めろっ!!』


「「「――――っ!!!」」」

店の外まで響き渡る程の大声に全員が仰天する


「・・・誰ゲロ?」

声のした方へ振り向くと一番奥の席に座る、全身が隠れる程のフードを羽織り、右手を高々と上げ、首を全力で横に振る男の姿が・・・


「・・・お、お前が・・・言ったゲロか?」

「―――すいません!!!!」

両手を前に出し、変わった否定の仕方をする


「・・・・・・!!」


・・・あっ!

あの客は、ワタシがさっき接客した・・・


―――物語は、この男が入店する前へと遡る―――

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